幻想陰陽師

@sansyonoki

第1話 王都の外れにて

アスガルド王国には日本と同じように四季が存在していた。


貴族の中には春夏秋冬各々の趣を感じ取るために、庭園に季節ごとに盛り衰える草花を植え、人工的な自然を楽しむことに力を注ぐものもいた。


しかし王都の外れにある邸宅にはそのような人工さはなかった。

かと言って草花の伸びるに任せただけでは生まれ得ない、趣がそこにはあった。

長く続いている雨に濡れた紫陽花や、池に浮かんでいる蓮、蛙の鳴りやまない声が何とも季節を感じさせてくれる。


邸宅の主人の名はサン・アースゲート。

アースゲート侯爵家の三男でありながら、王都の外れに家を構えた宮廷では変わり者と評判の男であった。


サンは侍女に持ってこさせた酒をちびちびと飲んでいる。


と、そこに侍女が


「ラルフさまがお越しです。」


と声をかけた。


「ようやく来たか。すぐに通してくれ。」


やってきた男はラルフ・ギルバート。

ギルバート子爵家の長男にして第二騎士団に所属している男であった。


「遅かったではないかラルフ。お前と共に飲もうと思っていたのにお前が遅いせいで俺だけ酔ってしまったではないか」


サンは空になったグラスを振りながら攻めるような口調で言う。


「何を言う。俺は今晩先触れも出さずに訪れたというのに、どうして俺と共に飲もうなどとしていたのだ。おかしいではないか」


ラルフも勝手に酔って何を言っていると逆に攻める。


「ラルフ、お前貴族街から平民街に出る橋の上でサンの家で庭でも見ながら酒でも飲むかと言っていたではないか。それを聞いたからこそ、こうして共に飲む準備をしていたというのにお前はどこで寄り道をしていたのだ」


「サン、お前また式とやらを使って俺を見張っておったな!常にお前に見張られているような気がするからやめよとこの前言うたばかりではないか!」


ラルフは声を荒らげながらサンに問いかけると、


「お前を見張っているわけではない。貴族街に不貞な輩が入らぬよう見張れと命じられているから橋の下に式を忍ばせておるのだ。そうしたらお前が俺の名前を出したものだから式もわざわざ報告をしてきたのだ。」


サンは飄々とした態度でおのれに非は無いと語る。


「なに、お前はそんな事まで命じられているのか。まったく、世間では侯爵家に生まれた変人として知られているのに、その実そのような大事な命もこなすとは、世の中の人間も見る目のないものよ」


「ラルフ。人やモノこの天地にある全てのものは見る角度や見方によってどのようにも見えるものなのだ。世の中の人が見る目がないわけではない。所詮、俺もお前も平民も王もただの人間。それぞれ身分や職業というような呪に縛られているに過ぎぬ。世間の評判をいちいち気にしていてはきりがないぞ。」


サンがこのようなことを言えば、ラルフは頭に手をやりながら


「サンよ。俺にその手の話はするなと言っておろう。お前の話を真剣に聞いていると俺は頭が痛くなるのだ。」

と言うのがいつもの二人のやり取りであった。


「そうか、それは済まないことをしたな。それでラルフ、俺の予想ではもっと早く来ると思っていたが結局何をしていたのだ」


サンからの問いかけに対し、ラルフははっとした顔で言うのだった。


「サン、お前キュプロス男爵の令嬢の噂は知っているか?」

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