第11話 オークダンジョン

 桃色の壁はゴブリンダンジョンに似ている気がした。どのダンジョンも入ってすぐは同じようなものなのかもしれない。


 少し進むと笛の音色は聞こえなくなり、ダンジョンの入り口──肛門──はキュッ! っと閉まって暗くなった。俺は慌てて灯りの魔道具を出して辺りを照らす。


 ゴブリンダンジョンはブジーと一緒で賑やかだったが、今は自分の足音しか聞こえない。ただ、何の気配もないかというとそんなことはない。もう少し行くと出会す筈だ。傍若無人に振る舞う、食欲と性欲のモンスター、オーク──。



「ブイッ!」


 早速のお出ましだ。オークはゴブリンとは違って糞を投げてくるようなことはしない。その分、殺意は高く久し振りの感覚に背筋が自然と伸びる。


 ブンッ!


 何かの骨で作った斧が振り回されて空を斬る。一介のモンスターに武術なんてものはない。ただその身体能力に任せて嵐のように斧を回転させる。オークには嗜虐的な表情が浮かんでいた。


 ただ、いつまでも付き合うつもりはない。こちらも血が疼いてきた。派手にいかせてもらおう。


「秘拳・契約アウトオブ・時間外のコントラクト・電話攻撃バスターコール


 一気に間合いを詰め、挟むようにオークの両耳を手で塞ぐ。一瞬間があった後、穴という穴から一気に血が噴き出し、オークは絶命した。


「ちょっとやり過ぎたか」


 俺の独り言に応える者はいない。ダンジョンの壁──腸壁──がタイミングよく動いたが、関係ないだろう。


 一応、ナイフでオークの体を抉るが、出てきたのはやはり小さな魔結晶。こんなのじゃ幾らにもならない。早く進んで魔結晶の採れる場所を探さなくては。



#



 奥へと進み、壁の色が変わってきた頃だった。今まで感じたことのなかった振動が伝わってくる。これは単体ではない。何体ものオークが慌ただしく走るような気配がある。


 このまま行けば十字路という辺り。構えて息を整えているとどうも様子がおかしい。これは、誰かがオークの集団に追いかけられて──。


 いやっ!


 女の声だ! つまり、女の冒険者がオークの集団に追いかけられているということか?


 足音はどんどん近くなり、その振動でダンジョンがたわむ。ダンジョンにいることを忘れ、船旅のことを思い出させるようなうねりだ。


「いやああぁぁ!」


 俺の目の前を声を上げながら女が通り過ぎた。灯りの魔道具が照らしたその髪は赤い。あれは、魔道具屋にいた痴女? そしてその後を何体ものオークが連なって追う。あの女、ダンジョンでモンスタートレインを作ってやがる! このままでは陵辱されて死ぬぞ!


 俺は舌打ちをしながら後を追った。

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