第38話「やはり裏があった」

「ビナー、ゲブラー、召喚サモン!」


俺が言霊を詠唱し、召喚魔法を発動すると、魔方陣が現れ……

一体の灰色狼風の巨大な犬が飛び出して来た。


俺が召喚魔法で呼び出した『使い魔』である。


使い魔は、俺の心へ呼びかけて来る。


『うむ、来たぞ』


おいおい!

うむ、来たぞって、何だよ、それ!

……前世の超ワンマン社長かと思えるくらい、

相変わらずの『傲岸不遜ごうがんふそん』かつ『上から目線』である。


先述したけど、指示には従ってくれるので、

あまり細かい事は言わないようにしている。


ちなみに、この『ステディ・リインカネーション』の世界には、

使い魔以外でも心と心で話す事が可能な会話『念話』が存在する。

早く習得したいと願う。


対して、俺も心で言葉を戻す。


『ああ、お疲れ』


『ふむ……今日は、どうする?』


『ああ、1か月の修行の成果を実戦で、あの砦で試すつもりだ』


『ふむ! 1か月の修行の成果を実戦で試す……そうか!』


あれ?

喜んでる?


『ああ、俺はとある理由で、砦の内部は熟知している。 いつもの通り、フォローを頼むぞ』


と俺が言ったら、


『うむ! そうか! では我も! ともに戦おう!』


『え? 我も戦うって?』


おいおい!

風貌は狼だけど、お前はしょせん使い魔の犬だろ?

敵はオーク100体、結構強いぞ。


しかし、こいつ全然臆してない。

動じてない!


それどころか、平然と言い切りやがった。


『……驚く事はない。言葉通りだ、あるじよ』


『言葉通りって……』


『問題ない! 仕様は分かっていても、主は、砦の中の敵を把握しているのか?』


『ああ、そっちも万全だ。索敵を行い、魔力感知で把握した。砦にはオーク100体が居るよ』


『ふむ、さすがだ』


いや、さすがだって……相手はオーク100体なのに全然余裕のよっちゃん。


やはりコイツは、『単なる使い魔の犬』じゃない。


そんな俺の心を読んだかの如く、使い魔はいきなり、名乗る。


『そうだ、主。我は使い魔ではない! 魔獣ケルベロスだ!』


え~!?

こいつは、魔獣ケルベロス!?


本来のケルベロスは、巨大な体躯に、3つの頭を持ち、竜の尾と蛇のたてがみを持っている。

多分、今の姿は擬態だろう。


それにしても、おかしい!


何故ならば、『ステディ・リインカネーション』の世界では、

自分よりレベルが上の存在は召喚出来ない。


現在の俺は、修行を積んで頑張ったけど、たったレベル10。

まあ、元はレベル5だから、無理もない。


対して、ケルベロスは軽くレベル60オーバーの強者である。

召喚した時俺のレベルは、10よりもっと低かったはず。

だから、この世界のことわりにあてはめても、召喚は起こりえないのだ。


ケルベロス自身が、そのことわりを知っているかどうかは不明である。


しかし、俺は言わずにはいられない。


『おい、ケルベロス。俺のレベルでは、高位の存在たる、お前は呼べないはずだ』


『うむ、確かにその通りだ』


知ってやがった!!

認めやがった!!


これは更に追及するしかない!


『じゃあ、ケルベロス。何故、俺の召喚に応じた?』


『うむ! 大いなる天の声に命じられた。主のもとへ行け、そしてつかえよと』


何じゃ、そりゃ!?


大いなる天の声?

主のもとへ行け、そしてつかえよ?


ケルベロスを呼べたのは、

この世界のことわりを超えたイレギュラーな召喚って事か!


おいおい!

ややこしいのはやめてくれ!

勘弁して欲しい!


俺はこの『ステディ・リインカネーション』の世界で、

普通に面白おかしく楽しく暮らして、

前世より、1億倍幸せになりたいだけなんだ!


しかしそんな俺の想いは華麗にスルーされてしまう。


『ふむ、主! 作戦を指示してくれ!』


有無を言わさず!

という感じでケルベロスに言われ、俺は苦笑。


仕方なく、


『了解』


と言葉を戻したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


大いなる天の声が命じ、絶対召喚不可能なレベルの魔獣ケルベロスを呼ぶとか、


そして!


俺ロイク・アルシェの中身が、

最強アバター、アラン・モーリアの初期設定で、超ラッキーなのは、

「やはり裏があった」と考えるしかないだろう。


驚いた後に、脱力感が襲って来た。

俺の運命は一体どうなるんだろう?


そう心配したが、すぐ思い直した。


後々、ややこしい事になりそうだが、仕方がない。


今からあれこれ心配しても、どうにもならないからだ。


まあ、なるようにしかならない。


今は分不相応だといえる使い魔……否、従士か。

レベル60オーバーの魔獣ケルベロスが加わり、

戦力が大幅アップしたと、素直に喜んだ方が良い。


でも、ケルベロスの能力って、具体的にどれくらいなんだろう。


命じても、「そんなん出来ねぇ」とか、反論されるかな?


いや!

ま、いっか。

少し無茶ぶりするくらいで。

多分、あいつ文句は言わないだろう。


今回の趣旨は、修行で得た俺の能力を試す事だから。


つらつら考えながら、ケルベロスとともに、砦が見える位置まで来た。


当然、『隠形』と『忍び足』は継続している。

砦の気配はずっと変わらないから、

多分俺とケルベロスの存在は気付かれてはいない。


そっと見やれば、正門脇の石壁上に見張りらしきオークの姿が認められた。


ぱぱぱぱぱぱぱ!

と、俺は段取りを考えた。


すかさず指示を出す。


『ケルベロス。お前は左奥の石壁が崩れた場所より、砦内へ侵入。オークども相手に思い切り派手に暴れてくれ!』


俺の意図はすぐケルベロスに理解された。


『成る程、我がおとりとなる攪乱作戦かくらんさくせんか。その間、主は修行で得た己の能力を試す。……そういう事だな?』


『ああ、その通りさ。ちなみにお前が暴れ出してから、俺は右手前から石壁を乗り越え、砦内へ侵入する。行けるか?』


『心得た!』 


『よし! 行くぞ、ケルベロス』


『うむ! 了解だ、主』


このやりとりも、今後ず~っと繰り返して行く事に違いない。


『まず砦へ接近。正門脇に陣取る見張りに察知されないよう、出来る限り気配を消して走れ。まだ吠えたりするな。俺が先へ行くから、続いてくれ』


言い放った俺は……

廃墟と化したオークの巣くう砦へ向け、

足音も無く、弾丸のように走り出したのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る