9話目

「たす、ける…?」

コウは、抱きしめられ、固まったまま小さく言った。

「何もできないのに…?」

コウは震える声で尋ねる。

「うん…何もできないよ」

アイは、コウを強く抱き締めて言う。

「何もできないのに、助けるなんて…そんなの…」

「無責任だっていいよ」

コウの言葉を遮るようにして、アイは言う。

「だって、君は人間じゃないか…どうしようもないよ…もう、何もどうしようもないんだよ…!」

コウは必死にアイから離れようとした。

「…どうして、離れようとするの?

大丈夫。今度こそはずっと一緒に居るから」

アイは優しく微笑んだ。

「やめて…やめてよ、そんな優しい言葉かけないで…優しいこと言ったって、どうせ…!」

コウから赤い光が放たれる。

アイは、それでも離さなかった。

「離れないよ、居るから、コウのそばに、ちゃんと、だから…進もう?一緒に」

コウは抵抗を続ける。

「やめて、やめて…」

「あなたは、何者なの?コウ、教えて。」

アイは優しく微笑んで言った。

「僕は…この世界に、気づいたら居た…

この世界は、こんな僕でも、明るく照らしてくれて…痛くなくて…苦しくなくて…

外の世界は怖くて、痛くて、みんなにとっては優しい光すら、僕には、牙を剥いて、それで…!」

コウは、途切れ途切れに言った。

アイは、コウを抱きしめながら話を聞いていた。

(わたしには、理解できない…でも、ずっとずっと辛かったんだろうな…)

そう思うと、また涙が出てきた。

ただただ、静かに流れていた。

赤い光も、いつの間にか消えていた。

コウはアイに抱きしめられたまま、まるで幼子のように泣いていた。

アイと同い年くらい…見たところ14歳位の少年だ。

アイはただ、抱きしめていた。

何も言わずに、コウの頭を撫でながら。


暫くして、静寂が訪れた。

コウは泣き疲れて眠っていた。

アイはコウを見て(小柄だし、わたしと同じくらい…運べるかな?)と考えながら、コウを背中に乗せた。


『連れて行くの?』

どこからか、声がした。

「…連れて行くよ」

アイは振り向いて言った。

『その子はここでしか居られないよ?』

白い花々が言っていた。

「…わたしが助けるから。」

アイは決意を持った目で言った。

『そのままじゃいけないよ?』

花々は心配そうに言った。

「…じゃあどうすればっ」

アイは、言葉を止めた。

白い花々の上に、綺麗な白い布があった。

『これ持っていって』

声がした。

アイは辺りを見回す。

あるのは、純白の優しい光と、美しい花々だけ。

「…あなたたちは、何?」

アイは花々に尋ねる。

『私達はね…その子の心を守るためのもの』

花々は美しくキラキラ輝きながら答えた。

そして、布は浮き上がると、コウに被さった。

『こうすれば、痛くないよ』

不思議な声。

でも…

(すごく、優しい声…)

アイは花々に見惚れていた。

美しく、優しい花々に。

『ほら、アイ。行って。その子を助けて』

花々は訴えかけるように言った。

すると、目の前に淡く光る扉か現れた。

アイは泣きそうになる気持ちをおさえながら

「ありがとう」と一言いうと、扉を開けた。

『バイバイ、アイ。コウ。いつでも待ってるから。

私達、白の花畑(White Flower garden)は』


アイは涙を堪えながら、優しい世界を去った。

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