第111話「こんな低レベルで戦った事はない」

そろそろ、オーガ討伐後、5時間が経過する。


次の魔物が出現する頃だ。


俺とケルベロスは、戦闘態勢に入った。


すると!

先ほどのオーガ100体出現同様、川の少し先が妖しくぴかぴかっと光った。


そう!

繰り返すけど、一番の採取場である川の少し先に、

魔物が湧き出る次元の裂け目がある。


この次元の裂け目が、魔法使いが召喚する際、魔物を呼び出す魔方陣のように、

出現させる出入り口となっているのだ。


ぐおおおおおおおお……


おいおい!!

この重低音な咆哮はもしや!!


すかさず、ケルベロスが言う。


『うむ! あるじよ、待望のドラゴンだ!』


待望のドラゴンって!?

ケルベロス!! お前にはそうでも、俺は全く違うぞ!! 


そんな俺へ向かって、ケルベロスは更に言う。


『しかし、残念だな、主よ』


『残念?』


『うむ、放出する気配で分かる! 現れるのは、上位種ではなくノーマル種。それも100体には遠く及ばない、たった10体だ』


いやいやいや!


ノーマルタイプのドラゴン10体だって、相当なもんだ!


既に金も宝石も十分にゲットした。


逃げるか?

と思ったら、そんな俺の心を見抜いてか、ケルベロスが『提案』する。


『大丈夫だ! 主! 我に作戦がある!』


『作戦?』


『うむ! 我がまず咆哮でドラゴンどもを威嚇する』


『咆哮で威嚇?』


『ああ、並みの魔物ならば我の咆哮で麻痺し、半永久的に行動不能となる。だが、ドラゴンはひるみ、しばし動けなくなるくらいなのだ』


『成る程!』


『しかし、倒すにはそれで十分だ』


『そうか!』


『うむ、我は急所の、のどをかみ砕き、ドラゴンを数体倒す。仲間を倒され、混乱する奴らに対し、囮となり、残りの奴らの注意を引き付ける』


『おお、それで』


『奴らが我に引き付けられ、隙だらけの間に、主は仕掛ければ良い』


『成る程。だけど、ドラゴンの皮は相当硬く、防御力は半端ではない。現時点での俺の剣や格闘技が通用するかな?』


『大丈夫だ。奴らは俊敏さに欠ける。その隙に主が得意とする戦法……一撃離脱で、物理攻撃を試してみよ』


補足しよう。

一撃離脱戦法とは、ヒットアンドアウェイともいう。

有効射程と索敵能力の許す限り遠くから攻撃を仕掛け、即座に撤退する戦術だ。

もう少し簡単に言うのなら、

接近して打って離れるという一連の動作を基本とする戦法の事である。


『わ、分かった』


『もしも物理攻撃が通用しない場合は、零距離射撃で攻撃魔法を撃ってみよ』


再び補足しよう。

零距射撃とは正しくは、近距離に迫った敵に対して、

ほとんど水平の仰角で、砲弾が発射されるとすぐ炸裂するようにして行う射撃の事だ。


しかしステディ・リインカネーションの世界の零距離射撃は違う。

接射ともいい、「敵の身体へ、触れそうになるくらい至近距離で攻撃魔法を撃つ事」なのだ。


『そ、そうか』


『うむ、それでも苦戦するようであれば、主は撤退して構わん。我がしんがりを務めてやる。主のスピードなら楽に逃げ切れる』


度々だが、補足しよう。


ここで言う『しんがり』とは、退却する軍列の最後尾にあって、敵の追撃を防ぐ役目の事。


撤退する味方を最後尾で守るので味方の援護を期待出来ない。

また勢いに乗った敵の攻撃を、限られた兵力で迎え撃たないといけない。

なので、死ぬ可能性が高い辛い役目だ。


う~ん。

そこまで言われたら、ドラゴン戦を試すしかないか。


もしもダメだったら、ケルベロスの言う通り、撤退しよう。

そうしよう。


『分かった! 試してみるよ』


気合を入れ直し、体内魔力を高めた俺は、

ケルベロスとともに、ドラゴンの出現を待ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ぐはおおおおおおおおおおお!!!

ぐがおおおおおおおおおおお!!!

がっはああああああああああ!!!


おお!

ドラゴン10体が現れた!!!


というと、ゲームの表記みたいで現実味がない。


だが、リアルなステディ・リインカネーションの世界では、恐ろしく厳しい現実だ。


あまりにも有名な魔物なので、改めて説明は不要かもしれないが一応……


ドラゴンは、とかげ、または蛇に似た巨大な体躯を持ち、翼を持つ種類も居る。

その身体は生半可な刃を通さないくらい硬い皮膚やうろこでおおわれており、

体色も様々。

食性も様々で、肉食種は動物、家畜は勿論、人間も捕食する。


人間が立ち入らない原野に生息するが、捕食の為、人里にも現れる。


ドラゴンの名は、監視する者、見張りという意味もあり、

隠された財宝を守護者として守るケースも多い。


そんなドラゴンの武器は桁違いなパワー、

そして口から吐くブレスである。


彼らのブレスは、本当に炎を吐く種族と、

高熱の吐息で、大気を燃焼させる種族に分けられる。


また炎だけではなく、凍気、毒などを吐く種族も居る。


さてさて!

話を戻そう。


俺とケルベロスの前に現れたのは、翼がなく、体色が緑色。

体長は15mから20mくらい。


一番見かける事が多い、ノーマルタイプの火を吐くドラゴンだ。

イメージは……大トカゲの超でっかい奴と考えてくれれば構わない。


『主よ、奴らのかみつき、尾の攻撃に注意しろ。そしてブレスには特に気をつけろ。まともに浴びないようにするんだ。息を吐く前の癖を見極めろ』


『癖か……了解』


アラン・モーリアの時、ノーマルタイプのドラゴンとは何度も戦った。

動作の癖も知っているし、魔力感知で息を吐く前の予測も可能だ。


しかし、レベル15なんて、

こんな低レベルで戦った事はない。


『よし! 主、我から行くぞ!』


ケルベロスは、軽く咆哮すると、ダッシュ!

ドラゴンの群れへ飛び込んだのである。

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