第4話 お忍び貴族は下水道と魔法石より団子です その4

「これは白い野菜煮ですか?この白さはどうやって?」


「オリビアさん、作り方は覚えたんでしょうね」


「・・・すいません、お嬢様、その、それどころでは無くて・・・」


「すごい、美味しいです、優しいスープに塩味と野菜の甘味が・・・」


夕食は野菜のみのホワイトシチューと焼いた干し肉それとパンである、


「ちょっと季節とは違うんだけど、何か作りたくなっちゃって」


ソフィアは賛辞の言葉にやや照れている様子である、


「あれかあの小麦粉の惨状から連想されたのじゃな」


「うーーー、もう言わないでー」


ミナは口元をシチューでベタベタにしながら抗議の声を上げた、


「ん、」


口内に大量の具を詰め込んだままジャネットは空いた皿をソフィアに差し出す、


「はいはい、シチューはまだまだあるからねぇ、ゆっくり食べましょうねぇ」


ソフィアはシチューを注いで手渡した、


「うん、美味しいです、とっても」


ジャネットはゴクンと喉を鳴らすとそう感想を告げて再びガツガツと食を進めた、


「ジャネットさん、少しはこう優雅に・・・」


エレインはあからさまに眉根を寄せる、ミナはジャネットに負けじと勢いよくガッついていった、


「ジャネットさん、ミナの教育上あまり良く無いですよ」


オリビアの意見に流石のジャネットもその手を止めて、口中に放り込んだ分を嚥下して右手の袖口で口を拭った、


「・・・確かに、ごめん」


やっと落ち着きを取り戻したようである、


「それも、はしたないですわよ」


「・・・どれ?」


「袖で口を拭わない、・・・そうですわね、今度からナプキンを用意致しましょうか、あまりにも粗雑に過ぎます」


いかがですかとエレインはソフィアに問う、


「うーん、予算があれば・・・・って、要求すればたぶん通るわね、ゴミの件もあるし」


ゴミの中から発見された貴重品の寄付の事である、


「となれば、わたくし主導で動いても宜しくてよ、夕食時のマナー講習という事でどうかしら?」


エレインはふふんと口の端を吊り上げた、


「お嬢様、それは大変有意義かつ実用性のある発案かと」


オリビアも乗り気である、


「私としては否定する事はできないわ、お任せします、勿論ミナにも教えてくれるんでしょ?」


「勿論ですわ、立派な淑女にして差し上げてよ」


エレインは嬉しそうにミナを見詰め、ミナはキョトンとエレインを見詰め返すと口の周りをベタベタに汚しながらニヘラと笑った。




嵐のように夕食は進み皆が満足した所でオリビアが茶を点てる、


「そういえば、昨日の件どうしたもんかしら」


ジャネットが腹を摩りながら天を仰ぐ、


「どうしたものって?」


「いや、誰にも言うなってやつ?、家族は勿論、学校の人も駄目なんでしょ、うーん、そう言われると余計・・・なんというの?口が滑る?」


「あぁーそれ私も分かります・・・・でも、話す相手が寮の人しかいないんですけど・・・」


ケイスはジャネットの言に同意しつつ、語尾は寂しげにちいさくなった、


「気にしないで忘れる事ですわ、わざわざ自分から会話の議題に上げでもしなければそんな話題にはならないでしょう」


エレインはまったくもって正論を告げる、都市の地下遺跡と新発見の魔法石の話題等普通の生活では話題にもならない、


「そうだけどさー、なんというかこう、あの下水道の調査、楽しかったんだよぉー、分かるだろーエレインさんよー」


「そうねぇ、楽しかったといえばそうだけど、血を見る事も無かったし、肩透かしといえばそうだったのよねぇ」


「調査隊の方ってどうだったんですか、そういえば詳しく聞いてないです」


ケイスが珍しくも乗り気で質問する、


「ふふん、私とエレインさんが先頭を務めてね、こう出てくる大鼠にオオコウモリ、果てはゴブリンの集団を切っては投げて燃やしては粉砕し、ドラゴンのブレスを避けつつ私のブロードソードが・・・」


ジャネットは御機嫌で椅子の上に片足を上げて大きく両手を振り回しつつ見得を切る、


「そんな事が一切無くて、平和なもんだったわよ、所々足元が危ない感じだったけど・・・どうかしら、整備すれば面白い施設になるんじゃないかなと思いますが、私達が見た範囲内では特に面白いものは、件の魔法石が綺麗な事くらいでしたし、ストラウク先生みたいな遺跡好きには堪らないものではあるでしょうけどねぇ」


「うん、狭くて息苦しくて涼しくて、後埃っぽくて臭くて、それと暗かった、虫が一杯、あとわぁ、歩き難い・・・エレイン様・・・ノリが悪い」


ジャネットはエレインの冷静な言動に消沈したのかテーブルに顔を載せてボソボソと感想を付け足した、


「そりゃそうよ、安全だから調査したんじゃない」


寮生達の視線がソフィアに集まる、


「・・・安全なの知っていたのですか?」


「無論じゃ、ソフィアもユーリも一流の冒険者で教師で大人じゃぞ、それなりの責任を弁えておるわ」


唐突にレインがそう言うと、


「ミナがおねむじゃ、儂も寝るぞ」


半寝ぼけのミナを優しく起こすと”ではな”といって宿舎へ帰る、


「むー、レイン待ってー、ソフィァお休みー」


「はい、お休みなさい、トイレと歯磨きしっかりね」


曖昧な返事をしつつミナも宿舎へ戻る、


「まぁ、私はともかくユーリは一端の人間よ、そう見えないかもだし、若いからね威厳はないけど、そのユーリの言う事は素直に聞いておいたほうが良いわ、特にこの件については、ジャネットさん特に貴女は気を付けて、後はケイスさんも、人との係りが少なかったから調子に乗っちゃうこともあるだろうから・・・そうねぇ・・・ユーリがやると言った事は出来る事だから、彼女脅しと嘘が苦手なのよね昔から」


そう言ってソフィアはとても優雅に笑顔を見せるがその言葉には多分に警告が含まれていた、


「分かりました、寮母さん」


ジャネットは肝を冷やしたのか真面目な調子でそう答え、ケイスもまたコクコクと沈黙したまま何度も頷いた、


「はい、じゃ食器を厨房へ今日はもう休みましょう」


ソフィアの音頭で夕食とささやかな茶会は締められた。

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