第114話 最強の無能

「強い魔物となら、戦えると思う。」

 仲間に思いきり笑われた。

「あのダンジョンに入ろう。ボスだけは僕が倒すよ。」

「お前、取分0.1%な。」

 最低の設定にされた。

 僕は戦士。最強……とはほど遠い戦士。

 ちょっと盛った。最低……にほど近い戦士。この方が正しい。

 登録名は[ディーノ]。

 免許は持っていないが、頭文字がDなので、昔からゲームでは[ディー]。本名は代野。何かのゲームの時、同じギルドの人と名前が被り[ディーノ]に変えた。その後に読んだ、とある漫画キャラのディーノを好きになってから、以来ずっとディーノと名乗っている。ちなみに由来ネタは、有名なドラゴンの騎士の本名ではなく、マイナーな地獄の魔術師の方。あの散り際が良かった。

「で、いつ辞めるの?」

 今日は直球で言われた。

 魔物の群れと戦った直後、軽傷者数名のバトルの後、紅一点の修道女ジェイルさんが、大したケガでもない連中から回復依頼をされまくっている中で、リーダーから厳しく言われた。

「うちは、出入り自由だから。」

 暗に、辞めるよういつも言われてた。

 まあ、解らなくもない。今日も僕は無傷。戦闘に貢献できないから無傷。

 僕のレア特典は、多分なんだけど、

「強い敵には強い!」だ。

 試してないから多分なんだけど、試せないから信じて貰えないんだけど、そうだと思っている。

 ……ステータス見ても載って無いんだけど。

 で、

 辞めてきた。

 正直、あのパーティは強くない。最低に近い戦士の僕が言うのも何だが、攻略組に見えてエンジョイ組だ。チャレンジしない……戦ってない僕が言うのも変だが。

 [第六感?]これが僕のレア特典名。スキルなのか何なのか、説明も「?」しか書いてない。

 で、第六感的に感じることが、

「強い敵には勝てそう」と感じること。

 なのでどこかに、きっとどこかに、弱くても拾ってくれるパーティを探すため、辞めてきた。

 ……いないかな?

 ……しばらく1人かな?

「待って!」

 後ろから、呼び止められた。

①振り向いたら、人違い

②前方の人を呼んだ、僕の勘違い

③仲間希望者

 さあ、どれでしょう。

 正解は、きっと②です。

 振り向いた。

「私も辞めてきた。」

 ジェイルさん?……紅一点のジェイルさん?

 走って僕を追いかけて来た?!

「広場に募集探し、行きましょう。」

 正解は④番「同じ方向だから、途中まで一緒」でした。「お互い、いい仲間見つかるといいね」でも正解です。

 答え③現実は非情である。でも正解。

 広場への途中、繁華街を通る。

「あっ、」

 止まるジェイルさん。修道女なのにシスターの格好をしていない。白一色のくノ一衣装?初期装備のままだと聞いた。だから職業も、普通はシスターと表記されるのに[修道女]。普通に教会に入れるので、異教徒ではない。外見の違うシスター。街にシスター姿が増え過ぎない配慮?とか。

「どっちがリーダーになる?」

 えっ?あれれ?

「仮契約もまだだったね。」

 とジェイルさん。

「ねえ、早く。」

 動揺している僕に言う。どう見ても、リーダーシップは貴方です。

 本当に、答えは③だった。

「キャー!」

 悲鳴が聞こえた。次々聞こえた。

 声の方へ走る。

 街中に、魔物がいた。

『あーあ、やっちまったな。』

 嗤いながら魔物が言う。

 身長が2m半あると、もう人間の2倍の大きさに見える。人型、痩せ型、サラミのような皮膚をした魔物。バイクのヘルメットに逆三角の目を書いたような顔。触手のような鞭のような、長い腕を4本持つ魔物がいた。

 自警団の兵士たちと戦っている。

 いや、戦っていた。10数名の兵士、死者は少ないが、立てる者もいない。

『じっくりなぶり殺せば、負のオーラが多めに回収できるかな?』

 人間に化けてもっと長期間、街に潜伏して結界に慣れ、じっくりとたっぷりと[負のオーラ]を回収する。それが与えられた計画。

 慣れてきたら、街の有力者になりすませ。それが与えられた計画。

 そして、慣れてきた今日、さっき、市長を街中で見かけてしまった。気づかれずになり替われ、それを忘れていた。この魔物にとって、人間なんて飛んでる虫と同じ、警戒するのを忘れて魔物化した。

