命の恩人同士....
「もういいです。あなたが仕掛けないというなら私から」
先に動いたのは先輩の方からであり、急速に男の元へと拳を作りながら接近していた。そのスピードは人間のものとは思えず、どこか懐かし景色を思い出した。
「遅い」
対して男の方は、余裕があるのか何も動かず、先輩の拳を軽そうな素振りで振り払った。先輩の拳を振るスピードは人外的なのにあの男はそれを当然だという風にして見ている。
「でしょうね、あなたに身体能力で挑むほうが馬鹿の考えです」
「?」
そう先輩が言い放ち、男の視界から消えた途端に、先ほど先輩が現れた場所の後ろから、無数の剣が凄まじいスピードで飛んで来た。
「危な....」
それを間一髪でよける男。ギリギリ髪を掠める程度に収まったとはいえ、男の方も今の不意打ちにはびっくりしたのだろう。それもそのはず、あの剣の速度はさっきの先輩の音速をも余裕で超える神速で男に向かって飛んできたのだから。
「相変わらずそれ強いな」
「不意打ちだったんですけど避けますか、これも権能とやらの力なんですか?」
「こんな、攻撃避けられなかったら、最初からここにいる資格なんてないさ」
「それもそうですね」
互いに皮肉のようなものを言いながらも、腑に落ちたのか、男の方は一息着いていたが、先輩の方は男に見つめられながらも、気にする様子は見せず、慎重にカードのような物をポケットから取り出し、そのカードに向かって
「コード・ハク」
と、透き通った声でもあり、どしん、とのしかかる声でカードに命を吹き込んだ。それはのカードの在り方をまでも変えようとし、俺の魂をまでも先輩の手によって直接なぞられるような感覚にさせた。命を吹き込んだ瞬間に、ただの金色のカードだったものが槍のような物に変形していた。異形であるが、同時に生命体を殺すのに最適な形をしていると思ってしまった。先輩はその槍を見据える事もなく、ただただ男の方へと無頓着に向けていた。
「相変わらず便利だな」
「はい、まぁあなたには扱えないでしょうけど」
「言ってくれる....!」
先輩の蔑みに男は悔しさを浮かべるわけでもなく、ただ平然と自分の弱みを認め、先輩の懐へと入っていた。しかし先輩がその工程をも見逃すはずもなく、急いで長いリーチの槍を回転させ、懐に入ってきた男をはじく。
「っ...............................あぁ!!!」
ギシン......と、男のたった一回の拳を受け、強固であるはずの槍が少し湾曲になりながら槍自身が先輩とともに悲鳴を上げていた。
「ふっ....はぁ..........」
長いリーチというのが仇になっているのか、先輩のスピードは先程よりも見え見えで落ちている。だが、先輩の音速をもって、男の拳をはじいたおかげで、男は槍に対して間合いをとってしまった。
「..........ゃあああああ!!!」
「チッ.......ぅ......ぁああ!!」
互いの乱戦はますます激しくなる。先輩は、槍を使いながら、男が間合いに入ってこないように図りながら戦っている。対して男の方は、間合いをとってしまった事なんて致命にもなっていないのか、拳だけで先輩を圧制している。
「重い............」
男が先輩に拳を振るうたびに、先輩の顔が苦しくなっている。それもそのはず、男が先輩を殴る度に地盤が軋み、その振動がこの結界を通して伝わってくるから、あんなものを真正面から受けてしまえば、このさらに何倍もの振動が伝わってくるだろう。それで立っていられる先輩も先輩だ。
「そらよっと!!」
「っ.....」
先輩の槍は無情にも男の拳によってはじかれ、押され続けている。流石にこのままでは間合いを詰められると悟ったのか、先輩は男から、ぐん、と距離を離し、暫くの間男を睨み続けていた。張り詰めたこの空気。一瞬の油断が自らを死地に追い込んでしまうというのがこの結界越しにも伝わってくる。互いが動かない刹那、先輩はボロボロになった槍のようなものを地面に捨て、ポケットからまた金色のカードを出した。
「これは、どうも動きを止めたほうがよさそうですね」
そういうと先輩は、カードに命を吹き込むのではなく、メンコのように激しく叩きつけ、それから公園と名の戦場をあちこち駆け巡り、行く場所行く場所にカードを激しく叩きつけていた。俊敏な動きとは裏腹に鳴り響く重い音。
「っっ素早い....」
男の方でもその動きについていくのは辛いのか、追いかける事を放棄していた。先輩は男にダメージを与えるというよりも、戦意を少しでも削ぐためなのか、男よりも速く、そして不可解な目的を達成させるべく男の周りを蝶のように舞っていた。
