第18話「素人の動きとやらを、じかに見てみたいのですよ」

秘書のクロエさんが俺を紹介すると、サブマスターのエヴラールさんは笑顔で、


「はじめまして、ロイク君。ようこそ! 冒険者ギルド総本部へ! 私が、サブマスターのエヴラール・バシュレです」


と、挨拶をした。


本当は、「おい、久しぶりだな」と言いたいが、言えるわけがない。


なので、堂々と行く。


ここぞとばかりに、俺は軽く息を吐き、はっきりと言い放つ。


「先に、ごあいさつをして頂き、恐縮です。初めまして! サブマスター、エヴラール・バシュレ様! 自分はロイク・アルシェと申します。本日は、冒険者ギルドの冒険者登録に伺いました。王都に来る際、知り合いとなったクラン『猛禽ラパス』のリーダー、ジョアキム・ベイロンさんから、ご紹介状も預かりまして、持参致しました! いきなり、ノーアポインメントで伺いましたのに、サブマスターに、わざわざお時間を作って頂き、深く感謝致します!」


俺は、秘書のクロエ・オリオルさんへしたのと。

ほぼ同じあいさつをした。


いや、サブマスター用に少し長くなったか。


でも!

一気に言い切った。


びしっ!と、背筋を伸ばし、直立不動をしてあいさつするのは、前世の癖だ。


そう、俺が勤めていたダークサイド企業は、

営業職の教育が、典型的な体育会系であったのだ。


しっかりとあいさつをした俺を見て、エヴラールさんも「おお!」という顔をした。


そして、俺の名を呼ぶ。


「ロイク君」


「はい!」


「いきなり、かつ、ぶしつけで申し訳ないのですが、君はいくつでしょう?」


「いくつ……年齢ですか? にじゅうご……じゃなく、16歳です!」


うわあっと、あぶね~!

いきなり素の年齢『25歳』をカミングアウトするところだったあ!

セーフうう!!


対して、エヴラールさん、俺の『がわ』の年齢を信じてくれたみたい。


「おお、16歳ですか! まさに立て板に水ですね」


「それほどでは」


「いえ、その年齢で、今のあいさつが出来る者は滅多に居ないのですよ」


「…………………」


こういう時、下手に言葉を発したり、相槌あいづちなど打たない方がベスト。

俺は無言で、微笑んでいた。


「ふむ、面白いですね、君は。ロイク・アルシェ君、実に興味深いですよ」


気が変わった。

……お礼くらいは言っておくか。


「……ありがとうございます」


「うむ、クラン『猛禽ラパス』のリーダー、ジョアキムからは、詳しい報告が入っています。ロイク君、君の見事な戦いぶりのね」


「俺の戦いが、見事ですか? 単に、こん棒振り回しただけですけど」


おお、ジョアキムさん、自分の依頼完遂報告の際、

俺の話を詳しくしたのか。


一体、エヴラールさんに俺の事をどう、言ったのだろう?


まあ、詳細な報告をするのは当たり前だし、仕方がないか。


とりあえず、エヴラールさんの話を聞こう。


「ふふふ、単に、こん棒振り回しただけなど、何を言っているのです」


「え、ええっと……」


「ロイク君はね、各個撃破を行った上、自らが囮となった陽動作戦も使い、クラン『猛禽ラパス』のメンバーを導き、山賊を挟み撃ちにしたのですね」


「ええ、結果良しでした」


「結果良し? しっかりと作戦とクラン『猛禽ラパス』との連携を考えたのでしょう」


「まあ、何となく、思いつきました」 


「何となく? ……それこそ何を言っているのです。君は作戦をしっかり立て、実行した。その上、たったひとりで、襲って来た山賊の半分近く、40人以上を倒した。そう聞いています」


「はい。本当に、たまたまで、結果良しでした」


「何度も結果良しなどと……そして、たまたまとか、すっとぼけるのもいい加減にしてください、ロイク君」


「ええっと、その……」


「ジョアキムを始め、クラン『猛禽ラパス』のメンバーは全員が、人間離れした君の、獅子奮迅ぶりを目撃しているのですよ」


うわ!

エヴラールさん、追い込んで来るなあ。


対して、俺は防戦一方である。


「いえ、ただただ必死でした。武道の心得などありませんでしたが、座して待てば、死ぬだけだと思い、開き直って、一生懸命に戦いました」


「ふむ、ではロイク君は、武道の経験は何も無いのですか?」


「はい、何も無いです。両親が亡くなるまでは農民を、亡くなって以降は、村のよろず屋で店員をしていました。最近までよろず屋の店員だったのは、これが証拠です」


俺は、オヤジ店主から貰った、退職証明書、及び退職金支払い証明書を、

サブマスターのエヴラールさんへ見せた。


ちなみに、この書面には『勤務期間』も記載されている。

なので俺の履歴は噓偽りなく本当なのだ。


まあ、中身のスペックはがらりと変わっているだろうが。


「ふむふむ、成る程。……話は確かに合っていますね。整合性は、問題なし……よく分かりました」


「では、エヴラールさん。お手数をおかけしますが、登録の手続きを。それと心の扉を開く手続きもお願いします」


「心の扉をですか、それも了解です。但し、審査を逆にしましょう」


「審査を逆? ……ですか?」


「ええ、通常、登録希望者はまず冒険者の心得、冒険者ギルドの方針、規則等々を学び、理解して貰う為、講習を受けて貰います。それから、実戦形式のランク判定試験を受けて貰うのです」


「ええ。そうお聞きした事があります」


ギルドの登録手続きを良く知っている俺は、

もっともらしく言うが、何とエヴラールさん。


「しかし! 君は既に山賊を倒しています。なので先にランク判定試験を行いましょう」


「は? 先にランク判定試験?」


何、その理屈?


山賊を倒したから、講義よりも実戦試験が先?


秘書のクロエさんも戸惑っている。


「サブマスター、そのロジックは通るとは思いませんが」


「はははは、順番や試験官の変更など、私の権限で、どうにでもなります」


「え? 権限? どういう事ですか」


「はい、簡単です。どうせ、ランク認定試験は行うんです。私はね、ひとりで山賊を40人以上倒した『素人の動き』とやらを、じかに見てみたいのですよ」


「はあ!? 『素人の動き』とやらをじかに見てみたいって! サブマスター!」


「ま、いいから、いいから、クロエ、騒がないでくださいな」


うわ!

出た。


俺は良く知っている。


一見、クール。

常に冷静沈着でいながら、熱くなると、止まらない。


こういうところあるんだよ、この人は!


「……という事で、ロイク君、早速闘技場へ行きましょう。今、ちょうど空いているから、一番大きな大闘技場でやりますか。講習の方も私とクロエが特別に君の講師となってさしあげますよ」


エヴラールさんは、やり手のサブマスターらしく、ちゃっちゃと仕切ると、

にっこりと笑ったのである。

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