うちの妹は....

長いようで短い下校が終わり、念願の家に着いた。家の玄関を開けると、テストを無事に終えた凛が待っていた。


    

   「お帰り、刹兄」


手には何やら見慣れない袋をぶら下げながらに挨拶をしてきた。


   「ただいま、今日のテストの調子はどうだったんだ?」


   「ふっふん、もちろん完璧さ、我が兄」


   「そうか、それは良かった。流石は、我が自慢の妹だな」


などと、帰ってきた早々玄関で立ち話をするのはどうかと思うが、それほどに家族とか妹とかという枠組みに囚われずに友達的な感じで気軽に話しかけられる存在でもある。だから変に気を遣わずに済んで、俺としては助かっている。だが....


   「それはそうと凜さんにどうしても聞かなければならない事があるんだ~」


無造作に置かれた自分の自転車に指を指しながらに言う。


   「あ~.....それの事についてね、はは....」


思い当たる節しかないのか、途端に挙動不審になり始めて、自分の人差し指と人差し指をくっつけ始めた。

    

   「やっぱりか」


むしろ盗難などの物騒な事件に会っていないだけマシと前向き捉えておくか。


   

   「はぁ~....使うのは別にいいけど、俺に言ってからにしてくれ」


そうしないと、朝にいきなり自分の自転車がなくなっていた~なんて、心臓が止まりかねない事になる。


   「ごめん刹兄、いくらチェーンが外れてたからといって、勝手に借りちゃだめだよね」


申し訳なさそうにして手のひらをくっつけながら謝っている。


   「反省してるんならいいけど、なんでチェーンなんて外れたんだ?」


凛の登下校する道は、誰もが登下校する道だからという理由により、段差がなくなるよきちんと舗装されているのにも関わらず、何故チェーンが外れるのか。


   「それが、私にも分からないの」


心当たりはないのか、そうはっきりと答える。


   「まっ、取り敢えず自転車屋に行って修理してもらうのが一番か」


ここで素人が頑張って直したとしても、一か月持つのが関の山ってもんだろう。ならばここは、多少お金がかかるが、プロの人に頼むのが正解なのかもしれない。



   「というか、凛のその手に持ってる袋みたいなやつ。それ、なんだ?」


自転車の話で夢中になっていたが、俺が返ってきた時に、凜は外に出るように靴を履き替えていたけど、一体何をするつもりなんだろうか。見る所、ぶら下がった袋から透けた文字に”土”と書いてあるが。


   「ん?あ~ぁ ちょっと私園芸はじめちゃおっかなって」


   「これは、また唐突だな。前テレビで園芸コーナ特集やっている時に、つまんないからチャンネル変えるっていってたのに、どういう風の吹き回しだ?」


   「いやぁ~これがね~理科の授業で植物の事を習っているんですがね、これが意外におもしろくてですねぇ」


コイツが授業で習うことに関心?ましてや植物?うちの妹は自然とかには今まで一切の興味を示さなかったんだぞ、その凛が素直におもしろいなんていうのか?いや違うなにか別視点からの、良からぬことを考えているに違いない。


   「おい、ホントは何が目的だ、まさか、育った植物を転売する気じゃないだろうなぁ」


近頃は、ゲーム機やカード、漫画などの悪質転売だけじゃなく、メダカやマスクそして植物など、意味不明な物まで転売されがちだ。


   「断じて、それはないよ刹兄。私が園芸を始めたのは、ただ純粋に興味を持ったから。いくらお金に困ろうとも、悪には絶対に手を染めない」


凛は幼い頃から、正義感の強い子供だ。それは、俺が一番良くわかってる。まぁ強いて言うなら、俺もいくら生活が困窮になろうとも悪事ははたらかない。


   「ごめん、俺が間違ってた」


凛の真っすぐな瞳を見据えながら謝る。



   「ううん、私の方こそ事前に何も伝えずに、急にらしくないことやり始めちゃったから」


   「らしくないっちゃらしくないけど、でも、好きになったんだろ」


   「うん好きだよ」


   「それなら、全力でやらなきゃな、好きこそものの上手なれだ」


などと、先輩の謳い文句を口にして、かっこつけていた。

   

