第173話「待ってくれ! 君ひとりでオーガ5千体と戦うつもりかあ!?」

グレゴワール様のご尽力で王宮勤務が解禁となった。

なので、俺は朝の定例スケジュールをこなし、秘書3人とともに王宮へ出勤。


シャルロットさん、トリッシュさんは、以前から『王宮勤め』に憧れていたみたい。


俺は敢えて会話へ加わらなかったが、

ふたりで「きゃぴきゃぴ」楽しそうに話していたのを聞いているから。


さてさて!

王宮は筆頭秘書シルヴェーヌさんのしきりに任せる。


相変わらず、王宮のセキュリティは超が付くぐらい厳しい。


……この王宮の中で、

王女ルクレツィア様は普段どのような暮らしをしているのかと、ふと思う。


運命に翻弄される薄幸の王女……か。


幸せになりたい……そう願っているのか、

もしくは全てを諦め、来たる運命を受け入れようとしているのか……

ルクレツィア様の胸中はいかに。


俺がつらつら考える中、隊列は進み……


シルヴェーヌさんが、シャルロットさん、トリッシュさんへ王宮作法を教授しながら、王国宰相執務室前で一旦停止。


秘書経由で先に出勤しているグレゴワール様へあいさつ。


あいさつ終了後に、隣室の、王国執行官執務室へイン。


王国執行官室へ入ると、シャルロットさん、トリッシュさんは、

王宮で仕事をするという実感が改めて湧いたようだ。


ふたりで顔を見合わせ、頷き合っているところへ、

シルヴェーヌさんが声をかけ、秘書3人での打合せを行う。


王宮へ入る手続き、宮中でのマナー、

そして王国執行官秘書としての心得、具体的な業務などを話しているようだ。


一方、俺はといえば、シルヴェーヌさんが作成した、

畏れ多くも王女ルクレツィア様の身上書へ、目を通す。


つまりルクレツィア様の生年月日、現住所、学歴・趣味や特技、

性格などが記載されているのだ。


リアルでお会いする前に、互いのプロフへ目を通しておくって事。

当然、ファーストインプレッションで失敗しない為。


俺は行った事がないが、友人に聞いた話だと、

まるでお見合いパーティ前の『予習』のようである。


話を戻そう。

例えば、ルクレツィア様が食事のマナーには特にうるさく厳しかったとしよう。


その場合、

口を開けて「くちゃくちゃ」食べるとか、

ナイフとフォークが上手く使えないとか、

皿に口をつけてかきこむとか。

汚く食べ残すとか。

とんでもなく早食いで、自分だけ先に食事を終えるとか。


まあ、そんな事をしたら、ルクレツィア様だけでなく、

女子から見れば、一発でレッドカード。

貴方なんかもう嫌! 退場して!となってしまいかねない。


そういう地雷を踏まない為、しっかりと『予習』しておくのだ。


と、その時!


どんどんどんどんどん!


王国執行官執務室にある、

王国宰相執務室につながる扉が向こう側から、乱暴に叩かれたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


このシチュエーションで、扉を叩く者は決まっている。


グレゴワール様本人か、王国宰相秘書ふたりのいずれかだ。


しかし、魔法使いの俺には放つ波動で、扉の向こうに立っている者を見通している。


果たして、扉を開けると……

やはりグレゴワール様が立っていた。


様子がおかしい。

最近、柔らかく微笑んでいるグレゴワール様ではない。

感情を表に出さず、ひどく真剣な表情だ。


「ロイク君、緊急事態だ。大破壊が起こった」


「え? だ、大破壊ですか」


俺とグレゴワール様の会話を聞き、明るく談笑していた秘書達が会話をやめ、

息を呑む。


補足しよう。

『大破壊』とは、ステディ・リインカネーションの世界で突如起こる、

『神の怒り』とも呼ばれる大災害である。


堅牢な建物もなぎ倒す激しい大嵐であったり、

圧倒的な存在であるドラゴンの襲来であったり、

害を為す魔物の大量発生だったり……内容は様々だ。

ちなみに災害のレベルを表す為にランクがつけられている。


「大破壊でもいろいろありますが、魔物の襲来ですか?」


「ああ、そうだ」


「もしや、竜……ですか?」


もしも大破壊により竜が数百体以上現れたら、トレゾール公地の伝説がリアルとなる。

まじな話、世界滅亡の危険があるのだ。


騎士隊、王国軍も出張る事になるだろうが、

さすがに俺だって、どこまで戦えるのか不安である。


せっかく転生したのに、竜が世界を滅ぼして、ジ・エンド……

ゲームオーバーとかはまっぴらだ。


「いや、幸い竜ではないが……大変なものだ」


「大変なものですか?」


「ああ、オーガ5千体強だよ! 奴らは隣国との国境付近に現れたのだ。その土地の領主から住民には既に緊急避難命令が出ている。まもなくファルコ王国中に、緊急事態宣言が発令されるだろう」


「「「!!!!!」」」


グレゴワール様の話を聞き、秘書達は驚愕。


ここで再び補足しよう。


オーガとは、神話や伝承で語られる妖精、もしくは魔物である。

姿は人間に似ているが、はるかに大柄で、とんでもない怪力の持ち主。

身長5mに達する個体もある。


とがった耳、鋭い牙を持ち、性格は残忍、狂暴で人間を捕食する。 

ステディ・リインカネーションの世界で言えば、ゴブリンの5倍の強さがオーク。

オークの5倍の強さがオーガと言われるくらい強力な魔物である。


「王国の危機だ。騎士隊と王国軍が、都合3万名出動するが、王国執行官たるロイク君にも出撃して貰う」


「はい、出撃命令ですね。分かりました。俺は小回りもきくから、さくっと行って来ますよ」


しれっと言う俺の言葉を聞き、グレゴワール様は驚く。


「え? さくっと? 行って来るとは? どういう事かね?」


「はい。確認ですが……俺がオーガを全て倒さずとも、出来るだけ数を減らし、少しでも長く足止めすればOKですよね? その後、後詰で騎士隊と王国軍が3万名行くんですから」


「ま、まあ、そうなのだが……待ってくれ! 君ひとりでオーガ5千体と戦うつもりかあ!?」 


「ええ、俺は魔法も使えて、強い使い魔も居ますし、遊撃隊的な暴れ方は出来ますから」


既にルナール商会の案件でオーガは『生け捕り』にしている。

証拠とする為に、苦労してわざわざ生け捕りにしたのだが、倒して良いのなら、

難度は全然下がる。


大丈夫だ、行ける!

出来る限りオーガを倒して、ヤバくなったら撤退。

後は、騎士隊と王国軍3万名に任せる。


俺は確信を持って「大丈夫です」と言い切っていたのである。

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