千秋くんと瑞生くんの何でもない日常

お茶

第1話 千秋はかっこつけたい

 仕事から帰ったオレはそのまま、瑞生が作ってくれたごはんを食べていた。

「美味しいね。」


 今日は、ごはんと味噌汁と、野菜炒め。味付けもいたって普通。

 まあ瑞生が作ってくれるのは嬉しいし、家に帰ってすぐ温かいご飯が食べれるのはマジでありがたい。


 向かいに座ってごはんを食べる瑞生の視線を感じてチラッと見ると、瑞生はフイと下を向いた。

 短い黒髪に、白い顔。そして

 ―まつ毛長っ…。


 すると、瑞生は唐突に口を開いた。

「千秋、髪プリンになってきてるからまた染めような。」

「あ、おう。その内な。」



 オレ達はお互いに何かと(立地とかお金とか)都合がいい。という理由で2年前からルームシェアをしている。


 それぞれがシフト制の仕事をしていて、生活時間にばらつきがある。

 ということで、ごはんとか洗濯は自然と時間がある方がすることになっている。



「料理美味しいね。」

 とりあえず、こう言っておけば喜ぶだろうと思って言うが、

 瑞生は聞こえていないような顔で黙々とごはんを食べ続ける。


「テレビ面白いね。」

 そう言ってみたら、和やかな雰囲気になる気がして言ってみるけど。

 まあ特に面白くもないな。瑞生も返事しないし。


 いつもそうだ。瑞生は、オレの言うことをスルーする。

(チッ)


 食べ終えるとオレはiPhoneを片手に寝室へ行き、

 着替えもしないままベッドに身を投げた。

(あー、今日もハードだった。疲れた。)



 しばらくして、瑞生が顔を出した。


「何してるの。」


「何してるって、作曲してるよ。」

 そう言っておけば恰好がつくだろう。

 今現在は動画見てるけど…

 後で作曲作業しようと思っているのは本当だし?



「飲んでるの。」


「お酒?飲んでないよ。」

 飲んでると言ったら瑞生の機嫌を損ねてしまう。


「またタバコ吸った?」


「吸ってないよ。」

 本当は仕事でイライラする事があって、先月からタバコを再開してる。

 でも吸ってるなんて言ったら間違いなく瑞生に怒られてしまう。


 うるさいな、何なんだよさっきから…

 瑞生、前はそんなにうるさく言わなかったのに。



「なに怒ってるんだよ。」


「怒ってないよ。」

 とりあえずそう言っておけば。


 どう言っておけば。


 どんな言葉をかけたら、瑞生は笑ってくれるんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る