第70話「まるで特別なイベント前の、壮行会のようだ」

「うむ! ジョルジエットでもアメリーでも、どちらでも構わん。婚約、結婚を前提に、昨日話した上級貴族家養子入りの件を、ぜひ前向きにかつ真剣に考えてくれたまえ!」


と、グレゴワール様に、しっかりと釘を刺された俺。


更に本日の警護の件で、いろいろすり合わせをし、与えられた部屋へ戻った。


現在は午前8時30分過ぎ。

ついグレゴワール様と話し込んでしまったので、時間があまりない。


午前8時50分少し前になり、アンヌさんが迎えに来た。


予定通りだ。


俺は部屋を出て、ジョルジエット様の部屋へ。

アメリー様も同じ部屋に居た。


ジョルジエット様とアメリー様は既に支度を終えていた。

ふたりともシックな絹製のブリオーを着ていた。


ちなみにブリオーの色は、

ジョルジエット様は濃紺、アメリー様はパステルブルーである。


ひとりは金髪碧眼&スタイル抜群、ひとりは小リスのように可憐で愛くるしい。

貴族の美少女ふたりが着こなすと、上品かつエレガント感が半端ない。


先日、誘拐未遂事件が起こった時は、誰が見てもひと目で分かる、

いかにも貴族が着そうな高級ドレスを着用していた。

だから、俺が説得したのだ。


そして、想定内ではあったが、

ふたりには専属のメイクアップアーティストまでいた。

俺が好みを伝えたせいだろうか、

年齢にふさわしく、派手過ぎないナチュラルメイクで、ばっちり決めている。


ジョルジエット様、アメリー様が、ずいっと、俺へ迫って来る。


「ロイク様、いかがでしょう?」

「似合いますか?」


ええ、似合いすぎるほど、似合ってます。


ここはベタではなく、シンプルにほめるのがベストだと、

某雑誌の恋愛特集に書いてあった。


「はい、おふたりの魅力が引き立っていて、とても可愛いし、素敵ですよ」


恋愛特集にはこうも書いてあった。

似合うという事実を肯定する事は肝要。

また可愛い、素敵は、女子が喜ぶ上位キーワードであると。


俺が言うと、ジョルジエット様、アメリー様の表情がぱああっと明るくなった。


「わお!」

「やりましたね! ジョルジエット様!」


ぽん!

と、嬉しそうにハイタッチするジョルジエット様、アメリー様。


傍らに居るアンヌさん、ジュリーさんも笑顔。


しかしもう出発の時間である。


「では、そろそろ参りましょう」

「アンヌと私が前後を固めます」


すると、もうお約束。


「アメリー! いつものフォーメーションよ!」

「かしこまりました! ジョルジエット様!」


俺の右わきにジョルジエット様が、

左わきに、アメリー様が「ぴとっ」と、くっつき、ホールドされたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


アンヌさん、俺、ジョルジエット様、アメリー様、ジュリーさんが、部屋を出て、

階段経由で1階へ降りると……


大広間ではグレゴワール様以下、騎士、使用人のほとんどが集まっていた。

警護主任騎士のバジルさん、家令のセバスチャンさんも当然居る。


ここで、一歩、二歩、グレゴワール様が進み出る。


「ロイク君! 本日はジョルジエット、アメリーの警護をしっかり頼む! 昨日のような事がないように! 同時にふたりと楽しい時を過ごしたまえ!」


対して、俺はジョルジエット様、アメリー様にことわり、ホールドを解いて貰い、

直立不動で、びしっ! と敬礼をした。


楽しい時を過ごしたまえと言われたが、俺は警護人である。

そして、ふたりに休日をしっかりと楽しんで貰わねばならない。

それが日給500万円を頂戴する仕事に対して、遂行すべき義務なのだ。


「はい! 閣下! ジョルジエット様、アメリー様をしっかりと御守りしつつ、おふたりに休日をしっかりと楽しんで頂きます」


「うむ! ロイク君は、己が果たすべき使命を、ちゃんと認識しているようだ。気を付けて行ってくるが良い!」


グレゴワール様はそう言うと、ジョルジエット様、アメリー様へ向き直る。


「ジョルジエット! アメリー!」


「はい! お父様!」

「グレゴワール様!」


「ロイク君と休日の時間を共有し、存分に楽しみなさい。但し、昨日の反省を踏まえ、警護人たるロイク君、アンヌ、ジュリーの指示に従い、勝手な行動は取らぬように!」


「はい! お父様! わがままは申しません!」

「肝に銘じますわ!」


「よし! 行って来なさい!」


「「行って参ります!」」


ジョルジエット様、アメリー様が返事をした瞬間。


「「「「「「「「「「行ってらっしゃいませ!!!」」」」」」」」」」


前世の応援団のような声掛けが、俺達にかかった。


すっげ~な!

まるで特別なイベント前の、壮行会のようだ。


ここで、バジルさんと目が合った。


お願いしますよ!

という、アイコンタクトを送って来る。


段取り通りならば、既に護衛の先行隊が出発しているはずだ。


再びここで、俺の右わきにジョルジエット様が、

左わきに、アメリー様が「ぴとっ」と、くっつき、ホールド。


そのまま俺達は、主屋を出て、

停めてあったリヴァロル公爵家専用の馬車へ乗り込んだのである。

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