第20話 異変
「ベン殿、見えてきましたぞ!」
ディルがこちらを振り返り嬉しそうに手招きをする。少し早足で近寄ると、見えてきたのは魔結晶の鉱床と涼しそうに咲く薔薇の花だった。
「青い花なのか。アナルローズは」
「ええ。世界でも青い花というのはアナルローズだけだと言われています」
ディルはどこか誇らしげだ。
「昔、ある貴族がアナルローズに惚れ込んでダンジョンの外で育てられないかと研究させたそうです。結局、駄目だったそうですがね」
それほどの美しさだと言いたいのだろう。
「では、私はアナルローズを採取しますね」
そう言ってディルはスキルでアナルローズを氷漬けにし始めた。氷の彫刻で作られたような薔薇は美しさを増す。
「そうしないと薬効がなくなるのか?」
「ええ。その通りです。アナルローズは非常に繊細な花なので」
ディルは黙々とアナルローズを採取し、俺は俺で魔結晶を壁からえぐりとる。やはり一番乗りというのは素晴らしい。上質な魔結晶が簡単に採れてそろそろリュックも満杯だ。
「……おかしい」
「どうした?」
「この振動、感じませんか?」
ディルがサッと地面に伏して耳を当てる。その顔は険しい。
「急ぎましょう!!」
バッと起き上がったディルが走り始める。何があったのか分からないが、その表情からして深刻だ。リュックを背負い、慌てて後を追う。
「ヤツが来る前に脱出しないと!!」
振り返りながらディルはそう叫んだ。……ヤツ? 何のことだ? ここはダンジョンの中だぞ。冒険者ぐらいしかやって来ないだろう?
「あわわわ、どんどん振動が激しくなってます! かなり近いですよ!!」
「何が来るんだ?」
「ドリルワームですよ!!」
ドリルワーム? 初耳だ。
「ドリルワームは
「そいつが来たら出られなくなるのか!?」
「その通りです! 急がないと!!」
ディルは驚くほどの速度でダンジョンを駆け抜ける。スキルを使っているのか並んで走るのが精一杯だ。
「見えてきました!!」
薄らと見える光。それはガバガバの肛門から差し込む希望。なんとか間に合ったらしい。さあ──
ガガガガガッ!!
──光は閉ざされた。凄まじい振動がダンジョンを揺らす。回転する凶悪な先端が遠慮なく入ってくる。
「よけろ!!」
力なく立ちすくむディルを抱えて後退する。
「……もう駄目です……もう駄目です。ワシは孫を救えない」
「諦めるな!!」
「……しかし」
「俺をなめるなよ。最果ての村ではこんな時、笑うんだ」
腰の抜けたディルを投げ出し、俺は構えた。
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