第229話「ロイク、私はお前に深く感謝しているのだよ」
王宮の奥にある国王陛下のプライベートルームのひとつ、
特別応接室付きの国王専用書斎……
俺は、アレクサンドル陛下、グレゴワール様と3人で打ち合わせをしている。
打ち合わせの内容は、先述した通り、俺とルクレツィア様の婚約、
そして結婚確定発表の件だ。
いろいろなパターン、ケースはあると思うが……
前世において、有名人の婚約、結婚発表って、
記者会見か、マスコミ各所へ、公式書面を回すとか、そんなイメージだ。
ここでアレクサンドル陛下が言う。
「実は、ふたりに相談があるのだが……ルクレツィアたっての希望だ」
対して、グレゴワール様と俺が言葉を戻す。
「陛下、ご相談がおありで、それはルクレツィア様たってのご希望ですか?」
「ご希望とは、一体、何でしょう?」
「ふむ、ルクレツィアたっての希望とはな、婚約、結婚確定発表の内容変更だ」
「婚約、結婚確定発表の内容の変更?」
「内容を、どうお変えになるというのです?」
「うむ、発表のな、仕様とスケジュールをぜひ変えて欲しいと申して来た」
「発表の仕様とスケジュール変更ですか。まず創世神大聖堂で、ルクレツィア様のご発表があり、数日後、日を改めて、ジョルジエット達の発表を行うという話ですが」
「どう、ご変更したいと、ルクレツィア様はおっしゃっていますか?」
「うむ、ルクレツィアはな、ジョルジエット以下、他の女子達5人と、私は一緒で同時の発表が良いのだと、強く強く希望しているのだ」
アレクサンドル陛下のお言葉を聞き、グレゴワール様は困惑顔である。
「う~むむ。ウチのジョルジエット達と一緒で同時が良いとは、直系の王族たる王女様が、その他大勢と一緒で同時とは、発表のインパクトが弱まりますな……」
グレゴワール様は、公爵家の地位を謙遜し、少し控えめに言ったのだろう。
だが、貴族のトップ公爵、その令嬢さえ、その他大勢になるくらい、
直系の王女は家格が遥かに上って事だ。
そして伯爵になりたての俺は、グレゴワール様のようなコメントは出せない。
無言でスルーすると、アレクサンドル陛下はため息を吐き苦笑。
「直系の王女は、他の者とは違うのだぞといくら言っても、ルクレツィアは、聞く耳を持たん。ジョルジエット達は、これからの人生を共にする同志、大切な家族なのだからとな」
この前、ルクレツィア様と心を通わせたからか、俺には何となく分かった。
最初が肝心という言葉がある。
ルクレツィア様は、己を下げても、ジョルジエット様達と同じスタート位置に立ち、
心をひとつにして、人生を歩んで行きたいのだ。
「何度もやりとりをしたが、平行線であった。仕方なく私は折衷案を出した。ルクレツィアは、何とか納得してくれたよ」
おお、アレクサンドル陛下が、ルクレツィア様を、何とかご説得したのかあ。
良かった!
でも、どうご説得されたのだろうか?
気になるなあ。
グレゴワール様も同じ気持ちみたい。
「陛下のご折衷案で、ルクレツィア様が、ご納得されたのですか?」
当然、俺も知りたい。
なので、追随する。
「陛下。どのようなご折衷案ですか?」
「うむ、簡単な話さ。発表当日は、一番最初だけルクレツィアとロイクとふたりで、発表に臨んでくれ。ひと通り発表したら、すぐジョルジエット達にも入って貰い、ルクレツィア、ロイクと7人一緒に発表するとな」
アレクサンドル陛下は、にっこり笑い、そう言ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
可愛い妹のたっての願い……
兄上であるアレクサンドル陛下は折れ、折衷案を出し、
妹君のルクレツィア様も受け入れてくれた。
俺とルクレツィア様が創世神大聖堂で、婚約、結婚確定の発表をした後、
間を置かず、
その場で、俺とジョルジエット様達の婚約、結婚確定の発表をする事となったのだ。
王族内で話したところ、一部から反対意見はあったらしいが、押し切ってしまったという。
両親が既に他界されたアレクサンドル陛下は、
たったひとりの妹君、ルクレツィア様が可愛くて仕方がないのだ。
「ロイク、本当にありがとう。お前が我がファルコ王国へ……私とルクレツィアの前に現れたのは創世神様のお導きだ」
いきなりアレクサンドル陛下から、お礼をおっしゃられた。
「お前との結婚が決まり、ルクレツィアは、とても明るく、人生に前向きとなった。ロジエ女子学園では、同じくお前の妻となるジョルジエット、アメリ―とは、将来の夢を熱く語り合っているそうだ」
ジョルジエット様、アメリー様も、
秘書のシルヴェーヌさん、シャルロットさん、トリッシュさんと、
わいわいがやがや、将来と夢を語り合っている。
しかし、ロジエ女子学園は男子禁制。
ああ、想像出来る。
俺は立ち入り不可能だが、多分、同じような光景なのだろうと。
グレゴワール様と俺は、アレクサンドル陛下の話を黙って聞いている。
「いつも話をしているから分かる。王族たる私とルクレツィアはな、古き時代の遠き開祖が建国した生まれ故郷、ファルコ王国を心から愛している」
「…………………………」
「…………………………」
「先代の王、王妃である両親亡き後、その思いは、ふたりとも益々強くなった」
「…………………………」
「…………………………」
「そんなルクレツィアを、国益の為とはいえ、私は非情な王となり、遠い他国の王族へ嫁がせる予定だった。それがなかった事となり、ロイク、私はお前に深く感謝しているのだよ」
アレクサンドル陛下は、感極まったのか、いきなり身を乗り出し、
俺の手をぎゅ!と握ったのである。
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