第5話 私が離縁したことが既に知れ渡っていました

幸い昨日と今朝、騎士団長様に適切な処置をしてもらったため、普通に歩いても痛みなどはない。とりあえず洗濯をするために、近所のお店に洗剤を買いに行く。よし、早速洗濯スタートだ。洗いあがったら、お庭の紐に干していく。


洗濯は終わったわ。次は掃除ね。早速家中を掃除していく。それにしても、結構広い家ね。キッチンとリビング、ダイニング以外に、別で3部屋もあるのだ。とにかく急いで掃除をしないと!何とか掃除を終えたころには、食堂に行く5分前だった。


大変だわ、このままだと遅刻してしまう。急いで部屋のカギをかけ、家を出る。幸い騎士団長様の家は食堂のすぐ近く。何とか間に合った。


「おはようございます。遅くなってごめんなさい」


「スカーレット、あなた、大丈夫だったの?あのバカデビッドと離縁したんだってね。今日、朝から嬉しそうにデビッドが皆に言いふらしていたわよ」


「まさかあの男、結婚記念日に離縁を言い渡すなんて、本当にクソね」


「相手はあのキャロリーナでしょう?あの女、色々な男に手を出しているって有名な女よ。うちの元夫にも手を出したのよ。本当に尻軽なんだから」


ここで働く仕事仲間の皆が、私に駆け寄って来た。どうやら私が離縁したことは、既に皆に知れ渡っているらしい。


「さあ皆、いつまで立ち話をしているの?店を開ける時間だよ。ほら行った行った」


そう言って皆を仕事場へ追い払ったのはこの店の店長だ。


「スカーレットちゃん、色々と大変だったわね。住むところは大丈夫なの?困ったことがあったらいつでも言ってね。それにしても、あの男は本当に見る目がないね。あんたはまだ若いし可愛いんだ。新しい恋をするものありだよ。例えば騎士団長とかね」


えっ…どうしてここで騎士団長様の名前が出てくるの?まさか店長は私が騎士団長様の家で、お世話になっていることを知っているのかしら?


「そんなに驚かなくてもいいでしょう。冗談よ。さあ、お店を開けるわよ。準備して」


そう言うと、店長は去っていった。なんだか私が離縁した事が皆にバレていて気まずいが、とにかく働かないと。急いでお店を開ける準備をした後、いよいよ開店だ。開店と同時に、沢山のお客さんが入っている。もちろん、騎士団員たちも。


「いらっしゃいませ」


いつもの様に笑顔でお客様を迎える。開店と同時に、お店は満席だ。


「スカーレットさん、聞いたよ。離縁したんだってね。それにしても、君の元旦那、本当にクソだね。君を追い出してさっさと別の女と婚姻を結ぶなんて」


案の定、お客様も私が離縁したことを知っていた。デビッドったら、どうしてこうも皆にばらしたのかしら…本当に嫌になる。来る人来る人

「大丈夫?元気出して」

と、慰められる。

中には

「俺が慰めてあげるよ」

という面倒な客まで現れた。でも、こうやってみんなが気にかけてくれるという事は、ある意味ありがたい事よね。そう思ったら、少しだけ嬉しかった。開店して30分ほどたったころ、騎士団長様がいつもの様に副騎士団長様や騎士団員たちと一緒に食堂へとやって来た。


「いらっしゃいませ、あちらの席にどうぞ」


いつもの様に接客をする。さすがに騎士団長様のお家でお世話になっているなんて事、バレたら大変だ。出来るだけいつも通りに接する。


「お待たせしました。牛筋のシチューとパンのセットでございます」


騎士団長様の隣の席に座っている団員に料理を運ぶ。すると


「スカーレットちゃん、旦那さんと離縁して家から追い出されたんだってね。大丈夫かい?住む場所とか困っているなら、俺が紹介しようか?」


そう話しかけて来たのだ。もう何十回目だろう。離縁の話を持ち出されるのは…そう思いつつも、笑顔で対応しないと。そう思った時だった。


「どうしてお前は、スカーレット殿が離縁したことを知っているんだ?」


隣の席に座っていた騎士団長様が、怪訝そうな顔で団員に訪ねた。


「なぜって、デビッドが新しい奥さんを連れて、皆に言いふらしているからですよ。“俺は昨日スカーレットを追い出して、念願だったキャロリーナと結婚したんだ”って。だから、この辺の人はみんな知っていますよ」


「何だと!あのクソ野郎。どれだけ腐った男なんだ!」


みるみる鬼の様な顔になっていく騎士団長様。


「そんな怖い顔をしたら、スカーレットちゃんがビビっちゃいますよ。ねえ、スカーレットちゃん、住む場所に困っているなら、俺が家を紹介してあげるよ」


鬼の形相の騎士団長様を無視して、私に話しかけてくる団員。とりあえずやんわりと断ろうと思い


「お気遣いありがとうございます。でも、とりあえず今のところはだいじょう…」


「スカーレット殿は今俺の家で面倒を見ているから、そんな気遣いはいらん!」


「「「「えっ?」」」」


はっきりそう言い切った騎士団長様。皆口をぽかんと開けて固まっている。もちろん、私も。


「いや…そう言う意味ではない。あのクソ野郎に無一文で追い出され、怪我までしていたから、取り合えず俺の屋敷でしばらく生活してもらう事にしただけだ。もちろん、やましい事など何一つない」


物凄い勢いで否定する騎士団長様。顔は真っ赤だ。一応少しお金を持たせてもらっているが…まあいいか。


「何だって!あの男、金を渡さなかったうえ、暴力まで!本当に最低だな。まあ、騎士団長の家ならある意味安心か…」


なぜか暴力まで振るわれている事になっているが、訂正するのも面倒だ。とりあえず、そのままにしておこう。それにしても、私が騎士団長様の家にお世話になっている事に対し、皆が納得している。それだけ騎士団長様が、皆に信頼されているという事なのだろう。結局全てバレてしまったけれど、まあいいか。

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