第10話 音色
深夜の内からラムズヘルムを出発し、
あれが、オークダンジョンか。ゴブリンダンジョンより明らかにでかい。まぁ、当然か。普通のオークだってゴブリンの倍以上ある。ダンジョンだって然りだ。
朝露で濡れた雑草がブーツに絡む。まるで俺がオークダンジョンに挑むのを止めるかのように。
オークと一対一で戦って無傷で帰ってこれたら冒険者としては一人前と言われるらしい。そんなオークが山ほど出てくるのがオークダンジョン。冒険者として新米の俺が挑むのは普通に考えれば無謀だろう。
草を掻き分ける音に混じって何か聞こえる。それはだんだんと大きくなり、笛の音色になった。誰かがオークダンジョンの近くで笛を吹いているらしい。知らない曲だが、つい鼻歌で真似したくなるメロディー。いつの間にか足取りは軽くなった。
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ちょうど夜が明けて日が昇り始めた頃、俺はオークダンジョンに着いた。股を遡って尻に登る。そこには横笛を吹く童がいた。男か女かよく分からない見た目の子供は、俺を認めると笛を吹くのをやめた。
「其方は冒険者か?」
子供らしからぬ口調に意表を突かれて言葉が出ない。
「冒険者かと聞いておる」
「……ああ。冒険者だ。オークダンジョンに潜りに来た」
「やはりそうか。ならば一曲」
そう言って童は笛を口元に当て、踊るように演奏を始めた。遠くから聞こえていた音色とは違い、何かを鼓舞するように力強い。不思議と力が湧き上がる。そして異変が起きた。
肛門が歌っている!
しかし、これは間違いなく現実。開いた肛門からはダンジョン特有の悪臭が漂う。慌てて香草で燻した布切れを顔に巻いた。
この童はほぐし屋だったのか? 金の話はなかったが……。ほぐし屋には色んなタイプがいるとは聞いていたが、こんな奴までいるとは思わなかった。なんとも奥深い。
尋ねるような視線を送ると、童は笛を吐きながらゆっくり頷いた。どうやら、行ってよいらしい。後払いってことか? まぁ、いい。たっぷり魔結晶を取ってくれば問題ない。
俺は機嫌良くパカパカと口を開けるダンジョンの入り口に飛び込んだ。
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