第13話「引く手あまた」
という事で……
その後は敵襲もなく、オーバンさん率いるルナール商会の商隊は無事、
王都ネシュラへ到着した。
俺の生まれ故郷の村からは、馬車で丸3日かかった。
巨大な街壁に囲まれ、鉄製の同じく巨大な正門。
屈強な門番が、たくさん居並ぶおなじみの光景である。
「お~、久しぶりだなあ!」
王都ネシュラを見て、思わず声をあげた俺ロイク。
一緒に御者台に座っているオーバンさんが
?マークをいっぱい出している。
「ん? 久しぶりって? 確かロイクは故郷の村から一歩も外に出た事がないって、言ってたよな? ネシュラだって、初めてだろ?」
「あ、は、はいっ! そ、そうでしたあ! か、勘違いですう!」
「だよなあ」
危なかった!
慌ててごまかし、どうやら事なきを得たようだ。
つい前世の癖が出てしまった。
とは言っても、当然リアルで王都に住んでいたとか、
訪れているわけではない。
ここは、俺が前世で熱中していたRPG『ステディ・リインカネーション』の世界。
その時プレイしたアバター、魔法騎士アラン・モーリアは王都生まれの王都育ち、
つまり王都はアランの故郷であり、隅から隅まで知り尽くしている。
いわば『庭』という事なのだ。
さてさて!
商隊の馬車は、商業街区のルナール商会本館前に止まった。
ここで、冒険者クラン『
リーダーの盾役戦士ジョアキムさんへ聞くと、
慰労され、商会から帰還証明書を貰い、ギルドへ戻って、
依頼受諾の際、契約した報奨金を受け取るという。
「君には素質がある! 冒険者にならないか、高待遇で迎える!」
と、誘われていた彼らとは別行動となるのだが、
後日の連絡先――冒険者ギルドの場所と業務担当者の氏名と、
ジョアキムさんの住所も教えて貰った。
という事で、俺はオーバンさんに「どなどな」され、豪華なVIP応接室へ。
ソファにかけて待っているように指示され、オーバンさんは一旦退場。
しばし経ち、オーバンさん、
70歳くらいの、粋な身なりをした老齢の紳士に連れられ、現れた。
「おい、ロイク。この方が、ウチの会頭だぞ」
と、オーバンさんが気安く紹介すれば、
「ばっかも~ん!」
と、老齢の紳士――ルナール商会の会頭が、オーバンさんを一喝した。
「オーバン! この愚か者が! 大勢の山賊どもから商隊を救ってくださった恩人に対し、何を呼び捨てにしておる! お前は商人としての心構えがなっとら~ん!」
あららららら……オーバンさん、会頭さんに怒られちゃった。
というか、もう今回の事件の報告は、会頭さんの耳へ入っているんだ。
まあ、後々の事もある。
ここは俺が、
「いえいえ、会頭様、自分なんか、まだ16歳の小僧ですし、店を退職したところを拾って頂き、ご厚意で王都まで馬車に乗せて頂いたご恩返しをしたまでです」
俺は丁寧に物言いをした。
すると、会頭さん、喜んじゃった。
機嫌も直ったらしい。
姿勢を正し、俺を褒めながら、自己紹介する。
「おお、ロイク様はお若いのに奥ゆかしいし、物言いもしっかりしていますな。私はセドリック・ルナール、ルナール商会の会頭でございます」
俺も改めて自己紹介。
「はい、改めまして! 自分はロイク・アルシェと申します。商会のご厚意で王都にお連れ頂き、本当にありがとうございます。深く感謝致します」
「いえいえ! こちらこそですよ! 今回は何とお礼を申し上げたら良いのか、大事な社員と貴重な積み荷を怖ろしい山賊からお守り頂き、本当にありがとうございました。こちらこそ、深く深く感謝致します!」
おお、凄く感謝されてる!
前世でもこんなに誉められた事はないぞ。
ささやかな喜びだけど、転生して良かったと感じた。
ヤバイという顔だったオーバンさんも、
会頭のセドリックさんが笑顔でホッとしているし。
めでたしめでたしというところ。
セドリックさんは、改めて今回の経緯を詳しく聞きたがったので、
俺はオーバンさんに断りを入れ、了解を取った上で、
セドリックさんへ詳しく話したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
自慢したくはなかったが……
話は活劇且つ武勇伝のようになり、
俺、セドリックさん、オーバンさんは大いに盛り上がった。
これも命が助かったからこそ、笑える話である。
下手をすれば、転生したばかりの俺は、あの時に人生を終わらせていた。
このように、楽しく談笑など出来なかったから。
そして、『がわ』こそ16歳の素朴な少年ロイク・アルシェだが……
中身は25歳の営業マン、ケン・アキヤマ。
経験を積んだ分、大人相手の話術もこなせる。
最初に、商人に誘ってくれたオーバンさんに続き、セドリックさんまでも、
「ロイク様」
「はい」
「今回の山賊討伐に加えて、貴方は人の気分をほがらかにする会話も上手い。そして商品を始め、雑学までお持ちの知識も豊富ですね」
「いえ、全然です。過分なお言葉です」
「いやいや、私には分かる。ロイク様には商人として、素晴らしい素質と才能がありますよ」
「ありがとうございます。素直に嬉しいです」
「宜しければ、当商会に入社して頂き、商人として世界を股にかけ、存分に腕を振るってみてはいかがでしょう? 給金始め、破格の好待遇を、会頭の私セドリックがお約束致します」
ああ、案の定、やっぱり誘われた。
正直、前世では未経験のヘッドハンティングの気分だ。
それも三顧の礼で迎えるという趣きだから、最高に嬉しい。
しかし、ここは焦らない方が吉。
冒険者の方が面白そうだし、稼げるかもしれない。
まさに引く手あまた。
しかし、もっともっと面白い仕事があるやもしれない。
俺は好きな仕事を思い切り楽しみ、金も稼ぐ!
そう、決めている。
この『ステディ・リインカネーション』の世界へ転生して決めた人生のスローガン。
俺は絶対! 前世より1億倍! 幸せになる!
心の中で、改めて叫んだ。
なので返事は、
「申し訳ありません。オーバンさんからも、お誘いを受けましたが、自分は前の仕事をやめたばかりで、王都へも生まれて初めて来ました《これは嘘》。なので、じっくりと考えたいのです。しばらく保留とさせてください」
俺がそう答えても、セドリックさんもオーバンさんも嫌な顔をしなかった。
「おお、それは当然でしょう。ロイク様の将来にかかわる事ですから」
「ええ、会頭のおっしゃる通りですよ」
その後、俺は『莫大な謝礼』を受け取った上、
セドリックさんから、
「これからどうするのですか? 今夜のご宿泊先はいかがなされますか?」
と丁寧に尋ねられたので、
「特に行くあてがないです」と正直に伝えたら……
「私がひと言、言えば、ロイク様はルナール商会経営のホテルに、1か月間の無料滞在が可能ですよ。ぜひご宿泊ください! 更に数か月の延泊も全然構いません!」
と言われ、これまたセドリックさんに命じられたオーバンさんにより、
俺は「どなどな」されたのである。
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