第231話「お前が大好きで、大事にしてくれる人ならば全然構わないと」

アレクサンドル陛下、グレゴワール様、そして俺。

3人の打合せは、わきあいあいのうち、盛り上がって終わった。


トレゾール公地を含めた王国直轄地の数か所と、

後継ぎが不在で、当主が引退、断絶した貴族の旧領地の割譲は、

アレクサンドル陛下がOKしたので、後は王族と閣僚数人の承認を得るだけ。


王女ルクレツィア様の持参金、大破壊を収束した恩賞という名目があるし、

逆に、もしも反対する者が居たら、


「王族、貴族で、現政権に不満を持つ者のあぶり出しになる。一石二鳥だ」


と、陛下とグレゴワール様は面白そうに笑う。


こっわ!

貴族社会の裏というか、闇を見た瞬間である。


まあ、不満分子はすぐ粛清するとかではなく、まずコミュニケーションをとって、

あつれきを無くす努力をすると聞いて安心はした。


魑魅魍魎の王族、貴族社会で、今後俺も生きていくし、愛する家族を守る為、

脇を甘くせず、頑張らなきゃ!と気合を入れる出来事だった。


その後、お披露目となるはずだった、王立闘技場のトーナメント、ファルコ王国王家主催武術大会へ、俺ロイク、エントリーの話で盛り上がる。


巷から出るであろう、やっかみ、そねみ、怨嗟の声を、

俺が優勝して、完全にシャットアウトするようにと、

ふたりからは、凄いプレッシャーをかけられた。


そんなこんなで、アレクサンドル陛下の下を辞去。


グレゴワール様と一緒に、執務室へ戻る。


政務が溜まっているというグレゴワール様と別れ、俺はひとり王国執行官執務室へ。


入室すると、シルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさんが心配そうな顔で待っていた。


最後にプレッシャーをかけられたので、俺の顔が暗かったのだろうか……


ふるふると顔を振って、俺は微笑み言う。


「陛下、グレゴワール様との打ち合せは万事上手く行った。最終承認を得れば、俺は伯爵として、結構な数と広さの領地を頂ける」


そんな俺の言葉を聞き、秘書達は大喜び。


ゆくゆくは、リヴァロル公爵家を受け継ぐとはいえ、

現在の俺は王国執行官として勤務する一種のリーマン。


なので、『領地』という生活基盤を得る事は、

「貴族として、一人前だ」と認めて貰うあかしだからだ。


でも、『領地』を得るよりも、運営し、発展させ、維持して行く方が困難である。

俺も秘書達も、それらの方面は疎い。

なので、しばらくはリヴァロル公爵家派遣の管理官に頼るしかない。


全員領地運営に関して、日々勉強という事となるだろう。


俺はもうひとつ、婚約、結婚確定の発表の仕様とスケジュールが変更になった事も伝える。


嫁ズが全員、ルクレツィア様と一緒に、大聖堂で発表と聞き、

今度はシルヴェーヌさん達が、大きなプレッシャーを受けていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


本日の午後は、冒険者ギルドへ。

その前に、少し早めに出て、4人全員でランチを摂る事に。


ギルドへ向かう馬車の車内でトリッシュさんと話す。

これから行く場所の確認だ。


アメリー様同様、トリッシュさんのご両親と会い、


「パトリシアさんを、絶対幸せにします! 僕にください!」


トリッシュさんの本名で、儀式を行わねばならない。


本来はもっと早く、トリッシュさんのご両親に会うべきであったが、

アメリー様同様、ルクレツィア様との兼ね合いで先延ばしとなっていた。


そしてこれまたアメリー様同様、

トリッシュさんから両親へ結婚の意思は伝えられていた。


結婚相手が上司である俺である事。

自分の他にも妻となる女子が居る事も。


トリッシュさん曰はく、ご両親から、俺との結婚に、反対はされなかったという。

お前が大好きで、大事にしてくれる人ならば全然構わないと。


ひとり娘であるトリッシュさんのご両親は、冒険者ギルド所属だった元冒険者。


お父さんが戦士。

お母さんが魔法使いだった。


引退後は、料理好きを活かし、ご両親ふたりで居酒屋ビストロを始めた。


つけた店名は邂逅亭かいこうてい


運命の相手と巡り合い、人生を紡いで行く素敵な店であれば……

という趣旨で、名付けたようだ。


そんなご両親の間に生まれたトリッシュさんだが、

自分は戦闘には不向きだと、認識し、冒険者ギルド職員の道を目指し、希望を果たした。


職員の仕事を全うした後、頃合いを見て、邂逅亭を継ぐ事も考えていたという。


さてさて!


トリッシュさんが結婚の話をする中、明るいご両親らしく、

タイミングが合えば、他のお嫁さんもつれて、

彼氏である俺と全員一緒に来るようにと、言われたらしい。


それが今日のランチとなったわけ。


今日は、ルクレツィア様、ジョルジエット様、アメリー様は行けないけれど……

いずれ邂逅亭かいこうていへ連れて行こう、家族全員で伺おうと、

俺は決めていたのである。

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