第110話「労を惜しんではならぬぞ、主!」
俺とケルベロスの絆は一層深くなり、
再び現れるであろう、魔物どもの群れを待った。
しかし……
オーガ100体を倒し、3時間経っても、次元の裂け目は光らず、
次の魔物どもは現れない。
よし、これでインターバル5時間コースが確定。
後、2時間は大丈夫。
新規の魔物は現れない。
依頼遂行に向け、この2時間を有効に使おう。
という事で、まずはケルベロスから提案が。
『うむ、では、この間に、先ほどこのフィールド内を回った際、我が見つけた鉱石の回収を行うか』
おお!
それは素敵な!
またも「拾って取り放題!」って事か!
当然俺は、大いに同意する。
『だな!』
『よし!
ケルベロスは「うおん!」と短く吠えると、軽やかに走り出す。
彼の咆哮は麻痺の効果がある。
まともに聞いた者は身体がしびれ、行動不能となってしまう。
しかし、殺気のこもらない咆哮はその限りではない。
つまり、ケルベロスは咆哮を使い分けるのだ。
さてさて話を戻そう。
『了解!』
対して俺は返事を戻し、ケルベロスの後について走り出した。
という事で、俺とケルベロスは公地各所を回り、鉱石を回収する。
先ほど採取したガーネット、トパーズ、ひすい、水晶以外にも、
サファイア、こはく、そしてダイヤモンドまでも見つけた。
結果、ギルドから支給された金、宝石の袋は全ていっぱいとなった。
ケルベロスさまさまである。
ここで今回の依頼における宝石採取発掘の報奨金システムについて述べておこう。
ゲットした金、宝石それぞれを、この専用の袋に入れて封をし
冒険者ギルドへ持ち帰れば、鑑定士が全ての評価金額を合算。
評価金額の約30%を現金で受け取る事が出来る。
え?
たったの30%?
命まで懸けているのに少なすぎるって?
いやいやいや!
金、宝石の発見率、それと採集、採掘の手間暇を考えたらぼろいって!
時間も手間も金も、まともにやろうとして、かかるものに比べれば段違いだ。
まずこの広大な世界で、鉱山、鉱脈を探し、発見する手間がない。
土地所有、権利も関係ない。
決められたルールさえしっかりと守れば、
不法侵入だ、盗掘だと責められる事はない。
更に発見率が半端ない。
鉱石が、そこらにごろごろ、転がってるって感じ。
更に更に、手間いらずである。
採集、採掘と依頼にはあるが、俺は「拾って取り放題!」しているだけ。
パンニングしたり、掘り返したりする手間が皆無なのである。
まあ一応用意はした。
パンニング、発掘用それぞれの道具を王都で購入し、持参している。
だけどこの状況で、わざわざ道具を使い、採取採掘する気にはならない。
ケルベロスについてフィールドを一周した俺は、
到着した当日、早くも依頼を完遂したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
採取採掘用の袋は一杯となってしまった。
しょっぱなオーガも倒し、ひとつだけだが、レベルアップもした。
宿泊1週間分の用意も含め、準備は万全にして来たが、目的は果たした。
用意していたものは使い回しも可能。
ここで撤収し、王都ネシュラへ帰還するのが賢明だろう。
その旨をケルベロスへ伝えると……
何と!
猛反対、拒絶されてしまった。
『何!? 王都へ帰るだと!! 冗談ではないぞ、
『一回も戦っておらん! って、俺に全部丸投げしたじゃないか』
『丸投げ? 人聞きが悪い! 主に全て任せただけだ!』
全て任せたって……そういうのを丸投げって言うんじゃね?
まあ、良い。
俺はひたすら反論する。
『いや、それで俺は魔物と戦ってレベルアップしたし、袋もいっぱいになって封をしたし……』
『オーガ100体、あんなものは、魔物のうちに入らん!』
いやいやいや。
現在レベル15の俺にとって、オーガ100体は充分、魔物のうちに入るんですが。
ひとりで戦ったし、ね。
そう言ったら、ケルベロスはますます怒った。
『主はオーガ100体を、あっという間に瞬殺したではないか!』
『いや、瞬殺じゃないって、30分くらいかかったよ』
『変わらん!』
『え~! 変わるって! 30分は瞬殺じゃないよ!』
『戦いを放棄するなどとんでもない! 労を惜しんではならぬぞ、主!』
という感じで、熱い議論が交わされた。
堂々巡りとなってしまう。
しかし、今回は仕方なく『条件付き』で俺が折れた。
ケルベロスは、河原以外のフィールドの探索もしてくれたし。
そして、気になる条件とは……
次回の魔物出現のみ対応。
そいつらを片付けたら、速攻で王都へ帰還するというものだ。
なんやかんやで、今は夜。
時間は、まもなく午後8時。
河原から持って来た流木でかがり火がたかれていた。
そろそろ、オーガ討伐後、5時間が経過する。
次の魔物が出現する頃だ。
俺とケルベロスは、戦闘態勢に入ったのである。
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