   「ははは何それ、そんな事言う刹兄の方がらしくないって」


   「確かに、それもそうだな」


家に着いてから少しの時間がたち、俺たちは、玄関でそんな他愛もない話をしていた。あぁこんな時間がずっと続けばいいのに。


   「ところで、どんな、植物を育てるんだ?まぁ最初は、簡単なパンジーかビオラといった所か」



植物を育てるといってもそう簡単ではない、だから最初は、簡単なやつから攻めていき、徐々に難易度を上げていくのが基本なのだが...


   「ううん、食中植物」


   「は?」


凛の口から発せられたその言葉は、外見とはあまりにも矛盾していた。


   「聞き間違えたのかな?」

  

   「いや私が育てたいのは、食中植物だよ、だって凄いじゃん、普段は大人しそうな立ち姿してるのに、餌が着た瞬間に一気に食らいつく、いやぁ動物も植物も同じなんだなぁって、だからその瞬間をみたいの動画じゃなくてリアルで!」



   「却下」

 

   「ええええ!!!」


こうして、凛の食中植物成長日記は、始まりの合図もならずに、終わったのであった。








植物の件からは、四時間程たちもうすぐでご飯の時間だ。


   「刹兄、ご飯できたよ~」


家でのご飯の時間は、一般家庭よりかはだいぶ早い方だろう。両親がいないので必然的に料理を作るのは家事が得意だった凛の方で、凛は消化能力が早い方で、普通の人よりはお腹がすくのが早くなるから、必然的にご飯の時間が速くなる。



   「分かった、今行く」


俺は二階から適当に返事し、食卓のある一階に向かった。


   「っ......まただ」


階段を降りている最中、またあの激しい腕の痛みが襲ってきた。


   「はぁはぁ....っ....」


今日の朝よりもさらにひどい。まるで、腕の中を誰かにかき乱されているかのような感触。


   「ふぅー......はぁー....」


一階に行こうとしている足を止め。手すりに掴まりながら、一度深い深呼吸をした。


   「ふぅー......はぁー....ふぅー......はぁー....」


意識が朦朧とするなか、俺は朝のように呼吸をするだけの機械と化していた。


   「はぁー......よし」


しばらく深呼吸をしていたら段々と落ち着いてきた。


   「慣れれば、すぐに対処できるな。まっ、慣れたくない痛みには変わらないが」


対処方は、最近独自で編み出した物であり、深呼吸をしばらくする、というなぜこの方法で収まるのかは分からないが、この方法を編み出す以前よりはこの腕の痛みは怖くなくなった。


   「まぁ、一様担当医に見てもらおう。いくら慢性的な激しい痛みでもこれはおかしい気がする。明日は日曜だから、病院やってないか、月曜日に見てもらうとするか」


そう決意して階段を降り、食卓のある一階へと向かった。






   

  「いただきます」


五時半ぴったしに響くいただきますの合図。凛は、普通の女子と比べると料理の腕が頭一つ抜けている。昔から料理をしていたおかげで、基本の物ならなんでも作れるようになり、尚且つ味付けも一級品だ。


   「うん、今日も今日とて飯がうまい。こんな妹の兄で生まれて俺は嬉しいよ」


   「相変わらず、大げさだなぁ刹兄、こんなの誰でもできるって」


   「それが、できないから家の妹は凄いって言ってるんだ」


   「いやぁ、それほどでも」


性格自体は、ちょっと変わっているが、それ以外は他の人には引けを取らないスペックだ。まぁそんな妹にでも弱点というものはあり。それが何かというと食べ物の好みだ。肉や魚といったタンパク質ばっか摂取し、野菜といったビタミンをあまり取らないのだ。まぁ野菜は加工せずに生野菜ならマヨネーズをかければ食べれるといった変なこだわりがあり。今日も妹にとっては貴重なビタミンが申し訳程度並べられている。でも今ってマヨネーズ切らしてなかったか?


