第4話 お忍び貴族は下水道と魔法石より団子です その2

「ソフィ、寝るーーー」


「はいはい、歯磨いた?レインお願いねぇ」


「任されたのじゃー」


ソフィアとオリビアが夕食後洗い物を終え食堂に入ると入れ替わるようにミナとレインは寮母宿舎に帰った、食堂には生徒3人とユーリが揃ってお茶に手を伸ばしている、彼等にとっても既に就寝時間であったが重要な相談であるとのユーリの言によって眠気を食い縛っている様子である、


「オリビアさんは?、あっ来たわね座って座って、さて、勿論だけど地下遺跡の件ね、まずはあれが前帝国時代の下水道だという事がほぼ確定したわ」


ユーリによってストラウクの水道知識が要点のみ絞って伝えられる、


「次にこのキラキラね」


懐から布に包まれた無色の水晶を取り出す、


「こっちは私の専門で、これは大発見よ」


水晶を一つ取り出すとテーブルの中央に灯された蝋燭の炎に近付ける、暫し集中し魔法石を炎で焙ると空いた茶のカップに放り込んだ、


「こうすると見てみて、面白いでしょ」


カップの中では水晶が炎を纏って振動している、


「これは、あの魔法石と同じ効果?」


ソフィアが訊ねる、


「そうね、近いと思うわ、厳密に言えばその効果原理は別なのではないかと思っているんだけど、見た目と出来る事は同じと言っても良いかもね」


「すいません、魔法石ってなんです」


ケイスがソロソロと手を上げて質問する、


「そうか、そうよね、えぇと魔法石っていうのは、今から2年?2年半前かしら第五次とよばれた大戦が終ったのは皆分かるわね?その大戦で魔軍側で使用されていたのが魔法石と呼ばれる水晶だったの、えぇと実物がこれね」


ユーリは懐から別の包みを取り出すと開いて見せる、そこには大きさは疎らであるが先程の水晶と形状はよく似ている深紅に染まった石が数個並んでいた、


「これを使用すると」


ユーリは最も小さい石を摘まみ今度は特別な仕草は無しに別のカップに放り込んだ、途端、燃え上がる炎がカップの中に発生し、周囲を一気に照らし出すと、やがて落ち着き消えた、


「どう、面白いでしょう」


ユーリはにこにこと微笑むが生徒はさすがに驚きを隠せない、


「すいません、これって?」


オリビアがソフィアに問う、


「うん、そう、コンロ便利だったでしょう、あれ」


ソフィアは当然のようにそう答えた、オリビアは納得したように頷く、


「それで何だっけ、魔法石についてはこういう物なの、で、私はこれそのものの研究と実用化を模索していて、ソフィアはそうね、発見者?で実用化については私の先輩ね」


ユーリはニヤリと笑う、


「しかし、随分、なんというか炎に違いがあるといいますか、同じ効果とは厳密に言えないような・・・」


エレインが言葉を濁す、


「そうね、でも・・・オリビアさん、コンロを使ってみたんでしょ」


「はい、使いました、お陰で今日の夕食は焦げる事も無く」


「うん、炎の具合はどうでした?」


「具合ですか、・・・丁度良かったです・・・」


「オリビアさん、ソフィアの真似をしないで良いですよ、感覚で答えず具体的に答えて欲しいのですが」


ユーリの言葉にソフィアはキッとユーリを睨み、オリビアはアタフタと言葉を探して、


「・・・でも丁度良いとしか・・・」


「そうよねぇ、丁度良いわよねぇ、まったく料理もしない人に何も言われたくないわよねぇ」


ソフィアは意地悪気にオリビアに助け船を出す、


「まぁいいわ、その丁度良いのが先の無色の方の炎の大きさです、そういうもんだと今は理解しておいて、要するに出力を加減できるのですね、こちらの深紅の魔法石は。無色の方も今後の研究次第で可能かと思いますが、それはこれから実に愉しみ・・・」


