第130話「王女様が何故? 俺を知ってるの?」

アレクサンドル陛下と、各自のやりとりを聞き、

俺にも、『今回の話の筋書きと落としどころ』が、見えて来た。


まず筋書きはこうだ。


俺が転生した異世界人ケン・アキヤマというのは絶対に内緒なのだが……

……元農民でシュエット村出身の俺ロイク・アルシェが、いろいろあり、

故郷を離れ、王都ネシュラへ。


その際、世間知らずな俺の世話をしたのがルナール商会。

王都へ連れて来て貰う道中、数多の山賊を倒し、

戦いの才能を見出し、お礼をした商会との縁は、

更に深まり、事業契約する事と相成った。


また、生活の糧にと、冒険者登録をした俺に対し、ランクBに認定。

トレゾール公地の依頼を出し、完遂させた結果……

ドラゴン10体討伐という偉業につながったのは、

冒険者ギルドのお陰という事になった。


ここで、鬼宰相グレゴワール様の登場。

俺が偶然にも愛娘ジョルジエット様、寄り子の愛娘アメリー様を、

危難から救った事がきっかけで、護衛契約。


今回、冒険者ギルドからサブマスターのオファーが出た事で、契約の件で俺と話し、

冒険者ギルドと、ルナール商会との調整役を買って出た。


3者で協議した結果、俺ロイクの国外流出という事態を避ける為、

各契約はそのままにし、ギルドのオファーを顧問という違う形で受ける事で合意した。

その上、俺をアレクサンドル陛下直属の王国執行官に推挙するという大技を繰り出したのだ。


また俺がトレゾール公地の依頼を完遂し、王国の財政に貢献した事に加え、

討伐したドラゴンの死骸2体、

特注のドラゴンメイルをアレクサンドル陛下へ献上するという事もあり……

陛下のおぼえがめでたくなり、王国執行官任命を決定されたという形になった。


このような『共通認識』となるだろう。


そして各自の『落としどころ』だが……


ドラゴンスレイヤーの俺は、『勇者』に認定されず、勇者法で縛られる事無く、

アレクサンドル陛下直属の王国執行官だから、王国から余計な干渉も受けない。


いろいろな縛りはあるものの、グレゴワール様にクッション役となって貰い、

王国執行官の任務を遂行しながら、ランクAとなり冒険者他の仕事を続け、

人生を楽しむ事が出来る。


ちなみに王国執行官の報酬は、基本給として月に金貨20,000枚が支払われ、

年俸は金貨240,000枚。

つまり月給2億円、年俸24億円。

昇給あり、住宅、使用人雇用、交通費など、別途いろいろ手当が付く。

任務の内容に応じて特別手当も付く。

また、任務中にかかった費用は、全て必要経費として王国がもつそうだ。 


念の為、冒険者ギルド、ルナール商会からの報酬は、

これまた完全に別扱いである。


宰相グレゴワール様は、俺の国外流出を阻止し、

勇者扱いの俺を、アレクサンドル陛下の直属にした事で、

陛下からのおぼえは、とてもめでたい。

勇者の俺の『実質的な上司』として、箔も付く。

また護衛契約もそのままで、ジョルジエット様、アメリー様に恨まれずに済む。


冒険者ギルドは、オファーしたサブマスター就任こそならなかったが、

非常勤の顧問として俺が籍を置く事で、面目は立つし、組織に箔が付く。

またアレクサンドル陛下、グレゴワール様のおぼえはめでたい。


ルナール商会も、俺との契約は破棄されず、

優先順位こそ下がったものの、今後も仕事を依頼出来る。

勇者の俺と業務契約しているという事で、顧客の信頼度もアップ。

冒険者ギルド同様に、アレクサンドル陛下、グレゴワール様のおぼえはめでたい。


少し気になる、ドラゴンの死骸の売却に関しては、

俺が後で、グレゴワール様へ確認すれば良い。


話がまとまり……

大いに喜んだアレクサンドル陛下は、警護の騎士へ、お茶を持って来るように命じたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


さすがに、こわもてで筋肉もりもり屈強な騎士が、そのままお茶を持って来るなど、

野暮な事は王宮ではない。


騎士は戦う事が仕事。


家事を担当する男女の使用人がちゃんと居る。


紅茶と焼き菓子を運んで来たのは、美しい侍女ふたりである。


俺も知る話で、グレゴワール様からも聞いた話だが、

王宮の使用人の中にも中小貴族の子息、子女が行儀見習いで使用人を務める場合がある。

実際、子爵家令嬢のアメリー様は、公爵家ジョルジエット様の侍女をしているし。


さてさて!

……まずアレクサンドル陛下、そしてグレゴワール様、テオドールさん、

セドリック会頭の後に、俺は紅茶を飲み、焼き菓子を頬張った。


さすが王族が食する紅茶と焼き菓子。

超が付く高級品らしく、めちゃ美味い。


上機嫌のアレクサンドル陛下は、俺へ直接話しかけて来た。


「ロイク!」


「はい!」


「お前の事は、我が妹ルクレツィアからも聞いている」


「はい~? ルクレツィア様ですか!?」


ええっと、アレクサンドル陛下の妹君だから、

ルクレツィア様って……王女様だよね。


王女様が何故?

俺を知ってるの?


その疑問はすぐ明らかになる。


「ああ、ルクレツィアはな、グレゴワールの娘であるジョルジエットとは親友同士、王立ロジエ女子学園高等部の同級生なのだよ」


「え? ジョルジエット様と?」


「ああ、ジョルジエットからは毎日毎日、運命の素敵な出会いをしたと、のろけ話を聞かされているそうだ」


「のろけ話……」


「ああ、誠実な上、とんでもなく強い! 相手は平民だが、身分の差を越えた恋を必ず成就させるとな……それがロイク・アルシェ、お前だったとは」


「はあ……」


答えに困った俺が曖昧に返せば、アレクサンドル陛下は、グレゴワール様へ、


「もしや、ジョルジエットは、たちの悪い男に、騙されているのではと心配したが、そうではなかったようだな、グレゴワール」


「はい、そういう所は、ウチの娘はしっかりしていますので」


「うむ、そうか!」


まあ、こういう話が出るのは仕方がない。

と思った俺であったが……話は終わらなかった。


「ロイクよ! ルクレツィアから聞いたぞ! 先日、護衛という名目で、ジョルジエットと、デートをしたそうじゃないか?」


「は、はあ……」


正確にはアメリー様と、女子騎士さんも入って、大勢の騎士護衛付きの、

お散歩レベルなんですけど。


「何でも、平民の格好をしたデートで最高に楽しかったとか」


うお!

ジョルジエット様、そんな事まで王女様へ言ってるの?


「はあ……まあ、何とか、ご満足して頂いたようです」


再び俺が曖昧に返せば、アレクサンドル陛下は、とんでもない事を言い出した。


「でだ! 次回はウチの妹も入れてやってくれないか」


「「「「はい~!!??」」」」


え~っ!!??

次の警護は、王女ルクレツィア様も!!??


さすがに俺だけでなく、グレゴワール様、テオドールさん、セドリック会頭、

全員が驚いた。


「ああ、楽しいデートをしたというジョルジエットが凄く羨ましくなって、ルクレツィアは、自分も混ざりたいと聞かないのだ」


アレクサンドル陛下は、そう言い、苦笑したのである。

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