「これで―――」
ひらひら舞う蝶を網で捕まえようとするように、男は先輩に手を伸ばすが、そもそも今の先輩の速度を凌駕するほどの速度はこの世に存在してはならないし、あったとしても、それは人智を超える何かでなければならない。その理にあの男も当てはまり、先輩を捕まえるどころか、伸ばしたその先には、先輩などいなかった。そのことに気づいてすらいないのか、刹那―――先輩は音速の中、一人、前だけを見据えて、着々と地面にカードを叩きつけていた。
「くっ...........」
男は苛立ちを露にしつつも、この状況を冷静に分析しようとしている。対し先輩は、
カンッ!と華麗な蝶のダンスは終わりを告げるよう、ヒールの甲高い音を鳴らし、元居た場所へと戻った。
「今!!」
その瞬間、確約された大地が咆哮した。先輩の声が合図となったのか、カード達が呼応するように変形をし始めた。一つは、首を切るのに適したもの――― 二つ目は、四肢を切断するのに適したもの――― 三つ目は、心臓を穿つのに適したものと、それぞれが体を壊す役割を担っており、視界に入れる事すら拒みたくなるような、夥しい見た目をしていたのにも関わらず、それらに自己があるのか、その刃先が男の方へと向けられていた。男は確実に身動きが取れず、指を少しでも動かした瞬間、あたりの武器が、男にむかって牙を向くだろう。
「制限解除 ローリュ・トーチ 」
詰めの一言なのか、武器を射出させるための詠唱か、先輩は空中に浮遊している、それらの武器に向かって呟いた。しかしその武器達は、男目掛けて射出されるどころか、自己が保てなくなったのか、段々と崩れ始めた。原因は多分あの男だ。先輩が詠唱したと同時に、わざと被せるようにして、「First planet解除」と、それは機械の無機質な音声を思い立たせるような声で言い放っていた。己を鼓舞するためのものなのかは知らないが、結果としてあの武器達を無力化したんだ、俺を助けてくれたこの男はただ者ではないと、改めて肌で感じ取った。
「チッ.....」
そんな武器だったものの破片を見下ろしながら、先輩には似合つかわない舌打ちをしていた。それもそうだろう、絶対に勝てると思った手駒達が、男のたった一声で、見るも無残に粉砕させられれば、舌打ちの一つだってうちたくなる。
「さぁ、こっちは本気を少し出した、アンタも少し本気出したらどうだ」
男は戦いを愉しんでいるのか口角を少し上げながらそう問うてきた。
「そうですね、負けてしまっては意味がないですから、あなたの策に引っかかってあげましょう。第一あなたにこれを使わず勝てるなんて思ってないですし」
その問いを無視するのではなく、真正面から受ける先輩。あれでまだ、お互い本気を出してなかったらしい。今更ながら、先輩がここから逃げろといったのも頷ける。
「異生命鑓(スピエント) 武装展開 」
服の上に羽織っているコートの裏ポケットから棒のようなものを取り出し、先程のようにそれに命を吹き込んでいた。しだいに持っている棒が二本に分かれ、丸まった先端が鋭利な形となり、柄までもが形成され、最終的に、それは双剣と呼ぶに相応し形になっていた。双剣の形は俺が知っている形よりも少し歪にできており、湾曲しすぎた刃は今にも男の喉元に食らいつくような勢いだ。
「それ変形するんだな」
男は双剣に興味津々なのか、目を光らせながら双剣へと向けている。
「えぇ、これ見た目シンプルですけど結構いい値段しますよ」
その妙な視線が癪に障ったのか、先輩は双剣を後ろの方へと回し、その仕草を残念そうに見る男に対して嫌味交じりに言った。
「へぇ――― それじゃあ、さっきの件もあるし、壊してやるか」
あぁ、そもそもが間違いだった。あの男は元よりあの双剣を壊すためだけにあれに視線を向けていたのだったと。
「私に似て悪趣味ですねあなたも」
「当然」
そう言い放ち、男の視線から外れる。それを予見したのか、男も何もない場所に拳を振るう。その刹那に、まるで吸い寄せられたのか、双剣を構えた先輩が現れた。今度は互いに真正面からぶつかる。双剣と拳がぶつかるその様は異様に満ちていた。先程の槍は先端だけが鋭利であったため、横から拳を入れれば、皮膚を切ることはなかったが、あの男に皮膚が切れるといった概念はないのだろうか。柄以外の全身が凶器をなっているそれを、さも当たり前のように真正面から受け流している。男の手には血が一滴たりとも流れちゃいない。対し先輩は男の拳が掠ったのか、頬の辺りから血が流れている。切ると殴る、この小さき戦場において、それらの性質は逆転していた。