   「ところでで凛?」


   「ん?何」


   「一つ聞きたいんだけど、野菜何もかけずに食えるのか?」


   「食える訳ないじゃん。だってあれ何も掛けずに食ったら苦いだけじゃん」


確かにその通りである。野菜をなにもかけずに生で食えば、野菜本来の苦みが口の中に広がるだけだが、それを打ち消せる調味料、その名も”マヨネーズ”は最強なのかもしれない。


   「でも、今日の朝冷蔵庫を見たらマヨネーズ切れてたぞ」


朝食の時に、凜から言われマヨネーズを取ろうと冷蔵庫に行ったが、冷蔵庫の中にはマヨネーズと思しき姿は見つからなかったのだ。


   「うん、だから今日頼んだじゃんマヨネーズ切らしてたから買ってきてって」


一瞬何のことやらと思って硬直してしまった。でもすぐに、


  「あ、そっかそれだ」


  「はい?」

 

   「いや、朝学校行くときに何かわすれてるなーと思ってたんだけど。良かったようやく思い出せてスッキリした」


   「私は全然良くないんですけど(怒)」


そこにはさっきまでの温厚な妹はいなく、いるのは不適な笑みを浮かべた少女だけだった。多分マヨネーズを買ってこなかった事より、俺がそもそもの約束を覚えていなかったことに怒っているのだろう。このまま墓穴を掘っていたら、ロクなことにならない。


   「悪かった、明日の朝イチでスーパーに直行するから許してくれ」


機嫌を取り戻すために、今度こそちゃんと買ってきますと約束した。


   「まぁ、反省してるなら別にいいけど」


朝イチで、という言葉が効いたのか、凛はいつもの表情に戻っていた。


   「でも、私野菜食べれないよ」


マヨネーズの問題はどうにかなったが、そもそもの話マヨネーズは、この目の前にある野菜を処理するためのものであり、それがない今、これをどう食しようかという問題が出てきた。


   「いいよ、俺が全部食べる事の発端は俺だしな」


でも、ここは兄として、そして約束をど忘れしていた責任として、俺が全ての野菜を食すことにした。


   「刹兄......」


感動した眼差しでこちらを向いてくる。


   「いやいやいやこんな事でそんな目されたら逆に恥ずかしいわ」


その羨望の眼差しに恥ずかしさを覚え、残りの野菜を勢いだけで平らげてしまった。それから各々の食べる料理を完食し....



   「ご馳走さまでした」



一般家庭よりも少し時間の早い茨木家の夕食が終わった。


  

     「刹兄、お風呂先に入っていい」


食器を流し台に持っていこうとした時に、ソファーでくつろぐ凜からのお願いが聞こえた。


     「いいぞ別に」


普段は一番でお風呂に入っているから、二番目というのは何だか新鮮だ。


     「じゃ入ってくるから~.....あ、郵便が来たら受け取っといて」


俺の返答を聞いた凜は速攻でお風呂場へと向かうべく、椅子から立ち上がっていた。


     「分かった」


それを聞いた凜は、特に何も言わずにお風呂場へと向かっていった。





     

その会話から15分が経過した後、郵便屋が来て荷物を受け取った。


     「やけに重い荷物だなぁ」


その重さは、普通の男性が持ってもかなり重みを感じる程だった。


     「まぁ、開けちゃダメって言われてないし開けてみるか」


好奇心には逆らえない主義なので、開けてみることにした。


     「んっ、よいしょっと」


リビングに置いてあった、カッターで段ボールの扉を切る。重い物だったので厳重に梱包されているものかと思いきや、中から出てきたのはたった一冊の分厚い本だった。


     「どれどれ....」


そこには、”食中植物の育て方”と、謎に重厚感のある文字で書いてある本があった。


     「なんともぬかりないな凜の奴....」


どうやら凜の奴は本格的に食虫植物を育てる気でいるらしい。ただえさえ庭には母の形見とも言える野菜系統の植物が欄列してあるというのに....


