第176話「完全に無警戒、今が勝機だ!」

「待っていてください、辺境伯。今、援軍に赴きます」


俺は、街道からの横道へ入り、魔獣ケルベロスの後を追い、

巡航速度で走り始めた。


俺が目指す目的の場所は、領主ボドワン・ブルデュー辺境伯の居城。


グレゴワール様から聞いた話、預かった資料によれば……

住民を逃がす為、ボドワン・ブルデュー辺境伯と彼が率いる手勢2,000名は、

囮となって出撃。

派手に挑発して、オーガどもを引き付けた後、すぐ城にたてこもる。


その後、オーガを城に引き付けつつ……

救援に赴いた騎士隊、王国軍3万名と挟撃し、ともに、オーガどもを討つ!

……という作戦。


だから今頃、襲来したオーガ5千体に、辺境伯達のこもる城は取り囲まれている。


守りを固めているだろうが、

オーガどもが力任せに城門を破り、城内へ乱入すれば、危うい!

という状況だと思われる。


早く!

少しでも早く!!

と俺は走る。


気付かれずに接近し、城を取り囲むオーガどもの背後から攻撃すれば、

大ダメージを与えられるはず。


徐々に夜が明けていく。

少しずつ……上る朝陽が照らす一面の麦畑。


その麦畑をまっすぐに貫く農道を、

俺は更にスピードをあげ、人間の限界を遥かに超えた、

時速100kmを超える最高速度で走って行く。


ケルベロスが先行し、露払いしている。


だから!

俺を遮るものは、何もない。

邪魔をする奴らも現れない。


……900kmを走破。


辺境伯の居城まで、残り100km。

カウントダウンに入る。


後90km、80km、70km、60km。

50km……40km……30km……20km。


そして残り10km。

ここで、魔獣ケルベロスと合流する。


俺より遥かに速く走る事が可能なケルベロスへ、偵察を命じてあった。


『先ほど、あるじの指示通り、我は城へ行き、様子を見て来た』


『ああ、お疲れさん。で、どうだった?』


『うむ、殺気に満ちたオーガ5千体が城を取り囲んでおった』


『そうか! で、ご領主ボドワン・ブルデュー辺境伯達は無事か?』


『ああ、無事のようだ。城に引きこもって、守勢に徹しておる。たまに正門上の物見やぐらから、兵が声をあげたり、矢を放ったりして、挑発するくらいだ』


『そうか、ありがとう。良かった、俺の加勢は間に合いそうだな』


『うむ! あの分ならオーガは動かん。城内の人間を喰らう事しか考えておらぬ』


『それはそれでヤバイな』


合流したケルベロスは機嫌がいい。

そしてとんでもなく強気である


『はははは! まあ、しばらくは大丈夫であろうよ』


『ああ』


『それより主! 楽しみだな、背を向け、油断したオーガ5千体など、我々の敵ではない。軽くひねってやろう』


『お、おう!』


ああ、念の為、「背中を向けた敵を襲うのは卑怯だろ!」

という意見は受け付けません。


ケルベロスが居るとはいえ、2対5千という数を考えてくださいって。


『そろそろ、到着するぞ!』


『了解。減速し、最後はゆっくりと接近するぞ』


『分かった!』


俺とケルベロスは城から1kmの位置から、オーガに気付かれないよう、

慎重に近づいて行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


後、500m、300m……


どっがあん! どっがあん! どっがあん! どっがあん! どっがあんんん!


城の方から、凄まじい音が聞こえて来た。

何か重いものを打ち付ける音だ。

轟音と言って良いだろう。


嫌な予感しかしない。


俺とケルベロスは、焦らず、ペースを変えず、城へ近づいた。


案の定である。


オーガ達はどこからか持って来た大岩を投げつけ、城の正門を破壊しようとしていたのだ。


改めて見やれば、オーガは大岩を大量に持っている。

正門は鋼鉄製だが、何度もぶつけられたらしく、無残にへこんでいた。


さすがに正門上に居る物見やぐらの兵士達も、

「これはまずい!」という顔付で矢を射掛け、数体のオーガを倒していた。


だが、正門への破壊行為は止まらない。


どっがあん! どっがあん! どっがあん! どっがあん! どっがあんんん!


ヤバイ状況ではあるが、この状況は逆に有利でもある。


オーガどもは正門を破壊するのに夢中で、周囲には全く気を配っていない。


完全に無警戒、今が勝機だ!


『よし! 行くぞ! ケルベロス! 行動不能にならない軽度の咆哮でオーガどもを驚かし、大混乱するところをガンガン行こう!』


『うむ! 主、思い切り無双してやるわあ!』


うおおおおおおおおんんんんん!!!


俺への言葉が終わると同時に、ケルベロスが吠えた。

指示通り、行動不能に陥らないくらいのレベルだ。


しかし!

オーガどもを驚かせるのには充分だ。


「「「「「ぎゃあおおおおおおおっ!!!???」」」」」


いきなりの咆哮!!

驚き戸惑うオーガどもの群れへ、俺とケルベロスは突っ込んで行ったのである。

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