愛のない世界で

望月うさ

1話目

目を開くと、そこは暗い暗い水のそこだった。

いや、目を開いて水のそこというのはおかしい。

起き上がると、水に触れた感覚があった。

(水…)

アイは辺りを見回した。

(ここ、どこ?)

そっと立ち上がると、水の中特有の動きづらさがある。

(やっぱり、水の中…)


(でも、息は苦しくない。息してない?)

口を開いてみると、水が口の中に入った。

でも、苦しくない。不思議な感覚だった。

アイは一歩前へ歩いた。

(…海の中みたい)

少しずつ、少しずつ前へ進む。

そして、ふと振り返った。

そこには、何も無い。

下を向いた。

下は、真っ暗だ。

(浮いてる?違う、こういう見た目なだけ?)

疑問に思いながら、また前を向いた。

「あ!そこの君!」

大声が聞こえた。

こんな水の中で大声だなんて有り得るのだろうか?

アイは聞こえなかったかのように進んだ。

「ちょっとちょっと!そこの君だってば!」

大声が近づいてくる。

振り向くと、そこには長髪の女性が居た。

(知らない人…)

アイはそっぽ向いた。

そのまま歩き出そうとすると、女性は「待ってってばぁ!」とアイの腕を引っ張った。

「あっ、ごめんね、痛かった?」

女性はパッと手を離し、アイをじっと見た。

「あ、そうだ!自己紹介した方がいいよね!知らない人だもんね!ボクはレン!君はなんて言うのかな?」

「…わたし、アイ。」

「アイちゃんだね!よろしく!」

レンが手を差し伸べると、アイはその手をじっと見つめた。

「えっと…アイちゃん、握手だよ!握手!」

レンが必死に言うと、アイはそっと手を重ねた。

レンはぶんぶんと手を振り「よろしくね〜!」と言った。

アイはジトッと睨むと、手を引き抜いた。

「ありゃ?嫌だった?ごめんね!」

レンは笑顔で言った。アイは手を軽く振り短く「…さよなら」と言った。

「え、え、ちょっと待って?一緒に行こーよー!嬢ちゃん一人じゃ危ないぜ☆」

レンは軽くふざけて言うと「ということでボクもついてくね〜!」と言い、アイの後をついていった。


「アイちゃんはさ、どこに向かっているの?」

レンの問いに、アイは答えずに進んだ。

「ははーん、さては、行き先は特に無いけどどこかへ行きたいんだな? 」

レンはニヤリと笑って言うと、アイは静かに「…ウザイ」と言った。

「おっ!図星〜?」

「…なんで、わかるの?」

レンがからかうと、アイが尋ねた。

「ぇ、あ〜…な、なんでだろうね?ボクが天才だからじゃない?」

レンがドヤッとして言うと、アイは「…自分で言うの?それ…」と呟いていた。


「わたしに、嬢ちゃんって言ってたけど、見た目同じくらい…」

アイがレンの方を向いて言うと、レンは「そう?ボクの方が高くない?」と言った。

(…多分、わたしの方が高いけれど、言わないでおこう)

アイは気を利かせたのか、無言で歩き出した。


「それにしても、不思議な所だね〜」

レンが辺りを見回しながら言った。

アイは、無言で歩き続ける。

「ちょっとちょっと〜、アイちゃん聞いてる?」

レンが顔を覗き込んできた。

アイはふいと顔を逸らし「聞いてる」と短く答えた。

「口数少ないねぇ、君」

「…別に、いいでしょ」

「勿論!悪いとは言わないよ!」

レンのテンションの高さに、アイは若干嫌そうな顔をすると、また前を向いて歩き出した。

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