第43話 湖の悲劇

 この湖には、悲しい伝説が眠っている。

 姫と勇者と災悪と、悲しい恋の伝説。

『王国の姫が勇者に恋をした。魔王はそれに目をつけ、姫に呪いをかけた。勇者との旅の途中、呪いが姫を災悪に変えた。街を滅ぼし、勇者を圧倒する災悪。右腕を犠牲にして災悪を封じた勇者。姫の意識は戻るが、災悪が二度と復活しないように、封印されたまま、湖に沈めてくれと頼む。』そんな悲しい伝説のある湖。


「今でも湖底に眠っているの?」

「昔の伝説だから、どこまで真実か解らないわ」

 湖のほとりで話すカナとセイン。

 のんびりしていられたのは、そこまで。

「えええええええええーーーっ?!!!」

 遥か上空から落下してくるアイ。

 このままじゃ、

 ……悲しい伝説がもう1つ増えちゃう?!

 

『なんせ奴は、五聖獣1の問題児だ。』

 炎虎が言う。

「貴方の時も聞きました、それ」とは言えない。

 で、やって来た湖。

 最北の街から割と近い、東の外れの湖。逮捕される前に目指していた場所。

 来てみると、水龍の湖ほどではないが、広い。

 結界が張ってある中へ、水龍の力で簡単に入ると、すでに聖獣が待っていた。

 大きな隼。

 人が数人乗れそうな、背中の高さは象と同じくらい。翼は閉じているが、広げたらまるで、超音速戦闘機!

 名前は[嵐翼](らんよく)。

 平成のアイドルとは似ても似つかないが、名前は[嵐翼]だ。

 態度も、6人分以上の存在感だった。

『退屈してたからな。選び方はワシが決めるぞ』

 隼ではなく、鷲だったかな?

 すでに決まっているセインとカナが外され、残りの女性4名が背中に乗せられた。

 ここまでは、セインもカナも、内心羨ましがった。

 いざ、飛び立つ時に、

『お前も遠慮するな。』

 自分から候補を外れて下がっていたアイを、足先で掴んで行った。

 大きな体に似合わぬ繊細な動きで、アイの肉体を傷付けずに、衣類だけを爪で引っ掛けている。

 でも、それって、

 不安定で、メチャクチャ怖い!!

『サバイバルロデオを始めるぞ。』

 飛んでもないことを、飛びながら言った。

 牛の背中から落ちるだけでも、結構怖い。

 あっという間に急上昇!

 もうどれくらいの高さか解らない。誰も下を見れない……最初から下の彼以外は。

 絶句、そして顔面蒼白のアイ。

 きっと今なら、港区の電波塔の展望台が、安全地帯に感じるだろう。

「えええええええええーーーっ?!!!」

(えっ?今の?)

(アイさんの……声?)

 背中の4人には微かに聞こえた。

「アイさん、落ちたの?」

 はい。

 でも正確には、落とされた。

 そしてすぐに叫ばなかったから、声も小さく聞こえた。叫べなかった、かな?

 確認したいが、下を見れない4人。

「アイさん、大丈夫なの?」

『普通は助からんだろうな。』

 落ちてないよ……という答えが欲しかった。

 慌てて下を見ようとするが、自分たちも掴まるので必死だ。

『水龍が下におる、大丈夫だ……多分な。』

 一方、下では

『全く面倒事を!』

 水龍が仕方なさそうに動く。

 湖水を吹き上げ、水のクッションを作る。クジラの潮吹きのような巨大な噴水がアイを受け止めると、ゆっくりと降ろ

 あ、噴水消えた!

 バシャーン!!

 ……飛び込み台の一番上よりもっと高い所から落ちた。無防備な状態で。

 そして、湖面なのに大波。

 それに無理やり乗せられて湖岸に帰って来た。

 ボロボロになって……

「もうちょっと優しくできないの?!」

 ずぶ濡れのアイに駆け寄るセインとカナ。怪我は無さそうなのでホッとする。

『あと3人来るんだ。贅沢言うな』

 平然と、アイの具合を気にもしない水龍。

 でも助かった。

 フリーホールと、飛び込み、波乗り、3つのアトラクションを満喫したアイ……声も出ない。

 遥か上空で確認した嵐翼。

『大丈夫そうだ。では行くぞ!』

 背中に乗っているのが残り「1人」になるまで終わらない、耐久レースが始まった。

 ……アイが耐久テストに使われた後で。


『なんせ奴は、五聖獣1の問題児だ。』

 炎虎の時も、確か言われた。

 でもはっきりした。

 多分……全員問題児だ。


 第2の犠牲者はレイ。乗った順番から予想は出来た。シノ、ミコ、リアリア、そして最後尾がレイの順。

 アイの時より上空に上がる噴水、しっかりとしたクッションで受け止め、優しく湖面に降ろされると、穏やかな波で帰還。

 この後がとばっちりを受けると困るので、アイから文句は出なかったが、やればできる、というより、優しく受けるのは容易に見えた。

 ミコとリアリアが同時に落ちた。

『いかん!』

 水龍が飛んだ。

 迷わず飛んで、迷わず……ミコへ一直線。

 空中で拾い、背中に乗せて戻ってきた。

 ……リアリアは、多少荒くなったが、遠隔操作された水が受け止め、湖岸に流れ着くとすぐ立てた。

「何か、扱い全然違わない?!」

 リアリアがゴネているが、

 水龍の気持ちは何となく解る。

 それから、

(それを一番言いたいのは、貴方じゃない!)