「ふっ........はっ――― 」
「っと...」
ズシィィ――― と拳と剣が交わう音。先輩と男の戦いは、さっきとは違いうまい具合に拮抗している。それもそのはず、さっきまでは男の拳を受けるだけに精一杯だった先輩が、積極的に間合いを詰め、お互い間合いというものを知らないのかというほどに近距離で戦っているからだ。
「ああぁ―――!!」
一瞬の油断も許されないこの状況において、先手を打ったのは先輩だ。先輩は地面を土がえぐれるほど蹴って、宙に舞い双剣を構え全力で、男を切りつけていた。
「ぐっっ....強いな!その双剣」
流石の男もその動きは予見出来なかったのか、拳ではなく体で受け止めていた。
「そうですよ、まぁあの人が作ったものですから」
「そうか、それなら強いな!!!」
「えっ―――?」
それには、先輩も驚きだった。男は再び叫び、それと同時に双剣は、元の棒に戻っていたからである。まるで、その物だけの時間が巻き戻ったように、その棒は、最初に見た時と同じ見た目をしている。しかし先輩は直ぐに態勢を直し、これ以上近づいては今度は自らが危険だと察知し、急いで男との距離をとった。
少しの間の静寂。そんな中、男と先輩は互いに肩を上下させながら、必死に酸素を肺に入れていた。それを面白がって傍観するスズムシ達は、夏の風物詩とも言えるあの特有の音色を草むらの中で合唱していた。その音色は、まだ闘いを止めるな!と言った奮起を込めた音色のように聞こえた。こんな夜更けにこの公園だけは、戦場になったりとコンサート会場になったりと忙しいのにも関わらず、周りの住宅は、まるで興味がないのか灯りの一つでさえも灯っていない。ついているのは、公園に常設してあるたった一本の街灯だけで、その光は、今日の主役と言わんばかりに先輩だけを灯している。
「道化師の真似事ですか?」
二度も自分の愛玩である武器達を無力化されたのが堪えたのか、嫌味を言うその口元は少し悔しさを含んでいるようにも見えた。
「さあな」
男の言葉には魂が籠っていない。
「まぁ、いいですやるべきことはやっておいたので」
「――――――――」
先輩が男の足元に指を指す、そこには男の足元を囲う二つの魔法陣が張り巡らされていた。無謀な近距離戦に見えて、わざと近づき、自分という対象しか映らないようにして、相手の視界を狭めその間に小細工していたのだろう。先程の近距離戦は先輩の方が一つ上をいっていたのだ。
「自然魔術の応用か」
男はそれに気づいていなかったのか、慌てて魔法陣から抜け出そうとするが、男の足はそこに固定されてしまったかのようにびくともしない。
「コーデックス.....ですよ」
アニメや漫画でしか聞いたことが無かったが、魔術が存在していたのか、じゃああの女の人の回復も魔術で....と、結界内で一人思考に耽っていると、指を鳴らす音が聞こえた。その音と同時に魔法陣からは追い打ちをかけるようにしてツタのような物が四方八方に伸びていた。
「ハハ、魔術はやっぱり厄介だな」
まだこの戦いを愉しむ余裕があるのか、男は口角を不気味に吊り上げていた。しかしそんな男とは対照的に、男の足元にはツタのようなものが、足裏から足の表面にかけて貫通している。普通ツタは巻きつかるものだが、そんな概念は忘れたのか、先端が刃物のように鋭利になっており、男の足に串刺しになっている。その有様は随分痛々しく、見ているこっちの方が痛くなってくる。それをすまし顔で何のリアクションもなしに立っていられる男は気がきっとどうかしているのだろう。
「動じないんですね」
少し呆れ気味に問う先輩
「あぁ、痛覚はあるが、特段痛がる必要もないのでね」
「相変わらず、痛みには強いですね。まぁ、これを食らってもその余裕があるのかは見物ですけどね」
その瞬間、大気の空気が一気に張り詰めたような錯覚に陥った。気づけば先輩は右腕を後ろに伸ばし何やら力を込めている。先輩のその行動には既視感があった。
「覚悟してくださいねエネル、今度のはかなり痛いですから」
公園内の地盤が歪む。木々は、ゴウ....と音を立て右に左に揺れており、それに合わせて、公園の砂も先輩の周りを囲うようにして舞っている。それは花嫁を覆うベールのように固く閉ざすようになっていたが、この結界の中からは先輩の様子が鮮明に映っていた。ガタガタと音を立て始めた遊具達は、本来の機能を見失い、一刻も早く逃げたようにさえ思った。それに気づかない男ではない。男は顔を曇らせ、刺さったツタを抜こうと固定された足を必死に上下させている。
