第4話

 豪快な言葉遣い通り、豪快な性格らしく、下着とパジャマを取ってお風呂場に戻ってきて、服を脱衣籠に入れてお風呂に入ると夏輝さんはもう髪を洗ったらしく、ひとつしかないシャワーでシャンプーを洗い流していた。

「おぉ、来たか! あたいはもう髪を洗ったからな! シャワーは使うといい!」

「は、はい」

 古いお風呂なのでマットが敷いてあるだけだけど、夏輝さんはシャワーを譲ってくれたのでお言葉に甘えて使わせてもらう。夏輝さんは身体を洗うのに湯船から掛け湯をしながらだったので、あたしはシャワーで、夏輝さんは掛け湯で身体を洗う。

 誰かと一緒にお風呂に入るのが嬉しいのか、夏輝さんはご機嫌な様子で鼻歌なんかを歌いながら身体を洗って先に湯船に浸かった。

 あたしもシャンプーとトリートメントをして、身体を洗ってから湯船に浸かるとまだ夜は肌寒い春の夜に温かいお風呂のお湯が心地いい。

 さすがに夏輝さんがいくら小さい身体だと言っても狭い湯船にふたりで入るのはやっぱり狭くて、体育座りで膝を抱えていないと向かい合わせに湯船に浸かれなかった。

「どうだ!? もうこの寮には慣れたか!?」

「昨日来たばっかりですからまだ慣れるとかそういうレベルの話じゃないですよ」

「そうか! そうだな! まだ帰ってきてないヤツもいる! 彩也子さんは全員帰ってきたら千鶴の歓迎会をやると言っていたし、それまでに少しでも慣れるといい!」

「そうですね」

 夏輝さんの大きな声がお風呂に反響してさらに大きく聞こえる。

 夏輝さんは湯船に体育座りをして座っているあたしの裸をじろじろと眺めてくる。

「な、なんですか?」

「胸を揉んだときにはわからなかったが、なかなかバランスの取れたいい身体つきをしているな!」

「あ、ありがとうございます」

「あたいはこんなだからな! 正直、羨ましくないかと言われれば羨ましいくらいだが、人を羨んでいても仕方がない! その分、あたいは千鶴や舞子の裸を見て満足しておこう!」

 どういう理屈だと思ったものの、いっそ清々しいくらいの言葉が何となく夏輝さんらしいと思った。

「でも、夏輝さんだって身体は小さいですけど、細いって言うより引き締まってるって感じがして健康的じゃないですか」

 あたしがそう言うと夏輝さんはにかっと笑った。

「そうか!? だが、胸はこんなだし、毛も薄いからせめて毛くらいはもう少し生えてくれてもよかったと思うぞ!」

 そういうものだろうかと思っていると夏輝さんはいきなり立ち上がった。

「ほれ、あそこの毛もこんなだぞ!」

 そう言うと夏輝さんはがに股になってあたしに股を見せつけてきた。

 確かに薄い。

 小学生くらいの体型だからかもしれないけれど、お股の陰毛も産毛とまでは言わないけれど小学生だと言われても不思議ではないくらいの薄さだった。

 とは言え、曲がりなりにも高校3年生が、あたしが同じ女だとは言え、股間を堂々と見せつけると言う構図はまずいわけで。

「わかりました! わかりましたから見せつけないでください!」

「なんだ、触りたいのか?」

「違います!」

「遠慮するな!」

 そういうと夏輝さんはあたしの手を取って自分のお股に当てさせた。

 引き締まった小さな身体からは想像もつかないくらいぷにっとして柔らかいそこの感触に思わずびっくりしてしまったけれど、これまた同じ女だとは言え、お股に手を当てると言う状況はやっぱりまずい。

