第3話
「やぁシエラ、久しぶりだね。入学したのに三ヶ月以上も婚約者に会いに来なかった薄情者な君が、今日は一体何の用かな?」
「浮気していた人が言うことかしら?」
学園の中庭。二人の久しぶりの再会は、険悪なムードで始まった。
近寄ってきたシエラを見て、ふてぶてしい笑い顔のイアンが嫌味を言う。それを、不満そうな表情で言い返すシエラ。
「ねぇ誰? この子?」
「楽しく話してるのに、邪魔しないでよ」
「あんたも混ざりたいのぉ?」
イアンと並んでベンチに座っていた女子生徒たちが、シエラのことを馬鹿にする。だがシエラは、女子生徒たちの言葉など一切無視して話し始めた。
「イアン、浮気をやめなさい」
「はぁ? また、いつもの説教かよ。もう、うんざりだ!」
シエラから浮気について言われた瞬間に怒り出したイアン。学園に入学する前の、実家に居た頃を思い出して嫌な気持ちになったから。
そんな彼の反応に、冷たい視線を向けるシエラ。淡々と話を続ける。
「どうしても、浮気をやめないつもりですか?」
「別に、浮気なんてしていないさ。ちょっと仲良くしているだけだよ」
イアンは、浮気していることを否定した。だけど、シエラは納得しない。
「どこからどう見ても、浮気ですよ」
「あぁ、もう! うるさいな。そんなに嫉妬するなよ」
嫉妬していると、議論をすり替えようとするイアン。最後の最後に確認をしてみたシエラは、彼の態度を見て決心がついた。
「では、貴方との婚約を破棄させてもらいます」
「フン! 婚約を破棄したいと思っていたのは、こっちの方だ! お前みたいな女と結婚するなんて絶対に嫌だね。だけど、婚約は親が決めたことだぞ。僕たちが勝手に破棄すると言っても、認められないさ。それを分かって言っているのかい、君は?」
婚約を破棄すると言い出したシエラに対して、馬鹿にしたように反論するイアン。親が決めた婚約の話を、勝手に破棄することは出来ない。そう思っていた。
「婚約破棄を了承されましたね。証人、今の証言を記録して下さい」
「確かに、記録しました。これで婚約破棄は成立です」
今まで気配を消して、二人の会話を聞いていた中年男性。彼は、シエラに呼ばれて前に出てきた。そんな男に対して、不審者を見る目を向けるイアン。
「おい、この男は誰だい? もしかして、君の浮気相手か? 君の方こそ、浮気していたんじゃないか。僕の知らない男と一緒に居るなんて、はしたない」
「馬鹿な考えね。私は、浮気なんてしないわよ」
「じゃあ、その男は誰なんだよ!」
「彼は、証人です。私達が婚約破棄するために立ち会ってもらった、ヴァーノン伯爵家当主の代理人ですわよ」
ヴァーノン伯爵家は、パークス男爵家よりも上位者ではあるが、技術交流などして対等で友好的な関係を築いていた。そして今回、婚約破棄した事実を証明してもらうようにシエラが依頼した。代理人が来てくれたので、婚約破棄の証人として十分。
これで正式に、シエラとイアンの二人が同意して婚約破棄が成立した。
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