3日前

 死人は出さない。大層な理由があってそうしているわけじゃない。言うなれば「美学」あたりが適当か。

 最後の爆弾をセットし終わって、俺はビルをあとにする。

 500mほど離れたところでスイッチに手をかける。

「ショウ・タイムだ」

 一閃。

 空気が振動する。音が聞こえたのか、その振動を感じただけなのか、この距離ではまったくわからない。

 一瞬の静寂。この瞬間がたまらなく好きだ。

 タバコに火を付ける。後ろは振り返らない。音と光と熱。そしてこの静寂さえ感じられれば十分だ。

 やや遅れて、人々が逃げ惑う声が聞こえてくる。群衆が俺を追い越してゆく。ここで悠々と歩くことにも、俺は楽しみを覚えてしまっている。

 その時だった。

「お兄さん!」

 と聞こえたような気がしたが、それは同じタイミングで食らった衝撃であやふやだった。

「いてえ!」

「いまのお兄さんがやったんですよね! あたし見てました! とってもステキです!!」

 倒れた俺の体の上には一人の少女の姿があった。突然現れたのだ。

 体中ボロボロだったが、それよりも何よりも、顔に大きなアザがあるのが気になった。

 しかし、一体どこから……?

 すぐ隣の廃ビルが目に入る。3階部分の窓ガラスは全て抜けていた。まさかあそこから飛び降りてきた……?

「ミコを連れて行ってください!」

「待て待て、どういうことだ」

「お兄さんもミコと同じですよね! 爆発がだ〜い好き! わかるんですミコ! あの爆発の中であんなに冷静でいられる人犯人しかいない」

 犯人……。

「『犯人』はないだろう。孤高の芸術家だよ」

「まあいいじゃないですか。ミコ、身寄りがないんです。ミコの爆弾でみんな死なせちゃったから。だから廃ビルを渡り歩いてほそぼそと爆弾作り続けてきたんです」

 顔のアザは自分の爆弾でついたということか。このミコという少女には、なにか大事なものが欠落している、そう思えて仕方がなかった。

「だからお兄さんを見かけてビビッときたんです! こんなかっこいい人ほかにいないです!」

 かっこいい、などと言われたのは初めてだった。

「あまり大人をからかうものじゃない」

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