第13話
「千鶴ちゃーん! 荷物が届いたわよー!」
「はーい!」
階下から彩也子さんが呼ぶ声が聞こえたので階下に下りる。
今日は5月5日。ゴールデンウィーク最終日だ。
週間予報通り、あいにくしとしとと雨が降っていて出掛けるにはあまりよろしくない天気になっていたので、部屋で宿題を片付けているところだった。
1階に下りて彩也子さんが受け取った荷物を渡してもらうと、差出人はパパからだった。荷物の段ボールには『配達日指定』のシールが貼られていて、くすりと笑う。
「どうしたの?」
「福井さん。ちょうどあたし宛てに荷物が届いただけだよ」
「そう。……あぁ、そう言えば今日は千鶴の誕生日だったわね」
「うん。……ってよく知ってたね」
「た、たまたまクラスの知り合いに聞いたのよ!」
「そうなんだ」
羽衣ちゃんかな? 羽衣ちゃんの席のふたつ後ろが翔子さんだし、羽衣ちゃんは普通に翔子さんと話したりしているから何かの拍子にあたしの話題が出て、誕生日が5月5日の今日だと言うことを知ったのかもしれない。
「え? 千鶴ちゃん、今日が誕生日だったの?」
「あ、はい。なのでパパがたぶん配達日指定で誕生日プレゼント送ってくれたんだと思います」
「まぁまぁ、そんな大事なことどうして教えてくれなかったの?」
「わざわざ言うほどのことじゃないと思って……」
ずいっと彩也子さんに詰め寄られて少し仰け反りながら答える。
「お掃除なんかしていられないわ。今日は千鶴ちゃんのお誕生日パーティをします。翔子ちゃん、みんなにも伝えておいてもらえるかしら?」
「はい、わかりました」
「いや、そんな大袈裟な」
「ダメです」
「はい」
有無を言わせぬ調子で言われて頷かざるを得ない。
「友喜音ちゃんも帰ってきてることだし、みんな揃ってパーティね。こうしちゃいられないわ。今すぐパーティの材料を買ってこなくちゃ」
そう言うなり彩也子さんは掃除機を翔子さんに押し付けて台所のほうに行ってしまった。
「いいのかなぁ」
「いいのよ。毎年誰かの誕生日にはこうしてパーティをして彩也子さんが腕を振るってくれるんだもの。さすがに今日のうちにプレゼントってわけにはいかないだろうけど、みんなでパーティをして楽しめばいいと思うわ」
「福井さんがそう言うなら」
なんかいきなりの話で彩也子さんに負担をかけるんじゃないかと思ったけど、彩也子さんは乗り気だし、翔子さんも気にしないでいいと言うようなことを言ってくれる。
それならせっかくパーティを開いてくれるのだから楽しむのがパーティをしてくれる彩也子さんへの恩返しだと思うことにした。
「誕生日おめでとう! 千鶴(ちゃん)!」
「あ、ありがとう」
夕飯の時間を使ってあたしの誕生日パーティが開かれた。
彩也子さんは慌てて買い物に行ったにも関わらず、イチゴがたくさん乗ったケーキを1ホールと、豪勢な料理であたしの誕生日を祝ってくれた。
こんな友達を呼んでのパーティなんて小学生以来だったからくすぐったいやら気恥ずかしいやらで落ち着かなかった。
「でも千鶴も水臭いよなぁ。誕生日とかのイベントには彩也子さんが張り切って腕を振るってくれるって前にも言ったのに教えてないなんて」
料理をパクつきながら舞子さんがそんなふうに言う。
「そうだぞ! あたいも去年一昨年と彩也子さんには盛大に祝ってもらったからな! 遠慮することなんかなかったんだぞ!」
「そうだね。彩也子さんは寮生の誕生日とかにはいつもお祝いをしてくれるから早めに教えておいてあげてたほうがよかったね」
夏輝さんも友喜音さんも舞子さんに同調する。
確かに季節のイベントや誕生日なんかには彩也子さんが腕を振るってくれるとは聞いていたけれど、まだ入寮してから1ヶ月余りの新米なんだからと思っていた。でも彩也子さんにはそういうのは関係なく、可愛い寮生のお祝いをするのが嬉しいのかもしれない。
そうなるとむしろ3人が言うように伝えていなかったことのほうが悪いような気がしてきた。