 慌てて手を振り解いて夏輝さんのお股から手を離すと夏輝さんはきょとんとした顔をした。

「やっぱりおまえも舞子や静音のようなあそこがいいのか!?」

「見たことないから知りません!」

「舞子なら見せてくれと頼めば見せてくれるぞ! 今度頼んでみるといい!」

「頼みません!」

「同じ女ではないか! 遠慮することはない! それに舞子は下の毛まで手入れしているから綺麗なものだぞ!」

「見たことあるんですか!?」

「あるぞ! あいにくとあたいには手入れするほどの毛は生えていないから縁のない話だがな!」

 ざぶんと湯船に浸かり直して夏輝さんは磊落に笑う。

 舞子さんや静音さんのファーストコンタクトとはマシだと思ったけれど、夏輝さんは夏輝さんでとんでもなく恥じらいと言うものがない。

 だいたいお股を触らせるとか、あたしにはとてもじゃないけどできない。

 けれど、それからは彩也子さんのご飯は何でもおいしいとか、舞子さんや静音さんの話をしてそれ以降はボディタッチの類はなかったので、狭苦しいながらもゆっくりとお風呂に浸かることができた。

 お風呂から上がってバスタオルで身体を拭って下着、パジャマと着ていると夏輝さんは持ってきた無地のショーツとブラをつけたままで廊下に出ていってしまった。

「色々話せて楽しかったぞ! また一緒に風呂に入ろう!」

「気が向けば……」

「遠慮しいだな! 舞子や静音も頼めば一緒に入ってくれるぞ!」

「ひとりがいいです」

「そういうな! すっぽんぽんでなければできない話もあろう! これから同じ寮で暮らすのだ! そう遠慮することはない!」

 遠慮したいです。

 舞子さんは人の布団に裸で潜り込んでくるし、静音さんは何を考えてるかわかんないしで一緒にお風呂に入ったらどんなことになるかわかったものじゃない。

「ではな! また明日!」

「はい」

 そう言って夏輝さんは下着姿のまま、廊下を歩いていってしまった。

 あたしは髪を乾かしてから戻ろうと思っていたので、洗濯機が置いてある部屋に行ってそこにあるドライヤーで髪を乾かし始めた。何でも古い寮なのでドライヤーや電子レンジを何人かがいっぺんに使うとブレーカーが落ちるらしく、髪を乾かすときはここに来てここに置いてあるドライヤーを使うのが決まりらしかった。

 それにしても……。

 夏輝さん、ホントに恥じらいとかそういうのを身に付けたほうがいいんじゃないかと思う。

 一事が万事、『同じ女だから』と言う理由で片付けられそうでこの誠陵館に来てからまだ3人の寮生にしか会ってないと言うのにどっと疲れが押し寄せてきた感じだった。

 舞子さんに静音さん、夏輝さん。

 昨日ここに来てから出会った寮生は3人目。

 残りはふたりと言うことで、どうかまともな人でありますようにと思わずにはいられなかった。


 髪を乾かした後、部屋に戻ってスマホでゲームをしたり、もう何度目かわからないくらい読み返した雑誌を見てから午後11時過ぎくらいには布団に入ったあたしは電気を消して就寝体勢に入った。

 しばらくしてうとうとし始めたころ、ギシギシと階段が軋む音が聞こえてきた。

 もう夏輝さんも静音さんもお風呂は終わって自分の部屋で休んでいるか、早ければもう寝ている時間だろう。夏輝さん辺りはもう寝てそうな気がする。

 彩也子さんかなと思ったけれど、階段を上がって何となく足音を立てないようにそろそろと歩いている感じがしたから彩也子さんじゃないだろう。

 いったい誰だろうと思い、起き上がって部屋の扉を開けて廊下を見るとうっすらと人影が見えた。

「だ、誰!?」

「え? あ、その、ごめんなさいごめんなさい!」

 誰何するとその人影はぺたんと廊下にしゃがみ込んで平謝りをしてきた。

「何?」

 平謝りの声に気付いて静音さんが部屋から出てきた。やっぱり夏輝さんはもう寝たのか、部屋から出てこない。静音さんが出てきたついでに廊下の電気をつけたので、ようやく人影の主が露わになった。

「友喜音ちゃん。今帰ったの?」

 相変わらず抑揚のない口調で静音さんが尋ねる。

 縁なし眼鏡にふたつに垂らしたお下げがいかにも古風な文学少女と言った様子の、友喜音ちゃんと呼ばれた女の子は、静音さんの姿にホッとした様子を見せた後、あたしのほうを見て呟いた。

「誰?」

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