第242話「え? オーガなんかよりもず~っと儲かる?」
ということで、対ドラゴン10体戦へ臨む。
基本的には、俺と魔獣ケルベロスが戦う事に。
ギルド、サブマスターのエヴラールさんには、二歩、三歩さがって貰い、
後方支援役になって貰う。
そう、説得した。
敵襲!を報せて来たケルベルスは、既に迎撃態勢へ入っているはずだ。
ロッジを出る前、エヴラールさんへ念を押す事にした。
「すみません、エヴラールさん、まじめな話ですが……」
笑顔で話していた俺が一変。
エヴラールさんは、何事なのか?と身構える。
「は、はい! 最高顧問! な、何でしょう?」
ここで俺は勿体つけず、単刀直入に言う。
「俺の援護云々よりも、ドラゴンを無理やり倒すとかよりも、ご自分の身を守る事を最も優先してくださいね」
上司の俺を命を懸けても守るとか、せっかくの好機到来だから、無理してもドラゴンを倒すとかはやめ、自分の命だけを大事にしろ!という事。
つまり、それだけ危険大という事だ。
「…………わ、分かりました」
少し噛んだエヴラールさんの顔が引き締まる。
そう、これから俺達が対するは、ドラゴン10体。
決して油断せず、気を引き締めろという戒め。
ドラゴン10体を既に倒した俺が淡々と言うのだから、
シビアで冷え冷えとした空気を感じたらしい。
でもこれで、エヴラールさんは無謀な事をしないだろう。
後は実際、ドラゴンどもと正対して貰い、どう受け止め、どう感じるか。
一方の俺は、先の勝利経験を活かし、それでも過信せず、ドラゴンどもと戦うのみだ。
俺とエヴラールさんは、そんな会話を交わしつつ、ロッジを出た。
ふたりで、静かに小走り。
警戒しながら、ドラゴンが出現した『現場』へ向かう。
以前に来たので、地形は把握していた。
一番の採取場である川の少し先に、魔物が湧き出る次元の裂け目がある。
繰り返して言うが、この次元の裂け目が、
魔法使いが召喚する際、魔物を呼び出す魔方陣のように、魔物を出現させる出入り口となっているのだ。
その裂け目からしばし離れた場所に、身を隠し、気配を消し、ケルベロスは居た。
戦闘に入らなかったのは、俺とエヴラールさんが到着するのを、
わざわざ待っていてくれたらしい。
そしてケルベロスが待機した理由がもうひとつあったのが分かる。
何と何と!
ラッキーな事に……
照らされる魔導灯の明かりの中で、
ドラゴンどもは、エヴラールさんが斬り捨てたオーガどもの死骸を、
がつがつと、むさぼり喰っていたのだ。
がり、ばり、ぼり、むしゃ、くちゃ、ばく、ぐっちゃ、ぐっちゃ…………
がり、ばり、ぼり、むしゃ、くちゃ、ばく、ぐっちゃ、ぐっちゃ…………
がり、ばり、ぼり、むしゃ、くちゃ、ばく、ぐっちゃ、ぐっちゃ…………
オーガの死骸に群がるドラゴンども。
俺の後方に控えるエヴラールさんが、思わず声を出す。
大声を出して気づかれないよう、感情を押し殺しているのが、
放つ波動で伝わって来る。
「ち、ちくしょ、あ、あいつら! お、俺が倒したオーガどもを、く、喰っていやがる……」
だが、ケルベロスが、敢えてドラゴンどもに「食事をさせた」のは、正しい。
人間でも、動物でも、腹が減っている腹ペコの時は理由もなく「いらいら」し、荒れる。
対して、満腹の時は割と落ち着いていられる。
ケルベロスは、ドラゴンの腹を満たす事で、
俺達への戦闘意欲を少しでも抑えられればと考えたに違いないのだ。
しかし、エヴラールさんは渋い表情。
もしかしたらエヴラールさんは、オーガどもを回収し、
持ち帰ろうとしたかもしれない。
皆さんは、お分かりかもしれないが、
ゴブリン、オーク、オーガなど魔物の死骸から取れる部位の皮も、
ドラゴン同様、鎧の原料などとして、売却し、利益を得る事が出来る。
冒険者ギルドは、当然買い上げを行っているから。
そういう方法でも、冒険者は日々の糧を得る。
ドラゴンほどではないが、オーガは結構高く売れる。
それを『横取り』されれば、悔しいだろう。
しかし俺は振り返り、にやっと笑う。
「エヴラールさん」
「さ、最高顧問」
「リスクが減りました」
「リ、リスクが減った?」
「はい、俺達はラッキーでした。あいつらメシ食って落ち着きますから」
「俺達はラッキー? メシを食って落ち着く?」
「はい、油断は禁物、命は大事にですが、満腹となったドラゴンは戦いやすくなりますよ」
「満腹となったドラゴンは戦いやすく……お、おお、成る程」
「ええ、大事の前の小事です。それにドラゴンどもを倒せば、オーガなんかよりもず~っと儲かりますから」
「え? オーガなんかよりもず~っと儲かる?」
一瞬驚いたエヴラールさんであったが、俺の話の意味をすぐに察したらしい。
「な、成る程。ええ、最高顧問。命は大事にをモットーに、頑張って、がっつり儲けましょう」
と、冒険者らしく、俺と同じように、にやっと笑ったのである。
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