第147話「俺も少し気にしていたから、ほっとひと安心」

トリッシュさんは、


「私は、秘書となり! ロイク様のお役に立ちたいので!」


と言い、にっこり笑った。


そして、シルヴェーヌさんへ向かい、


「シルヴェーヌ・オーリク様もそうですよねえ?」


と尋ねる。


そして、そして更に、


「ドラゴン10体をあっさり倒す、超が付くドラゴンスレイヤーのロイク・アルシェ様にお仕え出来るんですよお。住み込みを断って、秘書役をどこかの誰かへ譲るなんて、本当に馬鹿らしいですよ」


と畳みかけ、


「ここだけの話ですが、……英雄扱いされるウチのマスターだって、別々の戦いで、ドラゴンを数体倒したレベルですから……それを一度に10体も倒すなんて! ロイク様は、信じられないくらい、伝説級の強さですよお! 憧れMAXな方ですものお!」


一気に言い切り、うふふふと、いたずらっぽく笑うトリッシュさん。


対して、黙って聞いていたシルヴェーヌさんも、釣られたように笑う。


「うふふふふ。パトリシアさん、いえ、トリッシュさん。貴女の言う通りよ。いにしえの時代に現れた伝説の勇者に勝るとも劣らないロイク様にお仕え出来るチャンスなんだもの。つまらない理由で、見送るなんて、愚か者のする事だわ」


「ですよね~」


と同意するトリッシュさん。


そんなトリッシュさんをしみじみと見つめ、シルヴェーヌさんは言う。


「ええ、私は創世神様、国王陛下、リヴァロル公爵閣下、ロイク様に感謝するわ。貴女のような才女に引き合わせてくれたから……組織、身分に関係なく、才能のある人が居るという事を思い知らされたわ」


「そんなあ! 私はシルヴェーヌ様から、多くの事を学びたいと考えていますからあ!」


謙遜する柔らかなやり取りながら、お互いを認め合いつつ、

ライバル心をぶつけ合うふたりの女子。


この後、会う事になるルナール商会の秘書さんとともに、

良きチームのメンバーとして、力を尽くして欲しいと思う。


「では! 待ちくたびれていると思いますのでえ! 今度こそ、ウチのマスターを呼んで来ますう!」


笑顔で、テオドールさんを呼びに行ったトリッシュさん。


約10分後……テオドールさんを連れ、戻って来た。


テオドールさんから、

顧問という肩書入り、ランクAの所属登録証を受け取った俺は、

改めて全員へ、もろもろの話をした。


そして、仕事の内容、スケジュールについて、トリッシュさんの住み込みについて、

テオドールさんに了解して貰ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そんなこんなで、丁度お昼となった事もあり……

テオドールさんは、ランチを共にしようと提案して来た。


この後、ルナール商会へ行く予定はあるが、OKしておいた方が賢明だろう。


マスターによる、緊急集合がかかり……

俺達以外には、現在ギルド本部に居るサブマスターとその秘書が呼ばれた。


結果……居たのは、二組のサブマスターと秘書。


そのひと組は、俺の冒険者審査とランク判定テストをしてくれたサブマスター、

エヴラール・バシュレさんと、彼の秘書クロエ・オリオルさんだった。


ランチは、俺のトレゾール公地依頼の話題で大いに盛り上がった。


エヴラールさんが、やれやれという感じで言う。


「ロイク君……いや、ロイク顧問に負けてしばらくは、散々言われ、責められたよ。判定試験の模擬試合とはいえ、素人に負けるなんて、剣聖の名が大泣きするぞ! ……ってね」


対して、俺、シルヴェーヌさん、トリッシュさん、そしてクロエさんは苦笑。


テオドールさん、もうひとりのサブマスターと秘書さんは無言。


ああ、この3人は、エヴラールさんをいじるか、そう思っていたんだ。


そんな中、懐かしそうにエヴラールさんは苦笑。


「まあ、当時は自分もそう思ったし、とても悔しかったが、今ならば、負けたのも納得出来る。ロイク顧問が、10体のドラゴンを討伐して以降、そういう事を言う人は皆無となり、却って、負けるのは当然だと言われ始めたよ」


そうかあ……

今回のドラゴン討伐はいろいろあったけど……

エヴラールさんの『名誉挽回』に貢献したって事だ。


ああ、良かった!


俺も少し気にしていたから、ほっとひと安心。


……その後はいろいろと雑談が交わされ、ランチは終了。


俺は、シルヴェーヌさん、トリッシュさんを連れ、冒険者ギルドを辞去。


最後の秘書さんと会うべく、ルナール商会へ向かったのである。

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