「させるか......くっ....」
男の抵抗もむなしく、刺さったツタは足の表面で面積をどんどん広げており、抜こうにしても、あれだけの面積を覆せる力がないのだろう。
「っ....」
先輩は力をいれるたびに苦しい表情をしている。右腕には先程受けた拳で出来た、顔の傷の血が滴っており、右腕の半分以上が血で覆われていた。そんな状況の中でも、先輩は迷いもせずに、ひたすら右腕全部だ力を込めている。力づくけど繊細さが感じられるその仕草は戦闘の真っただ中なのに魅了されてしまうほど美しかった。
「っ.......ぁぁぁぁあ」
先輩の右腕からは顔から滴る血ではなく、新しく右腕から溢れた血が噴出している。意識が飛んでしまいそうなのか、力を入れながらも、足元はおぼつかない様子で、ふらふらしている。そんな状態の中でも、先輩の周りの大地はえぐれて元の造形が思い出せない程になっており、そこに立つ先輩は一種の芸術作品のようにも思えた。
「あれは.....」
土煙で視認できなかった先輩を男は確認する。そこには、意識を確立させその場に従前より踏みとどまる先輩がいた。
灯りで照らされた、その造形に華はない。右腕は血まみれで汚れ、戦闘服にも飛び散っているほどに。結っていた髪の毛はいつの間にかほどかれて、お世辞にも綺麗な髪とは言い難かった。足は産まれたての小鹿のように震えており、立っているのがやっと、と言うほど。けれど、先輩の手のひらにあった小さな箱のような物だけは、この戦場には似つかわしくない程の秀麗さを放っていた。
「くっ...............」
その箱の正体は恐らく俺に施したものと恐らくは同じ。だが、決定的に違う所がある。それだけは素人の俺にですら分かってしまうほどに、あの箱から感じる不穏さは異常だ。俺に施したものは外敵からの攻撃を守るために作られたものならば、今も尚先輩の手のひらで淀めいている箱は、外敵を殺戮するためだけに作られた代物。
その淀めく箱を直感でまずいと思ったのか、男側も必死に対抗すべく、ツタが刺さって動かない足をさらに固定し、左手に力を込めていた。男の血管は浮き上がり、毛細血管さえも飛び出してしまいそうなほど力を入れる。
「遅いですよ」
しかし、先輩の準備は万端だ。息をきらしながらも重い体に鞭を打ち姿勢を低くする。その際小さい箱らしき物を慎重に手のひらに乗せ、血だらけの右腕を後ろの方へとグンと伸ばしていた。その様は野球のよう。先輩が投手なら、男は打者で、今まさに試合開始の合図が先輩の投げによって鳴ろうとしていた。
「悠久の中で....」
あの箱に力技では勝てないと思ったのか、咄嗟に力を込めるのをやめ、何やら怪しげな文言を唱え始め、先程まで血管が浮かび上がっていた左手を右目に添え、先輩の方を見据えていた。
「甘い」
しかし、その念じは虚しく、先輩の一言によって振り払われる。それを振り払われた男には対抗できる手段がもうない。
「さぁ、これで少しの間眠ってもらいます」
先輩は、血しぶきを上げながらも、やっとその箱のような物を男に向かって投げた。
「クロノスルミナリアぁぁぁあ―――!!」
男はただそれを受け入れるようにその箱に直撃していた。直撃した瞬間、あの小さかった箱のような物は、肥大化し一つの空間が形成されていた。空間が増えた? いや、そんな次元の技じゃない。あれは元ある空間をすり替えながら肥大したように感じた。そして抗えない男は空間の中にいとも簡単に収納されてしまった。
「制限解除 コード・ハク」
追い打ちをかけるように先輩が詠唱する。空間の中は見えないが、多分その中に小細工を施しているのだろう。
「いぇ、それは、違いますよ茨木君」
「え?」
そう先輩は結界越しに心を読んできた。柊の時と言いあまりいい心地はしない。
「あれは、小細工を施してるんじゃなくて、中にある小細工を発動させているんです。」
「そうなんですか」
「はい、あらかじめあの空間の中に小細工を施しているんです。なので後は、それを発動させるためにおまじないをちょちょとかけてあげれば発動するんです」
あれだけの惨劇を起こした人に、おまじないと口に出して言われると調子が狂う。
「なんか、規格外のことやってますよね先輩」
「へへ、そうですかね」
少し照れながらも、いつものような笑顔を浮かべる先輩。数十秒前までにいたあの先輩の面影はどこえやら。
「で、中に入ったあの人はどうなるんですか、反撃とかしてこないんですか?」
あれだけ強かったあの男が、簡単に入ってしまったんだ。空間の中で策の一つや二つぐらいあると思うが....
