第8話

「くそっ! くそっ! なんで、こんな事に……」


 ライラに拘束されながら、喚き散らすイアン。まるで自分が被害者だというよう。そんな態度の彼に睨みつけられたシエラは、鬱陶しいという感情を隠さずに答えた。


「何を勝手に被害者面をして。全て自分で蒔いた種が原因でしょ。それを私の責任にしないで下さい」


 それからシエラは、ライラの同僚とメイド達を呼び出して後片付けを始めた。


 女子寮の警備兵を呼び出し、やって来た彼らに事情を説明する。そして、イアンの身柄を引き渡した。事前に防ぐことは出来なかったのかと、少し皮肉も言いながら。


「ここまで侵入を許すなんて、警備兵はとても忙しいようですね」

「いやぁ、申し訳ありません。交代の時間を狙われてしまったようで」

「……そうですか」

「ええ。ですが、流石ですね! パークス家のご令嬢は、とても優秀だというお話を聞いていましたが、事前に襲撃にも備えているなんて。無事で良かったですよ」

「えぇ、まぁ」


 やって来た警備兵達は、自分たちの失態を申し訳なく思っているようだった。だが仕方ないことだったと、他人事のように振る舞っている。


 けれどシエラは、彼らの態度を指摘することなくスルーした。おそらく警備兵達は何らかの処分が下されるだろう。その時に、今回の問題の重大さを理解するだろうと分かっていたので。


 シエラの部屋に警備兵が来たことで、近くの部屋で生活している令嬢が不安そうな表情を浮かべて、何があったのか聞いてきた。当然の興味だろう。


 シエラは包み隠さずに、事件の詳細を彼女たちに説明した。その話を聞いて、寮の警備に不安を抱いた多くの令嬢達が実家に連絡して、帰省することになる。その日のうちに女子寮で生活していた令嬢達が全員、その寮を出ていった。


 つい先日、イアンの浮気騒動もあった学園に貴族の娘を通わせることを止める理由もある。こうして貴族学園には男子生徒だけが残り、女子生徒は居なくなった。


 シエラも、実家に帰ることにした。事件が起きた部屋で、一晩も過ごしたくないと思ったので。


 その後の話は、シエラがパークス家の領地に戻ってから聞いた話である。

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