第215話「涙ぐんでいたルクレツィア様は、挨拶をした後、深くお辞儀をし、 顔を上げるとにっこり」

ルクレツィア様は、キラキラ光る碧眼の瞳で俺を見つめた。


そして、ぎゅ!ぎゅ!ぎゅ!と俺の手を強く強く握った。


おとなしく控えめ……加えて、男子が苦手だというルクレツィア様が、

ここまで言ってくれた。


胸の内を、本音を明かしてくれた。


だったら俺も胸の内を、本音を告げよう。

ぎゅ!とルクレツィア様の手を握り返し、


「ルクレツィア様」


「は、はい」


「お話しして頂き、ありがとうございます。ルクレツィア様のお気持ちは良く分かりました。今度は自分の……いえ、俺の気持ちをお聞きになっていただけますか?」


「は、はい! 謹んでお聞き致しますわ」


「ありがとうございます。ルクレツィア様との結婚話を初めてお聞きした時、想いを馳せました。今頃、ルクレツィア様は、どのようなお心持ちでいらっしゃるのだろうかと」


「ロイク様……」


「いくら大破壊を収束させたからといって……見ず知らずの平民の俺へ嫁ぐよう、兄上アレクサンドル陛下から告げられたルクレツィア様のお気持ちはいかにと」


「わ、私の気持ちは! 先ほど申し上げた通りですわっ!」


「はい、充分に理解致しました」


「ロイク様!」


「まずはっきりと申し上げます。ルクレツィア様は、お美しいだけではない、俺を優しく癒やしてくれる素敵な方です。俺はどんどん貴女に魅かれています」


「あ、ありがとうございます。す、凄く嬉しいですわ」


「こちらこそありがとうございます。俺もルクレツィア様のお気持ちはとても嬉しいです」


「ああ! ロイク様!」


「ルクレツィア様、話の続きを致します。いろいろとお聞きになっているようですから、ご存知でしょうが、俺はジョルジエット様、アメリー様が大好きです。おふたりの笑顔を見るのが大好きです。結婚して、絶対幸せにしたいと思います」


「ロイク様」


「正直に申し上げます。まもなくここへ戻って来るであろう3人の秘書がおります。その3人とも俺は結婚しようと思っています」


「え? 秘書の方ともご結婚を?」


「はい、3人ともジョルジエット様、アメリー様と等しく大好きで愛しております」


「ロイク様……」


「厚顔無恥と思われるでしょうが、5人全員、人生をともにする良きパートナーになると確信しておりますし、心の底から愛しております」


「5人全員、人生をともにする良きパートナーになる……」


「はいっ! ルクレツィア様以外、妻を持つ事に、ここで言いわけは致しません!」


「ロイク様……」


「しかし! 俺を慕って頂ける麗しきルクレツィア様を諦めたくない! ルクレツィア様とも、人生をともにする良きパートナーになりたい! だから俺はルクレツィア様も大好きになる! そして俺を大好きになって頂きます!」


「ロイク様……」


「とことん愛し愛される関係になって、『俺と結婚して本当に良かった!』とルクレツィア様に実感して頂けるよう、素敵な笑顔で癒やして頂けるよう、一生懸命、頑張ります!」


俺が決意を言い切ると、ルクレツィア様は切ない表情、感極まって涙ぐんでいる。


「う、嬉しいです! ロイク様ああ……」


ここが決め時だ。


「こんな俺で宜しければ! 幸せに致します! 結婚してください! ルクレツィア様!」


「はいっ! 喜んで! ロイク・アルシェ様! 私と……ルクレツィア・ファルコと結婚してくださいませ! 一生! 添い遂げますわ!」


と、ルクレツィア様ははっきりと言い切り、

俺のプロポーズを受け入れてくれたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


決めた!ところで、ナイスタイミングというべきか。


シルヴェーヌさん達、秘書3人が戻って来た。


「あら!」

「え!?」

「わ!?」


王女たるルクレツィア様が涙ぐみ、俺にぴったり寄り添っているのを見て、

シルヴェーヌさん達は驚いていたが、すぐにピン!と来たようだ。


グレゴワール様から、いろいろ経緯は聞いているし、

ジョルジエット様の護衛役だったシルヴェーヌさんは、

当然ルクレツィア様のお顔も知っている。


小さく頷いたシルヴェーヌさんは、さっと、切り替え、元気よくあいさつをする。


「おはようございます! ルクレツィア様! ロイク様の筆頭秘書シルヴェーヌ・オーリクでございます!」


筆頭秘書としてシルヴェーヌさんが、あいさつすると、


「おはようございます! ルクレツィア様! 初めまして! 同じくロイク様の秘書のシャルロット・ルナールでございます!」


「おはようございます! ルクレツィア様! 初めまして! 同じくロイク様の秘書のパトリシア・ラクルテルでございます! 気安くトリッシュとお呼びくださいませっ!」


シャルロットさん、トリッシュさんも元気にあいさつした。


ここはまず秘書達へ、俺から伝えた方が良いだろう。


「皆、聞いて欲しい。アレクサンドル陛下には、最終的なご確認とご許可を頂く事にはなるが、俺とルクレツィア様は結婚する事で合意した。貴女達と結婚する事も既にルクレツィア様へは伝えてある!」


そんな俺の言葉に続き、


「皆様、おはようございます! ルクレツィア・ファルコでございます! 初めてお会いする方もいらっしゃいますが、皆様と同じく! 私も、ロイク・アルシェ様の妻となります。未熟且つふつつか者ではございますが、今後は、ご指導ご鞭撻のほど、何卒宜しくお願い致します」


涙ぐんでいたルクレツィア様は、挨拶をした後、深くお辞儀をし、

顔を上げるとにっこり。


悩みは、ばっちり解消! 雨のち快晴! という表情だ。


そんなこんなで……

一番年長で、ルクレツィア様とは顔なじみのシルヴェーヌさんが、

上手く場を仕切り……

シャルロットさん、トリッシュさんは、ルクレツィア様と意気投合。


話が弾む、弾む。


女子4人は同じ未来の妻同士という絆を感じたのだろうか、

あっという間に、大の仲良しとなってしまったのである。

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