ベストフレンドはヒーロー
第25話 ベストフレンドは人気者
――根本 茂は人気者である。
運動神経は抜群、コミュニケーション能力も高く友達も多い。そんな彼がどうして自分のような人間とよく一緒にいるのか、疑問がよく頭に過る。
☆ ☆ ☆
夏休みも終わり、高校生活の一大イベントである修学旅行が近づいてきたある日。俺たちはいつものように屋上へと続く階段でお昼を食べていた。四人ではなく、三人でだが。
「でさー、二人とも修学旅行の班、どうする?」
唐突に、なんの脈絡もなく咲希がそんなことを言い出した。
「いきなりどうした」
「いやさ、昨日先生に言われたじゃん? そろそろ班決めろって。ぶっちゃけあたし、このクラスで仲良いのカズくんたちぐらいしかいないし、仲良くない人と一緒になるよりはいいかなーって」
「そういえばそんなこと言われてたな」
帰りの間際に言われたことなのですっかり聞き流していた。
「それでどうよ?」
良いでしょ? よし決まり! と、今にも言い出しそうな表情でそう問いかけてくる。
「俺は別に問題ないよ。特に誘ってもないし、誘われてもないし」
悲しいことに。
俺がそう言い終わると、隣に座っていた花蓮もそうねと続けた。
「よく知らない人と回るよりかは知っている人同士で回る方が無難ね。その点から考えても、咲希さんの提案はとても良いと思うわ。私も賛成よ」
ちらっと何故かこちらに視線を送ってきてから彼女はそう捲し立てた。
「よっし決まりね! かれりんと一緒に長崎だー!」
ガッツポーズを決めながら咲希は花蓮に抱きついた。
あの二人は夏休みを経て一層仲良くなったようだ。よくお泊まり会を開いていたらしいし(花蓮談)、お願いしたら名前で呼んでくれるようになったのだそう(咲希談)。
「……そういえば四人班なのだけれど、根本くんもこの班に入るのよね?」
「え、なになに。かれりんって根本のこと嫌いだったっけ?」
「違うわ。ただ、彼、友達多いから既に他の班に誘われてるんじゃないかしら」
そう言われて、あー、と納得する。確かにそうだ。その辺どうなんだよと聞こうと咲希の方へ視線を向けると、ちょうど彼女と視線が合う。
「カズくんはその辺わかってる?」
どうやら考えは一緒らしい。
「どうだろうな。誘われてそうではあるけど……」
本人が来ない限りこればっかりはどうしようも無い。そんな事を考えていると、ちょうど話の渦中の人物がやってきた。
「おーっす……あれ、どうした?」
早足で階段を上ってくると、彼は自分に一斉に視線が集まったのを感じたのか首を傾げている。戸惑う茂に向けて咲希は話を切り出した。
「根本、修学旅行一緒の班にならない?」
「おういいぜ」
思いのほかあっさりと了承する茂。
「……別に、私たちに気を使わなくていいのよ。貴方なら他にも誘いはあるのでしょう?」
俺が言い出すよりも先に花蓮がそう言った。
「あー……、別に気を使ってるわけじゃねぇよ。旅行行くならこの四人がいいなって前々から思ってたしよ」
困ったように頬をかきながら茂はそう返してきた。
「それならいいのだけれど……」
どこか歯切れが悪そうに、また何か言いたそうにしていたが結局花蓮は何も言い出さなかった。
そんな、ちょっと違和感を感じるような花蓮の反応も俺と咲希は何も気づいていないかのようにスルーする。
「それじゃあ、このメンバーで班を作るか。何かプリントに書くんだったっけ?」
「そうそう。書くのはあたしに任せて。なんたって班長だからね!」
「いつから貴女が班長になったのかしら……」
「あたしが言い出しっぺなんだし、あたしが班長になるべきでしょ!」
和気藹々と話し出す花蓮と咲希を横目に見ながら茂に注意を向ける。
花蓮と茂の関係の微妙な変化。それはより親密になった、などではなく、どこか壁や距離が出来ているように感じた。
それがいつから感じられるようになったかと言えば、あの夜、海で花火をした次の日ぐらいだったように気がする。
俺と花蓮に話があると言ってきたあの日。あの後「何でもない」と言ってきたあの時。何かがあったのだろうか。
「? おい、一葉どうしたよ」
「いや、何でもない」
気にするなと首を振る。
もし何かあったのなら、それは花蓮と茂の問題であり、相談を受けてすらいない第三者が首を突っ込むようなことではない。
「ちょっと男子、どこに行くか決めようぜー!」
「そもそも京都って何があるんだよ」
わくわくと胸を高鳴らせている咲希にそう言い返しながら、壁にもたれかかるのだった。
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