第122話「おっと! じゃあ、すぐ行くか!」

冒険者ギルドのマスター、テオドール・クラヴリーさんから、

サブマスター就任のオファーを貰い、即答せず保留。

その後、トリッシュさんと念入りに打合せをし、ホテルへ帰還というか帰宅。


ぐっすり眠った翌日……

俺はこの日を『休養日』に充てる事にした。


まあ、ルナール商会、グレゴワール様から、もしも連絡があって、

「すぐ来い」と言われれば、速攻で飛んで行くけど。


ただ休養日といっても、ホテルでメシを食ったり、

部屋でまったりし、無為に過ごすのも芸がない。


何か連絡があれば、どうせフロントで預かってくれるし。


まずは用事を済ませてしまおう。


気分転換になるかと思い、今日は魔法使い風に法衣ローブを着用。

頭からすっぽりかぶれる頭衣ドミノ付きの法衣にしたのは、

昨日レストランで感じた俺への『視線』を気にしての事。


ホテルを出れば、今日も快晴。

見上げる空は雲ひとつなく、真っ青だ。


という事で最初は買い物へ。


ここ最近の依頼遂行で消費してしまった資材の補充。

役に立ちそうなものは新規で即座に購入。


買える時に買っておけというポリシーで。

賊の生け捕り用、魔導ロープとか、使い勝手が良かったので大量買いしておく。


また購入品のうち、かさばるモノは、店を出た後、

ひと気のない場所で、収納の腕輪へ放り込む。


書店通りにも赴き、魔導書は勿論、世界地図や観光本、娯楽関係の本も購入。


地図を見ると、どこか風光明媚な場所へ旅に出たいと思うが、がまんがまん。

まあ、魔物が出る場所が殆どだから、気楽な一人旅になるだろうけど。


さてさて!

気分転換でランチは久々に中央広場、市場の露店。

座席は共有のフードコート形式。


先日、居酒屋ビストロ風のレストラン、『メルカートゥス』へ、

ジョルジエット様、アメリー様を連れて行ったが、本来はこちらが『本家』


俺は、露店で豚、鶏の串焼き肉、サラダ、パン、紅茶を購入、

空いていたテーブルへ行き椅子に座った。


法衣ローブを着て、頭衣ドミノがあるせいだろうか、

ホテルのように俺への視線は感じない。


ああ、いいなあ、この解放感!!


う~~ん!

俺は、手足を伸ばし大きくのびをした。


久々にのんびりしたなあ。

仕事を無事終えたから尚更だ。

前世では、馬車馬のように働かされていたし。


完全に何もせず休むというわけではないけれど、こういう休みは良い。


ゆっくり食事をした俺は、全てを完食。


その後、市場で食料品を買い込み、

魔道具屋などを冷やかし、ホテルへ戻ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ホテルへ戻ると、フロントが伝言をひとつ預かっていた。


スタッフさんとやりとりする。


ルナール商会からだ。

グレゴワール様からは、来ていない。


部屋へ戻って、伝言が入った封書の封を開け、早速、中を確かめる。


ええっと、どれどれ……


差出人は、幹部社員のオーバンさん。

俺を故郷の村から連れ出してくれた大恩人だ。


……何々、今日明日なら、時間を空けます。

商会本社でセドリック会頭とともにお待ちしています。


待ってるって?


おっと!


じゃあ、すぐ行くか!


幸い、俺はまだ着替えていない。

法衣ローブ姿のままだ。


武器も外してはいない。

法衣の下に、愛用のスクラマサクスを提げたまま。


後は……

話し合いの際に必要となる、トリッシュさんから受け取った、

ギルドからのオファーをまとめた公式の書類を収納の腕輪へ入れる。


これを「得意先へ見せて構わない」と言われているからね。


よし、準備完了、支度は済んだ。


ホテルの部屋を施錠し、俺は1階へ。


フロントへキーを預け、ホテルを出て、商業街区へ。


どのように話すかは決めている。


サブマスター就任のオファーは受けない事。

ルナール商会の契約を優先する事。


自分の意思をまず告げて、ルナール商会側の判断を貰う形。


そして、このような状況下なので、契約を交わしている事を、

冒険者ギルド側へオープンにして構わないのかどうか、確認をする。

契約に関しては内容は勿論、締結しているかという事も、基本は厳秘。

だから俺は雇用主があるとは告げたが、具体的な相手先を明かしてはいない。


まあ、冒険者ギルドの調査部が裏取りをしているらしいが、

その事も、ルナール商会へ明かすべきではない。

逆に俺と冒険者ギルドの間でも守秘義務が発生するからだ。


つらつら考えながら歩いていたら、商業街区は入り、

更に歩いて、ルナール商会本館、本社前に到着した。


受け付けで、面会の手続きをすると、社員さんに案内され、すぐVIP室へ通された。


そして間を置かず、セドリック会頭とオーバンさんがやって来た。


「あ、こんにちは、お疲れ様です」


「おお、ロイク様、お元気そうで何よりです。いつもとは違う、魔法使いのような、出で立ちですな」

「当商会と締結した契約の件で、ロイク様のご相談とは、何でしょうか?」


おお、何か凄くのんびりしてる。


……成る程。


冒険者ギルドでは「ドラゴン討伐に関してかん口令を敷く」と言っていた。


だから、今現在で、ギルドのクライアントでもあるルナール商会へ、

『情報』は伝わっていないみたいだ。


さあて、どう切り出そうか。


俺は軽く息を吐き、ふたりへ微笑んだのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る