こんにちは、昨日貴方を助けた犬です。

御影

第一話 はじめまして、

俺の名前は愛川雷斗あいかわらいと

中学2年だ。

好きな動物は犬。

俺は犬が大好きだ。

特に、トイプードルが好きなんだよなぁ。

あのクリクリとした目がキュートで、とっても可愛いんだ。

今日も今日とて可愛い動物のことを考えながら、通学路を歩いて学校に向かっていると、近くから何か聞こえてきた。

「くぅーん…」

後のする方に近づいてみたら、一つの段ボールが置かれていた。

段ボールに貼られた紙には『拾ってください』と書かれていた。

「え、まじかよ…」

いやな予感がした。

俺は段ボールの中を覗いてみる。

「やっぱりなぁ…」

こう言う時の悪い予感はどうしてこうも当たるのだろう。

中には、弱った小さなトイプードルが入っていた。

「大丈夫か?可哀想に…飼い主に捨てられたのかい?」

俺は段ボールの中にいるそいつに向けて話しかける。

「よしよし…拾ってやりたいのは山々なんだが…」

そう。今は登校中なのだ。

犬を連れて学校に行くことはほぼ不可能。

先生に事情を説明しても取り合ってくれることは無いだろう。

つまり、夕方まで誰も来なければこの犬はずっとこのままである。

「どうしよう…連れていきたいけど…でも…でも…」

悩んでいた俺の耳に、無情な現実を叩きつける鐘の音が鳴る。

キーンコーンカーンコーン…

チャイムが鳴った。今から走ればぎりぎり遅刻は免れるだろう。

犬と自分の内申。

この二つが天秤にかかっている。

そして、俺が選んだ方は…

「…ごめんね!」

結局俺は、自分を選んだ。

こんなことして、何が動物好きなんだ。

俺なんか動物好き失格だ。

そんなことを考えながら、俺は学校へ向け走った。


✳︎


「…と言うことであって…おい愛川、どこ向いてんだ!」

「えぁ、すみません…気をつけます」

「全く…いつもの愛川らしく無いぞ?何か悩みがあるなら聞くからな?」

担任の先生に注意されてしまった。

もう5限目…昼過ぎの授業中である。

あれから俺はずっとあの犬のことが頭から離れない。

そのせいで、いつもなら集中して受けれる授業も、集中力を欠いていた。

このあと6限目を終えれば、全てが終わる。

俺は学校が終わるのを今か今かと待ちわびていた。


キーンコーンカーンコーン

「お前ら、気をつけて帰れよぉ〜」

担任の先生の声を聞き流して、俺は走り出す。

普段なら仲良く帰る友達の声も、廊下を走るなと怒鳴る先生の声も、その全てが右から左へと流れていく。

俺の頭の中にあるのは、あの犬のことだけだ。

急いで靴箱へ行くと、いち早く下靴に履き替え、靴紐をぎゅっと縛る。

気持ちいつもより強く縛ったきがする。

それは、靴紐が解けず、すばやくあの犬の元に辿り着きたいと言う、気持ちの表れかもしれない。

「待っててくれよ…」

綺麗なスタートダッシュを決め、俺は通学路を駆け出す。

今のスタートは、間違いなく陸上部顔負けだったと思う。

前を歩く同じ学校の奴等(主に同級生と先輩)を避けながら、朝に段ボールがあった場所に向かう。

そして、その場所にたどり着いた時…

「嘘だろ…おい…」

俺は絶望していた。

そこには何もなかった。朝そこにあった筈の段ボールは、そこには無かった。

朝聞こえたはずの可愛い鳴き声も、聞こえない。

「ま、まぁ、誰か優しい人に拾われていたんだろう…な…うぅ…」

気づけば自然と涙が出ていた。

心のどこかで、あの犬を助けられるのは俺だけだと慢心していた。

俺は重い足取りで家へ向けて歩き出す…


「きゃうん!」


筈だった。

俺の耳は聞き逃さなかった。

今確かに、あの犬の悲鳴が聞こえた。

普通の鳴き声かもしれなかった。

だが、その時の俺は間違いなく悲鳴だと、そう確信していた。

「まさか、近くにいるのか…!?」

鉛のようだった足はいつのまにか羽のように軽くなっていた。

急がないとければと、頭の中では思っているが、運動はそこまで得意じゃ無い。

でも、そんな言い訳をしていたら、取り返しのつかないことになる。

後悔したく無い。その一心で俺は走り続けた。

しかしどこを探しても見当たらない。

「居ない…居ない…どこだ…どこにいるんだ!」


くぅーん…


近くから聞こえていた声はどんどんと弱くなっていく。

そして、それと反比例するように、汚い笑い声が響いていた。

「この犬、変な声あげてるぜ?

