第4話 魔結晶
「あった! 魔結晶だ!!」
ブジーが壁に魔結晶を見つけて走り出した。現金なものだが、気持ちはよく分かる。俺だって別の魔結晶を見つけて駆け出してしまっていた。
ダンジョン──超巨大生物の肛門の向こう側──は想像よりも遥かに複雑な構造をしていた。普通の生き物は肛門から口までは一本道だろう。しかしダンジョンは違う。入ってしばらくすると幾多に枝分かれしていた。これだけの巨体を動かすのだ。心臓から何から幾つもあるのだろう。腸だって一筆書きではない。
ガッ! っとナイフを立てて壁から魔結晶を抉る。掘り出した魔結晶を灯りにかざすとキラキラと光を増幅させた。ふむ。普通の魔結晶か。いきなり当たりを引くなんて都合のいいことはなかった。
「ブジー、そっちはどうだ?」
「はずれ。普通の魔結晶だ。まぁ、これでも500ギムぐらいにはなるだろう」
そう言ってブジーは小指の先ぐらいの魔結晶を腰につけた袋にしまった。
「そういえばもう臭いは平気なのか?」
鼻と口を覆うこともなく、ブジーは普通に呼吸をしている。えずく様子もない。
「ああ。この辺りは大分臭いが薄い。壁の色がちょっと変わってきたあたりから平気になった」
「本当か?」
「ああ。その布切れを外してみろ。大丈夫だから」
物は試しだ。覚悟を決めて香草で燻した布をずらして鼻と口を露出する。
「おええぇぇぇ!!」
ブジーの野郎! 騙しやがったな。めちゃくちゃ臭いじゃないか!!
「ははははっ! 騙されたなベン!!」
「クソ野郎! なんでお前は平気なんだよ!?」
「慣れだ、慣れ!! 今ならここでメシだって食えるぞ!!」
そのデカイ身体を偉そうに反らし、ブジーは大笑いしている。こいつ、一体どんな適応力をしてやがる。こんな悪臭の中でメシを食うなんて正気の沙汰じゃない。
「覚えてろよ。絶対に一杯食わしてやるからな」
「ははははっ! 俺様を騙すなんて無理な──」
ヒュン!
大きく開けたブジーの口に茶色い何かが飛び込んできた。それは連続し、顔全体が茶色の泥のような物で覆い尽くされる。
「ギャギャッ!!」
出やがった! 深緑の雑魚モンスター、ゴブリンだ! 手に持った茶色い泥のようなものをブジーに投げつけて笑っている。その泥の正体は不明、
「ブジー、大丈夫か?」
「……」
ブジーは無言で顔についた茶色いものを拭い、何度も唾を吐き出した後に水筒を取り出して口を濯いだ。
「ギャギャギャギャッ!!」
その様子を見てゴブリンが腹を抱えて笑う。もう弾切れのようで茶色い泥は飛んでこない。
「許さん、許さんぞ!!」
剣帯から抜いた剣を構え、ブジーはゴブリンに向かって走り出した。
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