 最初から下にいたセインとカナは思っていた。


 シノを乗せた嵐翼が戻ってきた。

 勝者とは思えないほどヘトヘトで、自力では下に降りられない有り様だ。

 3体目の聖獣との契約が完了した。

 それから、ついでの本題へと移る。

 カナが取り出したのは[召喚獣の杖]。レアハンターが持っていたやつだ。

 召喚、開始!

 翼幅2mの炎の鳥が現れる。

『何度も言わせるな!』

 前回同様、第一声から怒っている。

『オレ様は自分より弱……』

 そこで固まるファイアイーグル。

 目の前に、

『俺様を名乗るのは1000年早い!』

 同じく『俺様』、同じく全身炎、同じでないのは大きさと迫力。

『一人称を今すぐ変えろ!俺様は1人でいい』

『は、はい!ボ、ボクそうしますすすす!!』

 炎虎に睨まれ、あっという間にキャラ変更。

『ここは悲劇の伝説がある湖だそうだ。』

 直立しながら炎虎の話を聞いている。

『自分も悲劇になるか、仲間になるか、選ばせてやろう。』

 [ホウキちゃん]が仲間になった。

 もう、任務放棄することもないだろう。

「よろしくね、ホウキちゃん。」

『な、何故ホウキちゃんなのでしょう?ボク?』

 口調もすでに変わっている。

 まさか、職場ホウキちゃんとは説明できない。

「和名ではね、彗星をホウキ星って言うのよ。」

 ナイスフォロー、セインさん。

『彗星ですか』

 キラン!

 目に輝きが戻ったホウキちゃん。

 巨大魔獣相手に、どこまでやれるか?


 同じ属性でも格がある。

 例えば「熱い」もの。

 直射日光……汗をかく。長く浴びれば危険。

 熱湯……火傷するが、飲める温度もある。

 炎……燃え移る。温度は3ケタ以上。上限なし

 火属性の魔物……火山地帯に棲むモノなど色々だが、マグマで焼死するモノ、好んでマグマに入るモノなど様々だ。

 ホウキちゃんは、どのレベルかと言うと、

 炎を吸収して栄養源にできるレベル!

 これはかなりの上位種。

 今、水龍が、

 魔獣ダブロダラズの氷結を解いた。

 魔法や技を「解除」するのは、あまり力を使わない。それでも、それだけで水龍は引っ込んだ。

 ホウキちゃんの出番だ!

『シャーーウーーーッ!!』 

 魔獣が吠えた。

 待ってましたとばかりに、開いた口からホウキちゃんが飛び込んだ!

 操るカナ。後ろにセイン。その後ろにさらに4人。6人分のMPギリギリまで、魔獣の内部で暴れてもらう!

 そして外からは、

 火炎球を装着したXブレードのアイ!

 湖の結界で、炎虎がついでに作ってくれた火炎球。炎の無い場所で急造したものだが、それでも

 五聖獣の火炎球は、一味違う!

 苦しみ悶え、素早さのダウンしているダブロダラズに斬りかかる!

 こちらもMPギリギリまで、火炎球ブレードを何度も撃ち込む!

 さらに動きが鈍り、関節の隙間から煙が、そして外側も燃えだした。

 ホウキちゃんが戻って来た。

 燕サイズに縮んでいる。

「ご苦労様。」

 召喚獣の杖に戻った。

 中で回復するらしい。が、当分は使えない。

 アイの火炎球も、残り1個!

 だが……もう火事と呼べるくらい燃えている。そして、炎が全体を包み、

 煙となって、灰となった。

 一応警戒していたが……次は無さそうだ。

 勝利の喜び!

 リューゼクさんに、報告できる!


「ありがとう」

 満面の笑みのリューゼク。

 だが、どこか儚げだ。

 ガウン一枚でベッドの上に座ったまま。

 正装で迎えようとしたのを、副官と医師が止めた。

 寝室に通されたのはアイ一人。これは副官ルネハイトの判断。女性陣には華麗な彼のみ記憶して欲しいという気持ち。

 それでも、数日すれば普通に過ごせるらしい。

 ただし、余命は1ヶ月。

 次また会うことは、あるだろうか……?

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