第69話「金貨20,000枚も全く惜しくはないぞ!」

ジョルジエット様、アメリー様の本日の外出に伴う、警護の打合せが終わったら、

もう午前5時30分近い。


早起きして身体を動かしたので、結構、腹が減った。


俺は闘技場『中』を騎士達と出た。


出たところで、アンヌさん、ジュリーさんから誘われる。


騎士達は、全員が宿舎へ一旦戻り、食事だという。


「ロイク様、着替えたら私達、これから大食堂で朝食なんです。宜しければ、ご一緒しませんか?」

「別棟の1階が、騎士、使用人用の大食堂で、ビュッフェ形式なんです。とっても美味しいんですよ」


別棟の1階が、騎士、使用人用の大食堂で、ビュッフェ形式?

とっても美味しい?


今宿泊しているルナール商会経営のホテルの朝食もビュッフェ形式。

俺は、気楽に摂れるビュッフェ形式の食事が大好きだ。


食事に対し、どこで、誰と食べろとか、特に指示は出ていないし。

まさか、リヴァロル公爵家で一緒とかはないだろう。


という事で、断る理由がない!


契約遂行中は、俺も使用人だし。

使用人が使う、大食堂へ行っても問題はないだろう。


「分かりました。行きましょう。じゃあ、俺も一旦着替えます」


と答え、俺が一旦、着替えようと主屋へ向かって歩き出すと、

聞き覚えのある声が、大きく響いてくる……


この声は……


「ロイク様あ! 朝ごはんご一緒しましょうぉぉ!!」

「ジョルジエット様と、私でお作りしましたよぉぉ!!」


ああ、ジョルジエット様、アメリー様が懸命に駆けて来た。


え?

ふたりの手作りぃ!?

昨日のランチに続いて、また作ってくれたのかあ……


う~む。

これは行くしかないかあ……


と思い、アンヌさん、ジュリーさんを見れば、


「ロイク様、また、今度ですね」

「日を改めて、必ずお誘いしますよ。では、後ほど……」


と、笑顔を戻してくれた。


「申し訳ありません」


先に誘って貰ってOKしたが、ジョルジエット様、アメリー様は雇い主。

加えて、俺の為に早起きして食事を作ってくれた。


ジョルジエット様、アメリー様は転がるように駆けて来た。


そして俺の右わきにジョルジエット様が、左わきに、アメリー様が、

「ぴとっ」とくっついて、がっつり両方の腕をホールドされてしまった。


この連行パターンは、もうお約束なのだろうか?


でも……


「スクランブルエッグは私が作りました!」とジョルジエット様。

「ベーコンとウインナーは私が焼いたのですよ!」とアメリー様。


こう言われてしまうと、いじらしいし、心が傾く。


爆発しろ!

と言うなかれ。


……っていうか、タイプが全く違う美少女ふたりにこう言われて、

心が動かない男子がこの世に居るのだろうか?


「ありがとうございます! 楽しみです!」


と、俺は元気に答え、「どなどな」に身を任せたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ジョルジエット様、アメリー様に連れられ、

部屋へ戻ってシャワーを浴び、少しおしゃれなブリオーに速攻で着替えた俺。


部屋で待っていたジョルジエット様、アメリー様を迎えに行き、

3人一緒に、改めて朝食を摂る大広間へ……


この大広間には、巨大なテーブルが置かれ、

最奥に当主グレゴワール様が座り、これは当然として……


当主に準ずるナンバーツーの席に、何と! 俺が座らされていた!!


先ほど「どなどな」された順番通り、右わきにジョルジエット様。

左わきにアメリー様が座り、ふたりとも満面の笑み。


かいがいしく、俺の世話をしてくれている。


と、いうか俺はまるで子供のように扱われていた。


「ロイク様、口を開けて♡ あ~ん!」

「ほらほら! こぼしちゃダメですよぉ~♡」


ええっと……あの。


と困惑する俺とグレゴワール様の目が合った。


すかさず!


ジョルジエット、アメリーの好きにさせてやってくれ。


という強いアイコンタクトを送って来た。

うんうんと、頷いてもいる。


はあ~、仕方がない。

諦める俺。


そんな感じで、食事は進み……つつがなく終わった。

ちなみに、料理はレベルアップしていて、結構美味しかった。


俺は、先ほどバジルさんと打合せをした内容を、グレゴワール様へ伝え、

共有しなければならない。


万が一反対が出れば、予定変更にも対応する必要がある。


俺が、グレゴワール様と打合せする旨を告げれば、


「では、私とアメリーは支度を済ませ、午前8時50分に、アンヌとジュリーのいずれか1名を、ロイク様のお部屋へお迎えに行かせます」


「はい! ロイク様も、お部屋でお支度して、スタンバイしてくださいませませ!」


と、ジョルジエット様、アメリー様は、大広間を退出して行った。


という事で、俺とグレゴワール様も、書斎へ移動。


ふたりきりで、打合せをする。


俺は、グレゴワール様へ、今回の本日の行動スケジュールを話す。

バジルさんが、了解した事も伝える。


俺の話を聞き、グレゴワール様は、超が付く上機嫌であった。


いろいろな点を挙げ、俺の事をべた褒めしてくれる。


昨日の今日で、いきなりプランニングを振られ、面白い企画を考えた事。

バジルさんと綿密に打合せをして、安全第一に考えた事。

騎士さん達とコミュニケーションを取り、仲良くした事も喜んでくれた。


しかし!

グレゴワール様が最も喜んだのは、ジョルジエット様の変貌である。


家臣のアメリー様に対し、とても優しくなった事、

亡き妻にそっくりだという表情と母性を、見せ始めて来た事。

そして結婚に対し、人生に対し、大いに前向きになってくれた事等々……


おいおい、グレゴワール様。

ジョルジエット様の事ばかりかあ……


えこひいきはしないと言いながら、

やはり血を分けた、亡き妻そっくりの愛娘が凄く心配なのであろう。


父親って、そういうものかあ。


結婚の経験はない俺だが……

何となく、グレゴワール様の気持ちが分かるような気がした。


「ジョルジエットが結婚は勿論、これだけ人生に前向きとなったのは、全て、ロイク君のお陰だ!」


「いや、そんな事はないですよ」


「いやいや! 私は改めて実感する! 悪漢どもの手に落ちかけ、命も危うかったあの子を救い出してくれた上、あれだけ変わってくれれば、金貨20,000枚も全く惜しくはないぞ!」


と言うグレゴワール様……ハッとした。


ここで、俺の気持ちを見透かしたように苦笑。


「ふむ、いかんいかん! ジョルジエット、アメリー、えこひいきはしないという約束だったな」


「ええっと……」


「うむ! ジョルジエットでもアメリーでも、どちらでも構わん。婚約、結婚を前提に、昨日話した上級貴族家養子入りの件を、ぜひ前向きにかつ真剣に考えてくれたまえ!」


と、しっかりと釘を刺して来たのである。

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