第15話 尺八の子


 林間学校は、一学年全員が参加し、男女合わせて総勢300人ぐらい。

 バスで目的地である大分県の九重山へと向かった。

 よくあるキャンプ場で、僕たちが泊まるテントは既に設置済み。

 ただ、悲しいことに、男女別々のグループで寝ることになった。


(クソ! 森盛さんがせっかく夜這いをしようと、頑張っているのに。中学校側が阻止してどうすんだよ!)


 僕はイライラしながら、汗臭い野郎どもと、バッグをテントの中に放り投げる。

 テントでしばらく待機していると、どこからか、スピーカーから音が流れてきた。

 声の主はパワハラ先生だ。


『あ~ 今から晩ご飯を作りたいと思う。全員、炊事場に集まるように! 一秒でも遅れたら、殺す!』


 なんて脅しをかけてきた。


 僕たちは死にたくないので、猛ダッシュで炊事場へと向かう。


 川の近くに炊事場はあった。

 野菜や肉、米などは学校側が用意してある。

 あとは僕たち生徒が、この素材を切ったり、焼いたりすればいいだけだ。

 ここでようやく、意中の森盛さんと再会できた。


「童貞くん。一緒に作るっちゃ」

 なんて微笑む。

「う、うん……」

 僕には彼女が『一緒に今晩、赤ちゃんを作るっちゃ♪』に聞こえた。


(よし。ここでカッコイイ料理男子であることをアピールして、森盛さんの初めてもスイーツとして食べちゃおう)

 と意気込む。


 野菜や肉をカットするのは、割と簡単だった。

 問題は、調理する際、自宅のようにガステーブルがないので、かまどに薪を入れて火をつけることだ。

 勉強として、先生たちから原始的な火おこしを命令される。

 一々、着火するため、近くに落ちていた木々を使い、弓ギリ式発火具を作成。

 かまどに真っ赤な炎が上がるのに、一時間以上もかかって、僕も森盛さんも疲弊していた。


「はぁはぁ……疲れたね、童貞くん」

「うん」

 確かにこの暑さの中、ジャージ姿でコキコキするのは地獄だ。

 どうせコキコミするなら、森盛さんの細い脚で天国を味わいたい。


 初めてのかまどに、みんな苦戦していた。

 それは煙だ。

 竹で作った火吹きを使うのだけど、その際、白い煙が漂い、目にしみる。

 僕たちのグループが一番手こずっていた。

 手際の良い人たちは、既に料理を作り終えて、食べ始めた。


 6人ぐらいのグループだったけど、みんな空腹だし、目にしみるし、かまどに近づくのを嫌がった。

 だが、真面目な森盛さんは違った。

 一生懸命、小さなお口で「ふぅ~ ふぅ~」と火に風を送っている。


 僕はその姿を少し離れたところで見ていた。

 煙が目にしみて痛いし、後ろから森盛さんのヒップが堪能できるからだ。


 すると、担任の美人先生が僕の頭を叩く。

「いたっ!」

「痛いじゃない! 童貞! あんた女子の森盛にだけ、やらせる気? あんたも一緒にやりなさい!」

「はい……」


 この時、僕は先生が『森盛にだけヤラせる気? あんたも一緒にヤリなさい』と聞こえた。


 かまどに近づくと、小さな森盛さんが健気にも尺八しているではないか。

「ふぅ~ ふぅ~!」

 僕が隣りに座ると、その姿を見て笑う。

「あ、童貞くん。手伝ってくれるんやね? 一緒に咥えようよ!」

「え!?」

 

 僕は思わず、耳を疑った。

(くわえる? 一体なにを!?)

 

「この大きな竹を口にあてて、ふーふーするとよ。男の子の童貞くんなら、いっぱい出せるやろ?」

「なんだって!?」


 森盛さんが誘っている。

『いっぱい出せる』

 と。

 確かにそっちの体力は、限界を知らない僕だ。


 僕は森盛さんが差し出した、長くて太い竹を受け取り、生唾を飲み込む。

(これが数十分も森盛さんがふぅ~ ふぅ~ した尺八くんか。よし、僕もたっぷりと風を吹き込もう)


 大きく口を開いて、吸引口にかぶりつく。

 そして、思い切り息を吐きだす。

「ぶぉ~ ぶぉ~!」

 僕の勇姿を見て、森盛さんが手を叩いて喜ぶ。


「さすが、男の子っちゃ! 童貞くん、すごい! じゃあ今度は私に交代やろ?」

「うん」

 僕の唾液まみれの竹を受け取り、今度は森盛さんが風を吹き込む。

「ん……ふぅ~」

 吹き込む風の力が弱まっている。

 しかし、彼女はやめる素振りがない。

 むしろ僕が隣りに座ってからというものの、元気になっている。


 肩で息をして、汗だくになる森盛さん。

 額の汗をタオルで拭いながら、僕に微笑む。

「はい。次は童貞くんの番やろ」

「うん」

 

 二人で交代しながら続けること、数十分。

 どうにかして、カレーライスが完成した。


 テーブルに皿を並べながら、森盛さんは喜んでいた。

「童貞くんが助けに来てくれて、本当に良かったばい。私一人ならちゃんとできなかったもん」

「え……」

「初めてだったから、自信なかったんよ。ありがとね」


 はっ!? まさか!

 聞いたことがあるぞ……大人の愛し方の一つに、尺八というやり方があると。

 お口でレロレロすると。

「初めて」「自信がなかった」「一人ならちゃんとできなかった」

 そうか! 森盛さんが僕に伝えたいのは、今までのは前戯。

 続きである本番は……この後、夜這いで。

 ということに違いない!


 僕は体力をつけるために、カレーを三杯もおかわりしておいた。

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