「反撃の余地を与えないように、小細工しましたからね」
俺の思考など見透かすように、ズバッと言い返してきた。
「はぁ」
どのような小細工かは分からない、それでもこの先輩の自信満々な顔。これを見るだけで、あの空間から何事もなく男が出てくるというのは無いだろうと感じた。
「ねぇ君?」
先輩と少し喋っていると、横から昨日俺を回復してくれた水色の髪をした女の人が、気さくに喋りかけてきた。
「うわぁぁあ」
ついさっきまでベンチに座っていたはずのこの女性がいきなりここにいるもんだから、幽霊が出たのかってぐらいにびっくりした反応をしてしまった。
「あっ、ごめんなさい急に話掛けたりなんかして」
そんな俺の失礼な態度に嫌がりもせず、むしろ女性の方が謝ってきた。やっぱりどんな時にでも優しく入れるから、あの時俺を助けてくれたのだろうか。そんな事を考えていたら、何だか申し訳なくなってくる。
「いや、大丈夫ですよ、あまりにも急だったもんで」
「それならよかった」
気さくに話しかけてくれるのは緊迫していた自分の体がほぐれてありがたいのだが、絶賛自分の一緒にいた緋色の人が大変な目に合っているのにもかかわらず、この女の人は悠長に俺に話しかけてきている。
「エメルあなたエネルを助けに行かないんですか?」
先輩はその女の人を名前で呼び、自分でしたこととは言え、安否確認ぐらいはした方がいいと女の人を促した。
「あら私そんな優しそうに見える」
女の人は妖美に口角を上げながらそう答える。
「いえ、優しいか優しくないかは置いておいて、エネルがあの中で苦戦しているんですよ」
流石の先輩も不穏に思い、少しだけ警戒態勢に入る。
「マナちゃんあなたエネルが苦戦しているように見える?」
辺りの空気が重くなる。一気にこの場の支配権をあの女の人に奪われた感覚だ。戦いは終わった。なのにこの女の人がそれを許さないようたった一言で、この場をまた戦場にしていた。
「どういうことですか」
もう先程までの先輩はいなく、また数分前の先輩に戻っていた。
「その言いぐさ、やっぱり中の様子は分からないのね」
「!!!!!」
女がそういい放った瞬間だった。
バリーーーーーーーン
先ほどまで空間という形成を保っていたものが、いきなりガラスが割れたかのようなその音とともに壊され、中から少し疲れ気味の男が出てきた。
「はぁ....はぁ....流石にあの空間を脱出するのは、疲れたなぁ」
「っ.......ぁぁぁあ」
「先輩!!!」
男は疲れながらも、軽快に喋っていたが、一方で空間を壊された影響か分からないけれど、先輩は凄まじいぐらいに弱っていた。
「この空間を破ると、行使したものに多大な魔力ショックを起こすのか」
その魔力ショックというやつの影響かは分からないけれど、自分の周りにあった結界も解除されていた。
女の人は、やっぱりこうなってしまったかと言った目で衰弱している先輩を残念そうに見ていた。そしてそのような目をしている女の人を横切り、男は先輩の元まで近寄ってきていた。
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