第93話「よし!1分間……「泳がせる」時間を置こう」

仮眠を約2時間ほど取り、午後6時過ぎ。

俺とケルベロスはパトロールに出発した。

奴らの本拠地……原野の洞窟を突き止めてある。

なので、作戦は既に決めていた。


挟撃きょうげき……つまりはさみ撃ち、作戦である。


ケルベロスを奴らの本拠地付近に張り付かせる。

奴らがオーガを引き連れ、出かけたら、後をつけさせる。

そして現場を押さえ、挟撃するといった次第。


ちなみに、俺とケルベロスの強みは、離れていても、

心と心の会話……念話で連絡が取り合える事。

情報戦に持ち込み、制すれば、勝利をつかむ事が出来るだろう。


『ケルベロス、作戦通りに頼むぞ。けして熱くなるなよ』


『分かっておる。いつまでも怒っておるほど、我は愚かではない』


という事で、俺とケルベロスは二手に分かれた。


念の為、俺は別口からの盗難に備え、索敵を駆けながら農場各所をパトロールする。


ケルベロスは、作戦通り、敵アジトの近くにスタンバイし、

奴らが出撃したら、即座に通報して貰う。


農場内をジョギングレベルで走っていると、沈みかけていた夕陽が完全に地平線へ消え、辺りは薄暗くなり、淡い魔導灯の明かりが、点き始めた。


作業を終え、引き上げて来る社員さん達、スタッフさん達と、

「お疲れ様です」という言葉を交わしながら、俺は辺りを睥睨へいげいし続ける。


やがて……辺りは真っ暗となり、魔導灯の淡い明りが、農地を照らす光景となり、

何も無ければ、「幻想的だ」とカップルが、いちゃつき喜びそうな雰囲気である。


一周した俺は、次に奴らが来るかもしれないと、マルタンさん、エンゾさんが予想した、ぶどう、メロンの耕作地間の通路にスタンバイした。


視認、索敵は勿論、『気配読み』『気配消し』『忍び足』などのシーフ職スキルもフル稼働させる。


俺が着用した革鎧も、地味なカーキ色なので、

相手からしたら、よほどの術者、熟練者でない限り、識別しにくいはずだ。


約1時間が経った……


ケルベロスを張り付かせた敵のアジトはまだ動きがない。


昨夜現場を押さえられた、奴らの判断はふた通りが考えられる。


今夜は、用心して来るとしても日付が変わった真夜中。

それとも、オーガの脅威が伝わり、こちらが臆すると考え、

強気で早い時間に来るのか。


一方俺も、別口に備え、改めて周囲を警戒する。

だが、幸いにも異常なし。


ホッと安堵したところで、ケルベロスから一報が入った。


昨夜の犯人らしき奴ら5人が、オーガ5体を連れ、

出撃したとの事。


俺の索敵……魔力感知も奴らをはっきりと捉えた。


『了解』の返事をケルベロスへ戻し、俺は気合を入れ直したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


賊5人、オーガ5体を、気配を消し、ケルベロスは後をつけた。

果たして、奴らは何を狙って来るのか?


ぶどうか、メロンか、それとも他の農作物なのか……


奴らの存在、動きは俺の索敵……魔力感知に、はっきり捉えられている。


ケルベロスから、逐一、動きの報告も入って来た。


念の為、窃盗犯行前に見つからないよう、俺は奴らの進路を避け、身を隠す。


やがて……窃盗犯どもがやって来た。

オーガ5体も一緒である。


こういうオーガはプロの訓練士が人間に従うよう仕込み、

念の為、魔法の制御装置を装着している。


主人の命令には絶対に逆らえないよう、

そして主人を害する者は、容赦なく捕食……喰い殺すよう設定がされているのだ。


窃盗犯どもは、メロン畑に取り付いた。

今夜の獲物はメロンのようである。

オーガども5体のうち、3体は背中へ大きな桶を背負っていた。

盗んだメロンを桶の中へ入れるに違いない。


俺とケルベロスは、じっとして奴らを見守る。

現行犯として捕らえる為だ。

当然、気付かれてはいない。


窃盗犯のリーダー役が命じ、オーガが柵を破壊した。


うん!

窃盗犯どもが使役するオーガは3つの役割を担っていると判明する。


こうやって柵を破壊する工作役。

戦い、守る盾役。

農作物を確保し、運搬する輸送役。


じりりりりりりりりりりりりりり!!!!


魔導警報機が、けたたましく鳴り響く。


ここから窃盗犯どもの犯行は、超が付く迅速さらしい。


マルタンさん、エンゾさんの話だと、

ここからの時間が10分から30分の間だそうだ。


窃盗犯の人間ひとりを侵入口に見張り役で残し、

人間4人とオーガども5体は全てメロン畑になだれ込む。


よし!

1分間……「泳がせる」時間を置こう。


60秒からカウントダウン。

俺が数え、ケルベロスへ指示をする。


50……30……10…………1、ゼロ!


と同時に、俺とケルベロスは、柵が破壊された侵入口へ猛ダッシュしたのである。

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