     「どうなっても知らないからな」


そう、お風呂場にいる凜に心の中で注意喚起する。


    「刹兄なんか言った?」


    「おぉ、いたのか。びっくりした」


後ろを振り返ると、前髪をおもむろにたくし上げた凜がいるではないか。

どうやら俺がその本だけを見ていて気付かなかっただけか、凜はお風呂を既に済ませており、自分の届いた荷物を確認するべくリビングに来たという訳らしい。


    「お、届いてんじゃ~ん」


俺の肩付近から少し濡れた顔を覗かせ、恐らく....というか絶対に自分が頼んだであろう本を興味津々で見る。その熱烈さは凄かった、首元付近に巻かれたタオルから水滴が滴り本にかかっているにも関わらず、それでもその本への好奇心は抑えられていない。次第には俺の肩までも、ギュッと掴んでいる始末。


    「凜」


このままでは、せっかく届いた本がびしょ濡れになってしまうので、俺の肩を掴む手を引きはがす。


    「わわわ、ごめん刹兄」


やっと自分の巻いているタオルのせいで濡らしていることに気づいたのか、俺の傍から急ぐようにして離れた。



    「まさか、凜がここまで植物に対して執着しているとは思わなかった」


テレビの影響って怖いなと思う反面、凜の何にでも真剣になれるその姿勢は見習わなければと思う。


    「まぁ、ママもあれだけ植物が好きだったんだもん。きっとその血が今になって出てきたんじゃないのかな」

 

生前の母さんは開けても暮れても植物の面倒を見ていた気がする。今思えば、あの時植物に接していた優しい目は、今の凛と一緒な目をしている気がする。


    「どうだか。ていうか、いつまでもそんな髪濡らしてたら風邪ひくぞ」


本から床に対象が移っただけで、凜のタオルと髪からは未だに水滴が垂れている。


    「おっと、本に夢中で気づかなかった。じゃ、髪乾かしてくるから刹兄もお風呂の準備しといてね」


そうとだけ言い残して、ドライヤーのある脱衣所へと直行していった。

 

    「了解」


再び誰もいなくなった部屋の中でそう呟き、お風呂に入るための準備を開始した。




 

     「ふぅ~......」


風呂も上がり、脱衣場で楽な服へと着替える。


     「にしても、相変わらずひどいな」


鏡に映る自分の右腕を見て呟く。右腕全部から、右胸の付近まで侵食している火傷痕。お風呂に入る時とこうして着替えている時の合計2回の地獄の時間。見ないように努力しようとも、そのデカイ鏡はそれを許さず、無理やりにでも視界に入れようしてくる。痛みはまだ何とか対処法があるから何とかなる、でもこの傷を自分の視界に入れるだけでも、あの時の事を思い出し手足が震える。あぁ、母さんと父さんを返してほしい、と心の中で嘆く。こういった症状は、一種のパニック障害なのだろうと医者に診断されたが、火事の光景をフラッシュバックする訳でもなく、嘔吐や眩暈、激しい頭痛に襲われるわけでもないのに、これをパニック障害と言っていいのだろうか。


     「今に始まったことじゃないしな...」


これも火傷をしてしまった後遺症と、そうやって自分を騙すようにして飲み込み、焼け爛れた右腕を隠すようにしてパジャマに着替える。



     「って、珍しいな」


脱衣所から出てリビングに戻ると、何やら凜がまじまじとテレビを見ているではないか。


     「刹兄見て見て家の近くの公園にクレーターが発見だって」


テレビでやっていたのは、地元のよくあるニュース。珍しい話題ということもあり、ニュースを普段見ない凜がソファーに寝そべりながら夢中になって見ていた。

見た所、家からすぐ近くの公園にクレーターが発見されたらしく、宇宙人の襲来なのか!とニュースにしてはポップな字体で、でかでかと書いてある。



     「ただのCGじゃないのか」


そのクレーターは公園の敷地面積の約三分の一を占めており、テレビ越しでも分かるその綺麗さ。月にあるようなクレーターみたいな歪な部分など一切なく、何処の場所を切り取っても絵になるクレーター。その在り方に何故か吐き気を覚えた。


     「いやこれどっからどう見ても本物だって」


必死にテレビを指さしながら抗議をしてくる凜

   