「でも今は千鶴を責めても仕方がない。せっかくのパーティ、楽しまないと損」
「静音の言うとおりだな。パーッと盛り上がろうぜ」
舞子さんの言葉に全員が頷く。あたしもせっかく用意してくれたのだから無碍にするわけにはいかないと頷いた。
それからは無礼講で料理を食べ、ノンアルコールのシャンパンを飲み、会話に花を咲かせる。
もちろん、ゲームだってした。
歓迎会のときのようなことはごめんだったので、ツイスターゲームはさすがにやらなかったけれど、舞子さんが取ってきたトランプでババ抜きをしたり、ポーカーをしたりと楽しい時間を過ごした。
「でも事前に知ってればみんなでお金を出し合って千鶴ちゃんにプレゼントを買ってあげられたのにね」
残念そうに友喜音さんがそんなことを言ってくれる。
「いいですよ。パパから誕生日プレゼントはもらいましたし、こうしてパーティを開いてもらえるだけで嬉しいです」
本心からの笑顔で友喜音さんに答える。
すると舞子さんが不穏な笑みを浮かべた。
「プレゼントなんてなんか買ってくるだけがプレゼントじゃないだろう?」
そう言って席から立ち上がるとあたしのところにやってきて、あたしの手を取るとその豊かな胸にあたしの手を当てさせた。
「ま、舞子さん!?」
「身体で払うって手もあるんだ。今日の晩、うちの部屋でたっぷりプレゼントをあげてもいいんだぜ?」
「ちょっと! 舞子!」
固まりかけたところに翔子さんの助け船が入る。
けれど、舞子さんのこの言葉に対抗心を燃やしたのか、今度は静音さんが参戦してきた。
「舞子、抜け駆けはズルい。千鶴、舞子がイヤならわたしでもいいよ?」
「いやいやいやいや! そういうプレゼントはいりませんから!」
「なんだ!? 舞子や静音じゃ不満なのか!? じゃぁあたいが立候補するか!」
「不満とかそういう問題じゃありません!」
そう叫ぶものの、3人には聞こえていないのか、うちがとかわたしがとかあたいがとか、あたしを置き去りにして勝手に喧々諤々の問答を繰り広げている。
「あらぁ、千鶴ちゃん、人気者ねぇ」
こういう意味での人気者にはなりたくありません、彩也子さん……。
けれどいつの間にかお風呂に一緒に入るのは誰かとか、一緒に寝るのは誰かとかと言う話になっていて、3人はじゃぁ公平にじゃんけんでと言う流れになっていた。
いつの間にそんな話に!?
友喜音さんは『千鶴ちゃんに迷惑でしょう?』なんて3人を窘めているけれど、3人には馬耳東風なのか、友喜音さんの言葉をまるっと無視してじゃんけんをしている。
「もうっ! やめなさい! 3人とも!」
「福井さん……」
「千鶴は物じゃないのよ! プレゼントは後日みんなでお金を出し合って買いに行けばいいじゃない!」
「それじゃつまんねぇ」
「千鶴はわたしの身体じゃ満足しない?」
「こういうのは当日だからこそだぞ!」
「お黙り! 後日みんなで買い物に行く。それで決まり! いいわね!?」
「へーい」
「わかった」
「仕方がないな!」
翔子さんの一喝で何とかこの場が収まってホッとする。
「助けてくれてありがとう、福井さん」
とんでもないことになりそうなところを助けてもらって、感謝の意味も込めて翔子さんに耳打ちするとキッと睨まれた。
「千鶴も優柔不断なことしてないで、ズバッと言いなさいよね! 昔からそうなんだから!」
「え? 昔から?」
「な、何でもないわよ!」
つんとそっぽを向いて残っていたケーキを翔子さんは食べ始めた。
助けてくれたり、怒ったり、何だか忙しい人だなぁと思うものの、3人の魔の手から逃れることができたのは翔子さんのおかげなので気にしないことにする。
それにしても昔からとはどういう意味だろう?
翔子さんとはこの寮に来て初めて会ったはずのなのに。
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