第11話 あの子が気になる~グレイ視点~

俺の名前は、グレイ・ディースティン。ディースティン男爵家の5男として生まれた。父は男爵、母は元々男爵家で働いていたメイドで、第3夫人だ。この国では、貴族のみ妻を何人も持つことが出来る。


もともと女好きだった父は、母を含め、4人の妻がいた。そんな中、俺の母は平民でさらに元メイドだ。他の3人の妻はみんな男爵家の娘。その為、母はずっと他の妻たちに嫌がらせをされていた。


もちろん、俺も異母兄弟たちから酷い扱いを受けていた。殴られたり蹴られたりは日常茶飯事だった。毎日傷だらけになる俺を見て、いつも母は


「私が平民なばかりに…ごめんね、グレイ」


そう言って涙を流していた。そんな母を少しでも安心させたくて、6歳から騎士団に入った。そして誰よりも強くなって、金をたくさん稼いで母と一緒にこの家を出よう。そんな思いから、血の滲むような努力を重ねた。


日に日に強くなる俺を見て、異母兄弟たちは俺に手を出さなくなっていった。ただ、母への嫌がらせは相変わらずだった。そんな母を庇いもしない父親。いいや、こんな奴、父親なんかじゃない。早く金をためて、この家から出て行かないと!


そんな思いから、必死に稽古に励み、15歳と言う若さで副騎士団長になった。それと同時に、母を連れて家を出た。なぜか父は母と別れる事を拒んだが、俺が少し強めの口調で迫ると、しぶしぶ離縁を承諾した。


あらかじめ騎士団に事情を話し、王都から離れた土地で副騎士団長として働かせてもらえる事も決まっていた為、母を連れて急いで王都を離れた。もう母をイジメる奴もいない。2人での生活は物凄く順調だった。今まで元気のなかった母も、息を吹き返したように元気になった。


さらに食堂で仕事を始め、まさに順風満帆だった。でも…俺が18歳の時、母は病気で亡くなった。唯一の家族でもある母を失い、生きる意味すら見失いかけた俺を救ってくれたのは、当時の騎士団長だ。


俺にはもう守るものなど何もない。これからどうやって生きていけばいいのか…そう頭を抱える俺に


「お前には騎士団の仕事があるだろう。お前にはこの街の人を守ると言う、立派な仕事があるじゃないか?違うか?」


そう言って肩を叩いたのだ。確かに騎士団はこの街の人を守るのが仕事だ。母がいなくなっても、俺には騎士団の仕事がある。これからは、この街で暮らす人の為に全力を尽くしていこう。そう決意した。


その後も必死に訓練を続け、ついに18歳の時、騎士団長になった。騎士団長として最初にお世話になった街は、あまり治安が良くないところだった。その為、物凄く忙しくて、眠る暇もないほどがむしゃらに働いた。


そのお陰か、俺が騎士団長として街にやって来てから1年ほどで、治安も随分と落ち着いた。街の人たちからはかなり感謝された。やはり感謝されると嬉しいものだ。結局この街では、3年間騎士団長として働いた。


そして21歳の時、また別の街へと移動になった。次の街は比較的治安のよい街だった。その為どちらかと言うと、若手の騎士団員を育てるのが俺の仕事との事。


そして迎えた初日、騎士団の稽古場に向かう。案内してくれたのは、副騎士団長をしているフィルと言う男だ。なんと、こいつの父親はこの街の裁判所に努めている裁判官らしい。さらに兄たちも裁判官や弁護士をしているらしい。そんな家系の人間がどうして騎士団なんかに?


そう思って聞いてみると


「俺は父親や兄たちみたいに頭が良くないからな。それに、裁判所も騎士団も悪を退治し、困った人を助けるところだろ?俺は別の方面から、困っている市民を助けたいと思ったんだ」


そう教えてくれた。なるほど、そう言う考え方もあるのか。


結局フィルとはすぐに仲良くなった。そして迎えた昼休み


「グレイ、騎士団内は食堂がないんだ。その為、みんな近くの食堂に食べに行く。さあ、早速飯を食いに行こう」


そう言って俺を連れて食堂へと向かうフィル。騎士団のすぐ近くには、沢山の食堂が軒を連ねている。


「色々あるんだが、やっぱりここが一番おいしいんだよな」


そう言って、1軒のお店に入った。物凄く人気の様で、既に沢山の客がいた。もちろん、騎士団員もたくさんいる。


「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」


俺たちの対応をしてくれたのは、金色の髪に緑の瞳をした可愛らしい女性だ。その笑顔を見た瞬間、一気に鼓動が早くなった。何なんだ、この気持ちは…


正直今まで、女性にこんな感情を抱いた事なんてなかった。俺は自分で言うのもなんだか、物凄く奥手だ。この21年間、一度も女性と交際するどころか、手も繋いだことがない。それに女性を見ても、こんな風にときめく事なんてなかったのに…


1人動揺する俺に


「やあ、スカーレットちゃん、こいつ、今日から騎士団長としてこの街に来たグレイだ。ちょくちょく顔を出すだろうから、よろしく頼むよ」


女性に俺を紹介するフィル。


「まあ、騎士団長様ですか?初めまして、スカーレットと申します。いつもこの街を守ってくださっている騎士団の皆様には本当に感謝しております。どうかこれから、よろしくお願いしますね」


そう言うと、再びほほ笑んだスカーレット殿。なんて…なんて可愛らしい人なんだ…一気に鼓動が早くなる。正直どう対応していいかわからず


「ああ…よろしく頼む」


そうぶっきらぼうに答えてしまった。これが彼女と俺の初めての出会いだった。

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