第41話「不安より期待の方が大きい」

勝手知ったる王都郊外の砦において……

俺はオークとの戦いで、己の能力を存分に試し、支障なく課題をクリアした。


手ごたえを感じた俺は、『個人事業主ロイク・アルシェ』の『営業開始』について、

正式に「GO!」を出す事にした。


たださすがに、激戦明けの本日から営業開始にはしない。


この日は王都のホテルに戻り、オーク戦の疲れを取るべく充分に休養を取った。

ちなみに、購入していた大肉塊をケルベロスにも渡し、「お疲れ様」をした。


……翌朝。

俺はいつも通り、起きてバイキング形式の朝食を食べた。


基本的に俺はバイキング形式の食事が大好き。

特にこのホテルの食事は美味い!


でも今朝は、ことのほか美味く感じる。


という事で……午前8時。


革鎧を着こんだ俺は、一式を装備。

今回は背中へ、ディバッグを担ぎ、気持ち良く、『外回り』に出発した。

『営業開始』したから、各所への挨拶も兼ね『外回り』を行うのだ。


まず訪問したのは、ルナール商会、本館へ伺う。

砦の攻略、オーク戦の勝利を見越し、先方に訪問の可能性は伝えてある。


幸い、会頭セドリックさん、幹部社員オーバンさんは在社していた。

ノーアポでも会ってくれるというから、ありがたい。


応接室へ通され……

俺は挨拶し、作成した『名刺』を渡す。


これは前世の営業マン時代の経験を思い出し、

本来『ステディ・リインカネーション』の世界では存在しない、

『名刺』を魔導印刷屋へ依頼し、作成して貰ったのだ。


この名刺は、氏名と連絡先を記載する形であり、

連絡先は、いつまで滞在するか不明な、

現在宿泊中のホテルにするわけには行かないので、

許可を得て、冒険者ギルド総本部にして貰った。


生まれて初めて名刺を見たセドリックさん、オーバンさんは、

とても面白がり、即座に採用を決めてしまった。

早速、ルナール商会の全社員用に作成するという。


アイディア料を支払うとセドリックさんから言われたが、

いろいろお世話になっているので、さすがに断った。


名刺の話が盛り上がったところで、俺は伝えるべき事を告げる。


「会頭、オーバン様、しばらく、冒険者ギルドでいろいろ学び、目途めども立ちました。つきましては、個人事業主ロイク・アルシェとして、御社を含め、皆様とお仕事をして行きたいと思います」


俺が個人事業主ロイク・アルシェとして、営業を開始すると伝えると、セドリックさん、オーバンさんは満面の笑み。


「おお、ロイク様が、ついに『始動』なのですな! 早速当社から、『3件の依頼』をご提示したいと思います」


「はい! 会頭のおっしゃる通り3件、ご依頼を用意致しました」


うわ! 3件も俺へ依頼!?

凄いな、それ!


「え!? 3件もですか!? ……本当にありがたいです」


俺はお礼と感謝を伝えた上で、この場で即決の返事が難しいと伝える。


「ただ、後の予定もありまして、この場では開封せず、ホテルでじっくりと内容を拝見した上、お引き受けするか検討し、後日お返事しても宜しいですか?」


このお願いは、別に時間稼ぎとか、そういう事ではない。

この後、冒険者ギルド総本部へ行く事になっているし、

拙速に返事をするのは宜しくない。


頂いた依頼をじっくり見て、検討したいのだ。


俺が申し訳なさそうに告げると、セドリックさんは笑顔で首を横へ振る。


「ええ、構いませんとも! 折り合えばロイク様がお引き受けされるという条件でしたからな……オーバン! 依頼書をお渡しなさい」


「はい! 会頭!」


セドリックさんの指示に従い、

オーバンさんは俺へ、依頼書が入った書類入れを渡して来たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『個人事業主ロイク・アルシェ』として『営業開始』した直後、

いきなり3件も依頼を提示されてしまった。


それも双方が折り合えば、請け負うという好条件である。


何度も何度も、丁寧にお礼を伝え……

俺はルナール商会を後にした。


さあ、先述した通り、次は冒険者ギルド総本部へ赴く。


先ほどの会話でやりとりは終了。


依頼の内容、条件等は不明だ。


俺がその場で返事をしないのと同様、

何故なのか、ルナール商会側からも、説明は一切なかったのである。


それゆえ、書類入れの中の依頼書の記載内容が少しだけ気にはなった。


ちょっと怖い気もするが、今まで、至れり尽くせり的に、

とんでもなく優遇してくれているから、不安より期待の方が大きいとは言えよう。


ちなみに、セドリック会頭とオーバンさんに尋ねたところ……

冒険者ギルドの依頼同様、俺が誰かを雇い、

ルナール商会の依頼完遂に協力して貰うのは『あり』だという。

当然、依頼の褒賞金を踏まえた上、俺が報酬を設定し、私費で支払う事になる。


自分のクランへ入隊を勧めていた、

猛禽ラパスのジョアキムさん達を、俺が逆に雇用しても構わないという事だ。


またジョアキムさんはランカーなので『指名依頼』が可能である。

指名依頼とは、文字通り、特定の個人やクランなどを指名して、

仕事を請け負って貰う。


つまりルナール商会の仕事を請け負った俺がギルド経由で、

依頼遂行の協力者として、ジョアキムさん達を指名依頼しても構わないという事。


まあ、俺の出している取り決め同様、

双方の条件が折り合えばOKするという前提付きであるが。


そんなこんな、いろいろと考えながら歩いているうちに、

俺は冒険者ギルド総本部へ到着したのである。

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