ユーリは口元に怪しげな笑みを浮かべる、


「うちの学校の先生ってこんなのばっかだよね」


ジャネットがあくびを噛み殺してケイスに同意を求める、


「研究者も兼ねてますからねこんなもんでしょうね」


ケイスは実に冷静にそう評した、ゴホンとユーリは咳払いをすると、


「この魔法石、魔軍では武器として使用していました、その利用方法は様々でね、私達も苦労したものよ」


「エッ、先生従軍してたの?」


ジャネットは目を輝かせる、


「うん、まぁ、従軍というか当時は冒険者としてね参加してたわ、端っこの方よ大したことはしてないわ、それでね・・・」


と話題を戻しつつユーリはソフィアを盗み見る、実に冷たい視線がソフィアから放たれていた、あれはつまり自分の事には触れるなという厳命であろう。


「魔軍が使用していたのが深紅の魔法石で、これはさっき見せたように炎、厳密に言えば熱を発生させる事ができます、他の効果がある魔法石はあるかもしれないけど不明でした、理論的には六大属性と呼ばれている火水土風光闇の各属性の魔法石があって然るべきだと考えられているんだけれど、私達の手にした魔法石は魔軍の倉庫と各種兵器から回収した深紅の物だけなのね、これはかなり大量にありまして現クロノス王太子の管理下にあります」


「クロノス王太子ってあの英雄クロノス様?」


「そうですよ」


へぇーっと生徒達は感嘆の合唱を奏でる、


「お会いしたことあるんですの?」


「誰とです?」


「その、クロノス様と」


「えぇ、まぁ、そうね、魔法石の研究を許可して頂く程度には知己ではあるかしら」


ユーリは言葉を探しつつ僅かに誤魔化すも、エレインを中心にして心底羨ましそうな溜息が洩れた、


「知己ですって」


「はい、先生、あのお会いできるときに同席したいです」


「私も、私もいいですか」


「お嬢様が一緒なら私も同席できますでしょうか?」


「わたくしでもお会いした事は無いのですよ、もっとも、クロノス様が名を成した頃にはわたくし此処に居ましたけど」


はいはいとかしましい声をユーリは治めた、


「簡単にはお会いできません、王太子については以上」


「いいじゃない、王太子もこんなに素敵なお嬢様たちに好意を持たれて嬉しいんじゃないの?」


ソフィアが珍しくも茶化してくる、


「えーい、あんたまでふざけるんじゃないの、続けるわよ、それで、えぇとなんだっけ、魔法石についてね、つまりこの無色の魔法石これは魔法石研究において最重要な発見と言えます、そこで先程の下水道についての問題とこの無色の魔法石に関する問題この二つについては他言を厳禁と致します、学校関係者は勿論、家族、上司部下、その他近隣の人々全てです」


ユーリは語気を強くし一同を睥睨する、


「すいません、時期はいつまでになりますか?」


ケイスがおずおずと訊ねる、


「そうね、それを判断する事は私には出来ません、明後日、この場に学園長と事務長、それとストラウク先生が来て現地を確認後対応を協議する事となりました、恐らくですがその後領主との打合せの上対応が決定されると思われます」


「おおごとねぇー」


「他人事のように言うんじゃないの、原因の殆どはアンタよ」


ソフィアの気の抜けた言葉にユーリは癇癪を爆発させた、ソフィアはそうかしらとすっとぼける、


「そのうち誰かが見つけてたわよ、それに調査については貴女もノリノリだったじゃない」


「そりゃそうだけど、ここまで話が大きくなるとは思わなかったし、面倒は面倒なのよ」


「うーん、確かに面倒よねぇ、スイランズ君呼んでおく?、話、早くならない?」


「スイランズ?あぁースイランズ君ねぇ」


そうねぇとユーリは落ち着きを取り戻す、


「一声掛けておく?無色の魔法石の件言い添えれば無下にはされないと思うわよ」


「できる?」


「まかしておいて」


ユーリは無言で相槌を打ちソフィアはそれを了承と受け取った。


「それでは、今日はこんなもんかな、夜も遅いし、皆さんはくれぐれも内密にね、もしこの問題が他言された場合、元を必ず探し出します、かならずね、さらに犯人については学園追放の上、反逆罪の適用もありうるから、真面目な話ですからね、特に生徒さん達、家族にも罪科が及びますよ、貴女達個人の生き死に等軽いと感じる程の罪を負いますからね」


一同は軽い口調で酷く高圧的な内容を告げるユーリの言葉を真に理解したのか、場は沈黙し浮かれた空気は瞬時に冷たく重くなった。

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