第17話 私の為に色々と動いてくれていた様です

グレイ様のお誕生日から1週間が過ぎた。あの後すぐに私の誕生日を聞いてきたグレイ様。実は先月既に18歳の誕生日を迎えていたことを伝えると、物凄く残念そうな顔をしていた。


それでも


“遅くなったがこれ、誕生日プレゼントだ”


そう言って、可愛らしいブレスレットとネックレスをくれた。そして、おしゃれなレストランに連れて行ってくれた。


“来年はきちんと祝うから。本当にすまない”


そう言って何度も頭を下げたグレイ様。来年…その言葉が心に響く。グレイ様はきっと、あまり深く考えずに言ったのだろう。それでも私は、未来の約束が出来る事が嬉しくてたまらない。来年も一緒に、いられるといいな…


そしてグレイ様の誕生日パーティーで仲良くなったリンダさんの家に、先日遊びに行かせてもらった。コメットさんとの話も色々と聞かせてもらった。子供の頃からずっと一緒に居て、一緒にいる事が当たり前だった事。10歳で離れ離れになり、寂しくて何度も泣いた事。そしてやっと結ばれた事。


嬉しそうに話してくれるリンダさん。実はリンダさん、コメットさんが村を出る際に受けた告白を断ったらしい。ずっと一緒にいすぎて、その時はコメットさんの大切さがわからなかったらしい。でも離れてみて、やっぱりコメットさんが好きだとわかり、自分から会いに行ったとの事。


“幸せは待っているだけで中々訪れないもの。自分から掴みに行かないとね”


そう言って笑ったリンダさん。その言葉が胸に響いた。よく考えてみたら、私は今まで自分から行動したことがあっただろうか…デビッドの時も、向こうから近づいてきたし。食堂で働きだしたのも、デビッドが“何か仕事でもした方がいいんじゃない?”そう言ったのがきっかけだ。


今の生活だって、グレイ様のご厚意で置いてもらっている。“ずっとここに居てもいい”と言ってくれたグレイ様の言葉に甘えて…


本格的にグレイ様との事を考えるなら、いつまでもこの家にお世話になっている訳には行かない。きっとグレイ様にとって、私は妹の様な存在なのだろう。妹ではダメよね。そろそろ独り立ちして、妹から脱出しないと。そうは思っても、中々重い腰が上がらない。本当に情けない。自分の弱さに、ため息が出る。


結局まだ行動に移せないまま、今日もグレイ様と一緒に夕食を食べる。相変わらず私のお料理を美味しいと言ってくれるグレイ様。その姿を見ると、やっぱりまだこの家に居たいと言う気持ちが大きくなるのだ。


食後、グレイ様に誘われて一緒にティータイムだ。手作りケーキとお茶を出し、ソファーに座った。


「スカーレット、実は君に話さないといけない事があるんだ」


急に真剣な表情になったグレイ様。まさか好きな人が出来たから、家から出て行ってくれとかかしら?一気に不安になる。そんな私に気が付いたのか


「そんなに不安そうな顔をしないでくれ。でも、君にとっては辛い話かもしれない。実は君の元夫、デビッドの件なんだが、色々と調べた結果、君のご両親が残した遺産を全てあの女に使い込んでいた。その調査報告が昨日届いた」


そう言うと、私に分厚い資料を見せてくれた。どうやら両親はかなりの遺産を、私に残してくれていたらしい。でも、ほとんど使われていて残っていない様だ。


「本来スカーレットしか引き出せないお金を、キャロリーナと言う女が君のふりをして引き出したらしい」


「そんな事、出来るのですか?」


さすがにそんな事は出来ないだろう。そう思ったのだが…


「通帳と夫でもあるデビッドの身分証明書で引き出せたらしい。ただ、本来は本人も身分証明書を提示しないといけないのだが…どうやら銀行員に協力者がいたらしい。その協力者に、多額のお金を渡している証拠も出て来た」


「随分と面倒な事をしたのですね。でも、どうして私を連れて行かなかったのでしょうか?その方が手間もかかりませんのに…」


「君に両親の遺産がいくらあるのか、知られたくなったのだろう。そもそもあの男、仕事もせずに君の両親の遺産で買い与えた女の家に入り浸っていたらしい。スカーレットが稼いだお金で、ほぼ生計を立てていたのではないのかい?」


「確かに、デビッドの働いたお金は将来の為に貯金をして、私の働いたお金で生活をしようと言われておりました」


まさか毎日出掛けては、あの女性の家で生活をしていたのか…正直昔の私なら発狂していただろうが、今は話を聞いても、あぁ、なるほどとしか思わない。でも、まさか両親の遺産を使い果たしていたなんて…


「本当にどうしようもないクズだな。それで、本題に入ろう。要するに、デビッドと今の妻は、本来君のお金でもあるご両親の財産を勝手に使った。たとえ夫婦であっても、個人の財産を使う権利はないにも関わらずだ。要するに、泥棒という事だな。さらに、スカーレットの私物まで売り払った。そうそう、残りの2点も昨日買い戻した」


そう言って机の上に、ブレスレットとブローチを置いた。間違いない、私のものだ。まさか全て買い戻してくれるなんて。


嬉しくて、ブレスレットとブローチをギューッと抱きしめた。本当にグレイ様には感謝しかない。感動している私をしり目に、さらに話を続けるグレイ様。


「それで、デビッドと妻のキャロリーナを窃盗で訴えたいと思っている。もちろん、スカーレットの両親の遺産も、売り払ったスカーレットの私物の買い取り費用も全て請求するつもりだ。でも、訴えるのは実際に被害にあった君しか出来ない。スカーレットがどうしても元旦那を訴えたくないと言うなら、それでもいいと俺は思っている。それで、君はどうしたい?」


「私は…」


急にデビッドとその奥さんを訴えると言われても、頭が付いていかない。


「すまない、急にこんな話をしたから、頭が混乱しているよな。とにかく一度ゆっくり考えて、結論を出して欲しい」


そう言って私の手を握ったグレイ様。その温もりを感じたとたん、今までの動揺がスーッと消えていく。


「グレイ様、私の為に動いて下さり、ありがとうございます。一度ゆっくり考えてみますわ」

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