 市長が繁華街に行くのだ。護衛、警備の兵士が大勢いた。戦力的には虫だが、大騒ぎ、目立ってしまった。

『あーあ、やっちまったな。』

 口では言いつつ、なぶるのを楽しんでいる。人間の負の感情から生まれる[負のオーラ]。憎しみ、怒り、恐怖、不安、絶望……趣味と実益を兼ねて、今、回収している最中だ。

 だから、生かされている兵士。逃げ遅れた一般市民も、動くと攻撃されるので、逃げられない。

「誰か妻を、妻を助けてくれ!」

 叫んでいるのは市長だ。逃げ遅れた中に、妻がいるようだ。

「危険です!市長!」

 射程外にいる兵士は、並んで壁を作るのが精一杯、近づけない。目の前の、負傷した隊長さえも助けに行けない。

 射程に入った途端、鞭が飛ぶ。触手が来る。

 周囲には冒険者も多数いた。遠巻きに見ている者、とっとと逃げ出した者、誰も攻撃はしない、

 なぜなら、

『大魔王ヴァグディーナ様配下の五将軍、

 音速の[ゾッゾ]様だ!』

自ら名乗っている。半端な冒険者は近づけない。

 ゆっくりと、全員殺す気だ。それが解る。

 [負のオーラ]を集め、大魔王復活のために献上する中ボスだ。

「お、ん、そ…………く、だって?」

 ゾッゾに近づいて行く人間が1人、

『何だ?そのトロそうな喋りは?』

「お前の音速を表現したんだよ。トロそうな音速をな。」

 剣を抜いて近づくのはディーノだ。人格まで変わったような口調と、微塵も恐れていない表情。

 本当に、ディーノか?

『何だ?死にたいなら素直に言え。お前から殺してやる。』

 ディーノが射程に入った途端、

 触手が来た!ぶつかる音!

 飛ばされて、何かが地面に落ちた音、魔物の触手が1本斬り落とされた!

『何ぃ?!』

 驚く魔物。そしてもう1人、

「ありゃ?!」

 ディーノの剣も、根本から折られて、刀身が地面に落ちた。

 しかし、

 前に出るディーノ!柄だけの剣で、3本の触手を弾きながら詰める!

(本当に、強かった?!)

 驚いているジェイル。そして、

(本当に、強かったのか?!)

 驚いているディーノ自身。

 2mの間合いで、触手3本と剣無きディーノが打ち合いをする。いや、4本だ。短い触手を含めた4本を全て弾き返している。

「君、危険だ。下がっていなさい……」

 右腕の取れた隊長に注意されたのはジェイル。

「じっとして!繋ぎます!」

 剣を持ったままの右腕を拾って、出血部分を合わせ、回復魔法をかける。

『お前の弱点が解った。』

 嗤う、音速未満のゾッゾ。

 ディーノがいない方を攻撃した。身重の妊婦が立てないでいる!

 高速で回り込んで、弾いたディーノ。

 次は正反対にいた負傷兵、これも高速で盾になった。

 また別の場所、また違う場所、繰り返して、

「お前の弱点も解った。」

 笑い返すディーノ。

 さらに別の位置を攻撃したのを弾き、

「離れた場所へは、1本しか攻撃できない。」

 勝ち誇ったディーノ。

 怒りを表し、また反対側を攻撃するゾッゾ。高速で回り込んで弾いたディーノ……だったが、

 同時に来てた残りの触手を、モロにボディに食らってしまった。

『1本?んーな訳ねーだろ。』

 嗤う五将軍ゾッゾ。

『お前の弱点は、圧倒的な経験不足だ。』

 確かに、それは当たっている。

「もう腕はいい。」

 元通り使えるかは別だが、何とか繋がった隊長の腕、同じく重傷の右足の傷をジェイルが治そうとすると、

「ありがとう。でも、別の頼みを聞いてくれ。」

 隊長に言われた。

「……俺も解った。」

 起き上がったディーノ。

 ダメージは……無い?!

「素手でもお前とやり合える!」

 柄だけの剣を捨てた。

『ふざけやがって!』

 同時に来た触手を、空手技のように弾いた。

「丈夫な体だと教えてくれて、ありがとうよ。」

 間合いを詰めて、素手で打ち合う。時々触手を掴む余裕も見せたが、

(素手では倒せない……)

 気づいていた。反応は出来ても、決定力に欠ける。

「ディーノくん!」

 ジェイルに呼ばれて振り返るディーノ。

(バカめ!)

 全ての触手を後頭部に叩き込むゾッゾ!

 消えた?!

 いや、ディーノが変なモノと入れ替わった?!

 何か宙に浮いているのは、細切れになった、ゾッゾの触手の束?!

『グギャーーーッ!!』

 真っ二つになって、断末魔を上げた五将軍。

 煙となって消えるのを確認し、

「ありがとう。助かったよ、剣。」

 振り向いて、ジェイルにお礼を述べた。

「お礼は隊長さんに、」

 別の頼みを聞いてくれ……

 彼に俺の剣を渡してくれ!

 隊長の剣で、トドメを刺せた。

「お礼を言うのは、我々の方だ。」

 周囲から、歓声が上がった。


「その剣、気に入ったなら、使ってくれ。ちょっとした業物だ。」

 右手は繋がったが、今後の戦闘は無理だ。自分が持ってても宝の持ち腐れだと、隊長。

[スマッシュブレード]。速く振り抜くほどに威力を増す剣。ディーノにぴったりのような、

(それこそ、宝の持ち腐れのような……)

 複雑な心境で受け取った。

 報酬も貰った。それほど多い額では無かったので、遠慮なく貰った。

「君の装備を買おう。それから仲間も集めよう」

 この戦闘での1番の戦利品は、『自信』。

 声が明るい。いい雰囲気だ。

 そして、

「弟子にして下さい!」

 後ろから、声をかけられた。

 仲間も増えそうな予感?!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る