     「どうだかねぇ~....連続失踪事件といい、公園にクレーターとか、最近やたらと不思議なことが起こりすぎじゃないか」


ニュースにはなっていないが陸上部の例の件も含めて最近は本当笑えない世の中になっている気がする。


     「確かにね、でも私達はただこうやって情報を取り入れて指を咥えてみる事しかできない」


     「あぁ、全くもってその通りだ」


妹の主張に、激しく肯定する。一刻も早くこの気持ちの悪い現状が解決してほしいのは確かだが、それを理解して何かをしようとすると、かえって自分の身に何か厄災が降りかかるのがこの世の常だ。


     「あっともうこんな時間か」



ニュースを見た後は、お互いだらだらと過ごし、時刻はとっくに10時を回っている。

     「そういえば私課題やってなかったんだ」


ふと思い出したかのように、ソファーから飛び上がる。この土曜日の夜中にそれに気づいてしまったが最後、今から何時間コースかで宿題というものに縛られる。学生にとっての呪いみたいなものだ。


     「おつかれだな凜」


そうならないように俺は前日の金曜の内に課題を終わらせておく、そうしないと土曜日曜とだらだらと過ごしてしまい、最終的に我が妹のようになってしまうのが怖いからだ。そして今こうして我が妹の絶望した様子を俯瞰することが出来る状況が作り出せるのも前日に課題を終わらせておいて良かったと思う所である。これが本当の高みの見物というものだろうか、こんな思考をしてしまう兄を許してくれ凜。


     「なぁーー!!!!も~うやらなければぁぁぁ」


凛が頭を掻きむしりながら断末魔を上げる。しかし、リビング中に広がるその絶叫は長くは続かない。数秒叫んだ後に、叫ぶ時間すら惜しいと思ったのか、静かになり....


    「刹兄、悪いけど私部屋籠るから、後よろしく!!!」


急いでリビングの扉を開け、バターン!!と思いきり閉める。


     「まったく、少しは扉の事を考えて手加減してもらいたいもんだ」


勢いで跳ね返った扉には同情の念を抱く。


     「......さてと」


一階での用事はあらかた済ませているので、後は自室に行くなり、一人広いリビングでくつろぐのもよしと二つの選択肢が迫られた。


     「う~ん、下にいたって特にすることもないし、二階上がるか」


選択は長期戦を強いられるかと思いきや、あっさりと可決された。

そう頭の中で可決された瞬間、頭は体に二階に行けとだけ信号を送り、体は脳の命令通りに階段を上り自室の扉を開けベットにダイブさせた。


     「はぁ、今日は休日なのにやけに疲れたなぁ」


大半は腕の痛みのせいで疲れたのもある。


     「課題も全部終わってるし、ちょっと早いけど寝るか」


まだ終わってない明から答え見せてと頼まれたが、明の困った様子を想像すると面白いので無視することにした。



「明日は特に予定はないし、凛から頼まれたマヨネーズだけ買って、後は家で先輩からの頼まれ事でもするか」


今から、一週間程前、先輩が”水無瀬さんというお家を調べてほしいのですが”と頼まれ、調べる事になった。最初は、面倒くさい事を押し付けられたと思ったが、先輩”ちゃんと調べてくれたら、ご褒美にランチをおごってあげましょう”なんて言われたので、面倒くさいという思いは吹っ切れ。OKのサインを出してしまった。


    「ていうか、水無瀬家って俺が間違えてなければ病院だよな」


先輩には報告し忘れたのだが、水無瀬家改め水無瀬病院は、俺の傷を見てくれてる病院である。まぁだからどうなのだという話で、別にたいしたことじゃないから、先輩にはあえて報告していない。


    「早く先輩からの頼まれ事を終わらせて、一緒にランチ行こう」


そう自分を、鼓舞するだけであった。


    「タイマーを7時にセットしてっと」


マヨネーズを朝イチに買うと約束した以上、タイマーをセットするというのが礼儀というものだろう。皆がまだ活発な時間帯に、俺は部屋の明かりを消し深い眠りへとついた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る