睡蓮

伏見 明

これさえ数奇な出会いというものだろうか。

この学校に入学したのも、隣の席の友達に出会ったのも、担任の先生も、雨が嫌いな彼に出会ったのも。




紗日を横目に硬直していた。

今ではこれが最善だと思ったからだ。


閑静な教室はそれを許容しているのか、ひぐらしの声しか聞こえない。

普段気にもしない椅子のしまい方でクラスメートの人間性やなんかを考えて気を紛らわしてみた。


それでもじとりと湿った空気は不快感をより明確にさせた。






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美希には夢があった。


彼女は子供の頃から絵を描くのが好きだった。


ゆくゆくはイギリスの名門、RCAに留学をして海外の芸術と戯れ、好きな事をひたすらに学びたい。

自分が描きたい絵だけを描いて、イギリスはロンドンにて個展を開く。

そこに来るのは老若男女問わず。

貧乏金持ち問わず。

誰もが美希の絵を見に、誰もが心を癒されに美希の絵に還る。

そんな絵を描きたかった。


絵は素晴らしい。


初めて絵を志した時に見たのはクロード・モネの「睡蓮」

見ただけで水面に小石を投げ入れたような音や、風でそよぐ木々、葉同士が擦れる音まで聞こえてきた。

油の匂いのはずが、まるで森の中にいる様な清々しい空気が伝わってくる。

視覚だけではない、絵はあらゆる感覚に語りかけてくる。


そしてその感じるものは人それぞれであって、

各々今まで行った事がある場所と絵をリンクさせ

て、記憶の中から匂いや音や、その時の感情を蘇らせる。


絵を見て泣けるだろうか。


私は去年の秋口、同じくモネの「崖の上の散歩」という作品を見た時に泣いてしまった。

いつどこで見たのかすらあまり覚えていないが、確か上野あたりで美術展が開かれていたのだろう、

駅にその絵が大々的に貼り付けられていた。


延々に広がる大海原、ザブン、ザブンと聞こえて来る。

大海原を仰ぐ二人の後ろ姿はどこか寂しそうに、そよ風に揺られている。


その風景が、その昔父と母と3人で旅行に行った時に酷似していた、のかもしれない。

詳細な所はあまり覚えていないけど「楽しかった」「また行きたい」と言う漠然とした感情だけが、頭に張り付いて今まで生きてきたらしい。




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