第13話 彼女への思いが増すと同時に元夫への怒りも増していく~グレイ視点~

スカーレット殿が家で生活すると決まった夜、中々寝付けなかった。ずっと憧れていた女性が、今俺の家にいる。その事実がまだ信じられなかったのだ。


そして翌日、俺を笑顔で見送ってくれたスカーレット殿。その笑顔を俺だけに向けてくれていることが嬉しくてたまらなかった。幸せな気持ちのまま、騎士団の稽古場へと向かう。無意識に鼻歌を歌っていた様で


「お前、ついに頭がイカれたのか…」


そう呟いたフィル。本当に失礼な奴だ。早速フィルに今家にスカーレット殿が住んでいると言おうと思ったのだが、そんな事を言えばスカーレット殿が元旦那に追い出された事がバレてしまう。とにかく、スカーレット殿のマイナスイメージになる様な事は控えないと!


そう思っていたのだが…


いつもの様に食堂に向かうと、なんとあのクズ男があろう事かスカーレット殿を追い出し、別の女性と結婚したとみんなに言いふらしていたのだ。体中から怒りがこみ上げてきた。そんな中、騎士団員がスカーレット殿に、家を紹介すると言い出したのだ。


それを聞いた瞬間、つい


「スカーレット殿は今俺の家で面倒を見ているから、そんな気遣いはいらん!」


そう叫んでしまった。叫んだ瞬間、しまった!と思ったが、時すでに遅し。とにかくスカーレット殿が、俺の家に来た経緯を必死に説明した。万が一スカーレット殿が俺の家で生活していることで、悪い噂が流れたら大変だと思ったのだ。


でも、なぜか皆安心している様だった。騎士団員たち曰く、俺は女に興味がないうえ、奥手で手を出す勇気何てないだろうと思っているらしいと、フィルが教えてくれた。確かに事実だが…なんだか複雑な気持ちになった。とにかく、スカーレット殿を預かる事に異論はない様で、その点は安心なのだが…


そんな複雑な思いを抱きつつも騎士団の稽古が終わると、急いで家に帰る。早く彼女の笑顔が見たいのだ。小走りで家に帰り、鍵を開けると


「おかえりなさいませ、騎士団長様」


そう言って迎えてくれたスカーレット殿。そうだ、俺はこの笑顔が見たかったんだ。さらに俺の為に食事の準備までしてくれていた。その料理の旨いのなんのって。これからは、この旨い料理を毎日食べられるのか。そう思ったらつい頬が緩んでしまう。


それに、こんな風に家で誰かと食事をしたのは、母親が亡くなって以来だ。このままずっとスカーレット殿がこの家にいてくれたら…そんな事すら考えてしまう。とにかく、少しでもスカーレット殿が過ごしやすい様にしないと。


その後も毎日美味しいご飯を作り、部屋を綺麗に掃除し、ふかふかで石鹸の匂いがする衣類を準備してくれるスカーレット殿。それが幸せでたまらなかった。ただ、俺の事を“騎士団長様”と呼ぶのがどうしても嫌で、思い切って名前で呼んで欲しいとお願いすると同時に、俺も親しみを込めて呼び捨てで呼びたいと伝えた。


すると


「わかりましたわ、グレイ様」


と、恥ずかしそうにそう言ったスカーレット。これはたまらないな…つい鼻の下が伸びてしまう。名前で呼び合う事で、また距離が縮まった気がした。


そんな幸せな日々を送っていたある日。


「団長、スカーレットちゃん、手が荒れていますよ。それに、2日に1回は同じ服を着ていますし。団長、ちゃんと日用品を買ってあげているのですか?」


「そうですよ、ちゃんと買ってあげないと。ただでさえ、アホデビッドに無一文で追い出されたんでしょう?そこは団長が気を使ってあげないと」


そう言われたのだ。こいつら、スカーレットの事をよく見ているな。そんな苛立ちを覚えつつも、確かにこいつらが言った通りだ。よし、今週末、買い物に行こう。


早速スカーレットに伝え、週末隣街に買い物に行く事にした。最初はいつもの様に遠慮していたスカーレットだったが、途中からは楽しそうに買い物をしていた。それにしても、買い物がこんなに楽しいものだとは思わなかった。


お昼ご飯を食べた後、スカーレットが行きたいと言った店に入った。そこで急に泣き出したスカーレット。話を聞くと、なんと両親の形見が売られていると言うではないか。急いで店にあるものを全て買い戻したが、それでもまだ足りない。


あのクズ男はどこまでクズなんだ。怒りを抑えきれない俺に対し、嬉しそうに両親の形見のネックレスを見つめるスカーレット。


その姿を見たら、どうしても全て買い戻したいと強く思った。それと同時に、元夫でもあるデビッドに対する怒りが、今にも爆発しそうになるのを抑えるのに必死だった。


翌日から、早速売られてしまったスカーレットの私物集めを開始した。店主の話を参考に、聞き取りを行う。さらに、法律に詳しいフィルに今回の事を相談した。


「わかった、ちょっと父や兄に聞いてみる」


そう言ってくれたフィル。翌日、早速2人に聞いてくれた様だ。


「この国では、たとえ夫婦であっても個人の財産は個人の物として扱っているらしい。もちろん、スカーレットちゃんの両親の遺産はスカーレットちゃんのもので、デビッドに使う権利はない。それから、離縁した後勝手に相手の私物を売った場合、その金額に相当する金額を相手に請求する事が出来るらしい」


「なるほど、という事はスカーレットのお金を勝手に使っていたと言う証拠を提示すれば、デビッドを裁くことが出来るんだな。証拠を集める事は出来るか?」


「そこまでは調べられないな。そんなに気になるなら、あの組織に依頼すればいい」


そう言うと、ニヤリと笑ったフィル。あの組織とは、金さえ払えばどんな情報でも調べてくれると言う組織だ。いわば、スパイのスペシャリスト的存在。確かに俺が動くより、彼らに頼んだ方が速そうだ。


早速組織に依頼をする事にした。もちろん、あのクズ男に売られてしまったスカーレットの私物もだ。絶対にあの男だけは許さない!地獄に叩き落してやる!

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