第169話「え!? この流れで、想定外のど直球が来た!」

ルナール商会で確認したいのは、俺の立ち位置。

予想はある程度ついてはいるが、仕事の範疇を知りたい。


言葉を選びつつ、聞いてみた。


するとセドリック会頭は、


「ロイク様には、とりあえず顧問という役職に付いて頂きますが、将来、当商会の仕事に関し、経営面でも大いにかかわって頂きたいのです」


「はい、会頭が申し上げた通りです」


ええっと……経営面でも大いにかかわる?


「ふむ……当面は、先日お願いし、完遂して頂いた仕事に近い業務を請け負って頂きたいと思います


「難儀を救って頂いた各支店、営業所の長、社員達からは、困った事が発生したら、またぜひロイク様へお願いしたいという、希望の声が絶えませんからね」


ああ、それは分かる。

ルナール商会が経営する各所で起こった厄介ごとを処理し、改善して行くって事だ。


「!!!」

「!!!」


ここで、シルヴェーヌさん、トリッシュさんが、興味津々という反応をした。


俺がルナール商会で請け負い、完遂した仕事は、

シャルロットさんは、知っているが、シルヴェーヌさん、トリッシュさんは知らない。


「ははははは! 無理もない! 秘書のお嬢様方は、主たるロイク様の仕事内容とあげた実績をお知りになりたいようだ。シャルロットの良き復習にもなる。オーバン、ご説明してあげなさい」


「はい、かしこまりました、会頭」


笑顔のオーバンさんは、説明を開始した。


まず1件目は、王都から南方100㎞の町ジェム鉱山へ重要書類の配達。

折り返し、鉱山より上質の宝石100個を王都のルナール商会へ運搬する事。


……最寄りのミーヌ支社を訪問した俺は、

突如ジェム鉱山に現れた500体のゴブリンを討伐。

鉱山の坑道に閉じ込められた社員達を救出。

重要書類の送付と宝石100個の持ち帰りをやり遂げた。


2件目は、王都郊外15kmの位置にあるルナール商会経営の農園、ルナール・ファームの警備である。


……夜半、魔物オーガ5体を護衛に引き連れ、

作物泥棒を働いていた人間の賊ども5人。

場長から話を聞き、待ち伏せした俺は、奴らをオーガごと全員生け捕りにし、アジトも急襲。

残党の人間3人とオーガ3体を無力化し捕縛、

魔導ロープで縛り、数珠つなぎにした。


3件目は、王都郊外10kmの位置にあるルナール商会経営の牧場ルナール・ラァンチュの警備だ。


……この牧場は人気のブランド牛、豚を、広大な牧場で飼育しているが、

ゴブリン、オークなどが襲い、被害が出ていた。

警備をするとともに、牧場周囲の魔物を一定数討伐するというのが俺のミッション。


詳しい話を聞いた俺は、ルナール・ラァンチュ周辺に跋扈するゴブリン2,000体にオーク1,000体を討伐する事に。


周辺を探索した俺は、ゴブリン、オークとも巣を突き止め、奴らを壊滅させた。


そんな話を、オーバンさんは巧みな話術で、まるで英雄譚のように語った。


初めて聞くシルヴェーヌさん、トリッシュさんは勿論、

既に事情を知るシャルロットさんも、うっとりと聞き入っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……以上、上がって来た報告書を基にお話ししました。ロイク様、間違いはございませんね?」


「はい、報告書の通りで、問題ないと思います」


俺が答えるのを聞き、秘書達3人は歓声をあげる。


「ロイク様、いずれもおひとりで完遂なんて! 本当に素晴らしいですわ!」とシルヴェーヌさん。


「冒険者ギルドの高難度依頼と変わりませんよお! 凄いでっす!」とトリッシュさん。


最後に、


「改めてお聞きしても、素敵ですわ!」とシャルロットさん。


まあ、ケルベロスのフォローもあったけど、あいつとは一心同体だし、構わないだろう。


ここで話し手がバトンタッチ。

オーバンさんから、セドリック会頭へ。


「とまあ、このような仕事は引き続き、ロイク様に請け負って貰う事となるでしょう。で、新たな仕事ですが、まずはシャルロットとともに商人修行をして頂き、大きな商談の際、顧問として立ち会っても頂きます」


成る程。

シャルロットさんと一緒に商人修行か。

それは問題ないと思う。

いくら故郷でよろず屋の店員をしていても、商会の仕事とは全く違う。

まがりなりにも顧問をやるのなら、商人としての基礎修業は必要だろう。


大きな商談の際立ち会うというのも、現時点ではあくまでも見学者という意味に違いない。


うんうん!

と納得して頷いていたら……


「ロイク様には、将来シャルロットの夫として、当商会を託すつもりですからな」


え!?

この流れで、想定外のど直球が来た!


「おじいさま……いきなり、そんな……」


頬を赤く染めるシャルロットさん。


「ははははは! ウチのシャルロットは当然、ジョルジエット様、アメリー様についでの妻! という立ち位置は、重々承知しておりますぞ!」


セドリック会頭はそう言うと、俺を見てにっこりと笑ったのである。

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