第3話 街の地下には・・・ その3

夜会の翌日、朝食の始末と洗濯を終えたソフィアはミナとレインを連れ市場へ赴き作物の種苗を仕入れてきた、やや季節のずれた作物もあるがそういうものほど安価に手に入り、ソフィアは出来の良し悪しは二の次で良いか、と植える前から半分諦めていたが、ミナは一つ一つの種苗に歓喜し、レインもまた自身が植えるといった葡萄の苗と種類の選別に真剣に取り組んでおり、ソフィアはこれはこれでと微笑ましく仕入れを済ませた。


午後になるとソフィアはミナとレインに農作業用のエプロンと日差し除けの藁で編んだ帽子を被せ畑仕事に取り掛かった、畑の区画を大雑把にあぁでも無いこうでもないと決めていく、結果予定していた土地の半分を葡萄の木が占め、残り半分をミナが畝毎に異なった作物を作る事で落ち着いた。


「それでは、我の出番だの」


レインは目安として撃ち込まれた杭を前にして大きく深呼吸をする、


「待ってレイン何するの?」


「?我の出番じゃよ、まぁ、悪い様にはせんよ」


レインはそう言って手ごろな木の枝を手にした、


「知っているかソフィ、葡萄は根が深い植物じゃ、故に畑もまたより深くまで手を入れねばならん」


「はいはい、やり過ぎないでよ・・・、って危険そう?」


ソフィアはこれは止められないなと一瞬で理解すると、周囲の人目を確認しつつレインに確認する、


「うむ、何が出るかわからんの、少し離れておれや」


「わかったわ、ミナこっち来て危ないから、一応結界張るわよちょっと待って」


自分が担当すると決めた区画ではしゃいでいたミナを捕まえると、ソフィアは庭の片隅に避難しつつ寮の内庭を対象にした防御結界を張り巡らせる、


「レイン、良いわよー、防御結界も張ったからねぇ」


「心配し過ぎじゃよソフィア、では、しかと見ておけよ」


レインから距離を取った二人に不適な笑みを見せつけると、手にした木の枝でミナが担当する区画を含めた予定区画の四隅に魔法陣にも似た図柄を書き込んだ、


「では始めるぞ、ほいさぁ」


何とも締まりのない掛け声で手にした枝で天を突くレイン、次の瞬間杭で囲まれた地がかすかに波打ち、やがて大きく振動しつつ幾つもの岩塊が地表に現れいでた、


「うむ、では次じゃ」


今度は手にした枝で地を突くレイン、現れた岩塊が一瞬の内に黒色の土塊に変化し崩れ落ちる、


「さらに、踊れよ踊れよ踊れぃ」


レインは楽し気に手にした枝を再び空中にかざすとその先端で巨大な8の字を何度か描く、その動きに合わせるように杭で囲まれた区画内の土砂が攪拌されていく、巨大な生物が蠢めき粟立つように土砂は流動しやがてレインの指揮に合わせ収束していった。


区画内の土は黒々として輝きすら放ち元の土よりもソフィアの膝程度まで盛り上がっている、


「よし、こんなもんじゃな」


レインの作業が終了したらしい、レインは手にした枝を地面に突きさしふふんと胸を張ると、もうよいぞと二人を手招いた、


「すごーい、レイン、すごーい」


ミナはソフィアの手を離れ一目散にレインに駆け寄る、


「どうじゃ、少しは見直したかの」


「うん、何かすごかった、でも、何をしたの?」


ミナは心底不思議そうにそう言った、ソフィアも疑問符の浮かんだ顔をしている、


「なんじゃ、ミナはしょうがないとしてもソフィアも理解しとらんのか」


レインは不満そうに肩を落とし溜息をつくと、


「土壌改良じゃ、葡萄の根が到達するより若干深い所までな、栄養があって柔らかく水捌けの良い土に作り変えたのじゃ、土に触ってみよ、暖かく柔らかい上に香りも良いぞ」


レインは改良した土を一すくい手にすると二人の眼前に突き付けた、


「へー、わぁホントだ柔らかい、うん、何かフワフワしてる」


レインは素直にその土を受け取り無邪気に弄んだ、


「確かに、柔らかくなってる、色も良いわ、香りはどうだろう、ちょっと判んないわ」


ソフィアは改良した地に蹲り両手で土を掬いあげるとシゲシゲと観察する、


「そこじゃ、香りが一番に大事なのじゃが・・・人の子には理解されんかの」


「すいませんね、人の子で、森の民とか植物人とかだと理解できるものなのかしら?」


「魔族の森の民には好評じゃったぞ、あいつらは実に気の良い連中じゃったがの」


レインはやや遠い目で天を仰いだ、その顔を横目で見ながらソフィアは土を団子にして手の中で浮かせている、


「この独特の魔力はどう管理するの?ほっといて良いもの?」


「・・・うむ、ほっといて良いぞ、害は無い」


「随分簡単にいうけど・・・、まぁ信じるわ」


ソフィアは土団子を畑に返すと両手を払う、


「ふふん、まぁ見ておれやがて良い虫が集まるからな、さすれば土の管理そのものは虫に任せて、我らは水やりと草取りじゃな、ミナに任せても最上級の作物が採れようぞ、さらにミナの菜園の方には囲いがあっても良いかもな、さすれば一年を通して好きな作物が取れ放題じゃ」


「囲い?取れ放題?凄いわね、でも・・・」


ソフィアはレインの言に魅力を感じつつも眉根を寄せる、


「分かっておる、遣り過ぎは禁物じゃろう、タロウの忠告には従うわい」


レインはさてととミナに向き直ると、


「では畝を作るか、それから植え付けじゃ、ここからは手作業じゃぞミナ続くのじゃ」


寮の外壁に立てかけていた農具を手にすると三人は畝作りに励んだ、柔らかい土壌に足を取られ転びそうになる度に嬌声が上がり、あまりに危ないとソフィアの怒声が響くが、畝作りは順調どころかあっという間に終了してしまった。


「こんなにあっさり出来るなんて・・・」


流石のソフィアも絶句する、彼女の胸勘定では畝作りまでの作業は明日の午後迄に終れば良いかなと思っていたのである、


「我の本領を知ったかの?」


「はいはい、ありがたき幸せですレイン様」


ソフィアはやや呆れたようにそう言って、


「一服しましょうか、それから植え付けね」


おうそうじゃのとレインは快く応じる、3人は農具を纏めると井戸で手を洗い土を落すと勝手口から寮へ入った。

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