もうすぐタヒにそうだぜ?がへへへw」

「がっはっはw

この犬さっさとやっちまおうぜw

どうせ飼い主なんか現れないしよぉ〜?」

…聞こえてきた声は、俺のクラスに居るクズ2人だ。

その声は近くを流れる川に架かる橋の下から聞こえてきた。

多分そこにあの犬も居るんだろう。

普段の俺ならチキって飛び出すこともしなかった。

でも、その時の俺は犬のことしか頭になくて、無謀と分かりながらも俺は飛び出して行った。

「や、やめろ!

その犬から離れろ!」

上ずって、そして震えた声で精一杯叫ぶ。

「あ?今いいとこなんだよ。

邪魔すんなよ」

「それともお前が代わりになるって言うのか?

ま、お前みたいな意気地なしには無理だろ…」

「なってやるよ…その代わりにその犬にはもう手を出すな!」

言ってしまった…もう後戻りは出来ない。

「そうか、そうか、

なるお望み通りお前からあの世に送ってやるよ!」

「ぐほっ!…」

鳩尾を殴られた。

そこから俺は殴る蹴るの応酬を受けた。

血も出たし節々が痛い。

今にも胃の中のものを戻しそうになる程気持ちも悪い。

「さーて、これでとどめ!」

鉄パイプだろうか。

銀色の棒を持って2人が俺に近づいてくる。

そして、俺に向けて振り下ろそうとしたその時。

「こら!貴様ら何をしている!」

「や、やべ!警察だ!」

「逃げるぞ!」

どうやら警察が来たようだ。

あいつらは鉄パイプを捨てて逃げ出した。

「こら、待ちなさい!」

警察は自転車で追いかけ始める。

俺は血だらけの手で、犬を撫でながら

「大丈夫か?

怪我、してない?」

不細工な笑顔を見せながら声をかける。

くぅん…

犬は、とても悲しそうな目をしている。

「ごめんな…飼ってやりたいんだけど…うち、ペット飼えないんだ…でも、ここまでして捨てられないから…一緒に動物病院まで行こっか…今日の餌代も俺が払うからさ」

俺は痛む身体に鞭打って、段ボールを抱えて動物病院に向かう。


「久しいな、今日はどうしたの…って、雷斗くんその怪我どうしたの!?」

「それは…それより、この犬をどうか助けてあげてください!

俺は後回しで良いから、」

知り合いの医者がいる、動物病院に駆け込んで俺は犬を預ける。

時刻を確認しても意外と時間は経っておらず、まだ4時過ぎだった。

「しかしだね、君の怪我の方が心配で…」

「その犬の方がきっと重傷ですから。

お願いです…どうか助けてください!」

「…分かったよ…必ず助けるから、君は早く病院行きなさい」

「ありがとうございます…ありがとうござ…いま…す…」

「あ、おい!雷斗くん!?しっかりしたまえ!」

俺の記憶はそこで途絶えていた。


「…んん…ここは…」

辺りを見回すと、自分の家だった。

どうやらあのあと、俺は病院で処置を受け、家に帰って寝ていた様だった。

親は出張でどちらも家にいない。

「あれ。ここまでどうやって俺来たんだっけ…色々わからない事ある…気になるなぁ…って、もう夜か…明日も学校だし、俺は寝るか…」

寝ようとした時、家のチャイムが鳴った。

ピーンポーン

こんな時間に誰だろう。

「はーい」

ガチャ

ドアを開けて、外を見る。

そして、そこに居たのは…この世の人とは思えないほど美しいお姉さんが立っていた。

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