飛行機から落ちたら引きこもり王子を外に出す羽目になりました

ぺんぎん

第1話 夏至前二日~飛行機の中~

 乗っている飛行機の中は静かだった。

 低いエンジン音が途切れることなく響いている。

 

 あたしは椅子で寝た時特有の、体のだるさを感じながら、大きくのびをした。

 

 椅子にはめこまれたデジタルの時計が六時を表示している。

 

 小さな窓を覗くと、地上は厚い雲で覆われており、何も見えない。

 どこまでも広がる雲の中から険しい山の頂がひとつ、突き出ていた。

 

 三日後には夏至だというのに、そこにはまだ雪が残っていた。

 朝日が雪に反射して、強いオレンジ色の光が窓の端まで差し込んできた。


「夜明けだ……」

 

 飛行機は、まっすぐそびえたつあの山に向かって飛んでいる。

 日本から飛行機で七時間。太平洋の真ん中にある大陸、ハビヤーンの中心地、アバダンだ。

 

 アバダンは母さんの故郷だ。小さい頃別れた兄が、一人で住んでいる。

 

 つい先日、その兄の兵役が明けた。

 あたしはその祝いに呼ばれ、アバダンに向かっている所だった。

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