第24話「当初の目的は全て達成した。さあ次へ進もう!」

可愛い魔法使い女子さんが、大きな声で叫んだ瞬間。


俺達が居る検査祭儀室の外へ通じる扉が、

どんどんどん! と強く叩かれた。


そして、ばん!

と扉をぶち破るような勢いで、検査祭儀室へ入って来たのは、

当然ながら、サブマスター、エヴラールさんと秘書のクロエさんである。


ふたりとも、さすがに血相が変わっていた。

隣室で、俺の現スペックを見たのであろう。


「おいおいおい! 驚いたぞ! ロイク君!!」

「驚愕!! 以外の言葉が見つかりませんっ!!」


「はあ、まあ……こんなん出ましたけど、大いにびっくりって感じです」


俺は既にクールダウンしていたから、淡々と告げた。


「何だよ、それ! ロイク君はえらく冷静だな!」

「そうですよ! ロイク様! とんでもなく、落ち着いているじゃないですかっ!」


というやりとりを呆然と見ていた、検査担当の可愛い魔法使い女子さん。


ハッとして、我に返り、クロエさんへ詰め寄った。


「クロエ様、この方、どういう方なんですかあ?」


「ええっと、アンジェル……もしかして、怒ってる?」


「少しだけ……ちゃんと、私にも説明して貰えますかあ?」


「わ、分かったわ」


と、クロエさんは言い、エヴラールさんへ向き直る。


「サブマスター、ロイク様の山賊討伐と模擬試合の件を、アンジェルへ話しますよ。じゃないと、おさまりがつきません」


「あ、ああ……分かった」


仕方なく、という感じでエヴラールさんも了解した。


という事で、担当魔法使い女子の子……アンジェルさんへ俺の経歴が伝えられると、


「どうして! 検査前に『ロイク様はもの凄い人だ』と言ってくれないんですか? クロエ様っ! アンジェルは、とっても、びっくりしちゃったじゃないですか!」


んアンジェルさんは、クロエさんへ向かい、

ほおをリスのようにふくらませ、ぷんぷんして検査祭儀室を出て行った。


当然、俺のせいではない。

八つ当たりされたクロエさんのせいでもない。


「素人の俺に負けたという己が、断じて許せない!」という事で、

模擬戦の結果を内緒にした、サブマスター、エヴラールさんのプライドのせいだ。


八つ当たりされたクロエさんが、憤慨する。


「もうっ! サブマスター! だからスペック検査官のアンジェルだけには、ロイク様の経歴と、さっきの模擬戦の結果、教えておこうって言ったんですよ」


「いや! 経歴はともかく、さっきの模擬試合はノーカウントだ」


きっぱり言い切ったエヴラールさん。


対して、「どこまで負けず嫌いなのか!」と、クロエさんは呆れている。


「さっきの模擬試合はノーカウントって、サブマスター……公式記録へ、しっかりと、私が記載していますけど」


「いや、記録には残っても、違う」


「違うって、何が違うのですか?」


「うむ、私が、ロイク君の実力を見抜けず、手加減するなどして、油断しすぎただけだ。再戦したら、あんな事は二度とない」


「ああいえばこう、もう! 勝手におっしゃっていてください。それよりも驚愕し、特筆すべきは、ロイクさんのスペックですよ。この数字ならば、ランクBでも全然おかしくありません」


「それな!」


「それな! じゃありません! 何ですか、この数字! この世にこんな人間が居るなんて信じられません」


いや、クロエさん、それは言いすぎですけど。


と俺は苦笑するが、クロエさんのトークは止まらない。


「素人なのに! スペックのほとんどが超一流レベルの数値です! 特にDEX:デクステリティー、VIT:バイタリティー、AGI:アジリティは、レジェンドレベルの10,000!! 最高限界数値です!! LUK:ラッキーまでもが10,000! そして! ロイク様はまだ、伸びしろがいっぱいな、若干16歳なんですよぉ!!」


「まあまあ、クロエ、落ち着いて。ロイク君のスペックは、君が言う通り、とても素人が備えているものではない。いわば天才だ。対して私は血がにじむような努力あって剣を極めた秀才。その秀才が手加減しすぎて、天才に負けた。そう記録には書いておいてくれたまえ」


いつもの『冷静沈着』状態へ戻ったエヴラールさんの言う事は、

何となく道理だけは、かなっている。

こういうように、口が立つ事も、俺は知っている。


クロエさん、納得したみたい。


「……ま、まあ、仕方ありませんね。そういう事に致しましょう」


一方、『上司と部下の掛け合い漫才』に置いてかれた感のある俺である。


しかし、当初の目的は全て達成した。

だから、余裕である。


冒険者登録、ランクBたる所属登録証の交付、

更に、最大の目的、

俺の中身が、想定していたアラン・モーリアの初期設定だった最終確認もした。


その後、応接室へ戻り、クラン『猛禽ラパス』を始め、

冒険者ギルド総本部推薦での、有力クランの紹介入隊を、ふたりからは勧められた。


OKすると、条件面でだいぶ優遇して貰えるらしい。


また、数多ある冒険者ギルド総本部の講義を受講し、

更に「能力をバージョンアップする」事もすすめられる。


「魔法をひとつも習得していない」事も驚かれたが、

逆に「本当に素人なのだ」とふたりには納得して貰え、やはりラッキーであった。


結局俺は、「じっくりと考えたい、ペンディングです」

と、様々なお誘いをお断りした。


さあ次へ進もう!


そうこうしているうちに、時間もなんやかんやで、すでに夕方。

行きたいと思っていた場所も、明日以降に予定変更。


という事で、俺はとりあえず、ホテルへ戻ったのである。

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