第1話 私……死んじゃうのかな?
それは、突然だった。
砂ぼこりを上げて地中から現れた巨大な怪物。SNSの「出会ったら危険!」ランキング1位にあったアイツ、サンドワームとすぐに解った。
やばい!ヤバ過ぎる!!
…地上に見えてる部分だけでも、多分、ガ○ダムよりデカい!
こちらのパーティは2人。先週知り合ったトモちゃんと私しかいない。
トモちゃんはランクBの[武闘家]。その辺のザコ魔物なら簡単に倒せる。
そして、最近は少なくなった街から街への移動だが、この街道は比較的安全と言われている道、2人でも十分可能な移動……そのはずだった。
職業も装備もステータスも、自分では選べない。こちらの[世界]に来た時に、すでに決まっている。当たり外れも差がある。まるで引き直しのできないガチャのよう。
さらに[レア特典]と呼ばれ、誰でも1つ、またはそれに関連するオマケ特典を与えられ、こちらは更にこの[世界]での今後に響く。
トモちゃんは武闘家B、力C、素早さB…武闘家の初期値としてはまあまあ。力がCなので、硬い敵が倒せない。
でも、彼女の[レア特典]は大当たり!
スキル[瞬歩]が彼女のレア特典。MPを消費するが、一瞬で10mくらいを瞬間移動する。瞬歩からの攻撃は威力も増す。ステータスが上がり、強い武器を入手すれば、中々の武闘家になるだろう……ただ、今の彼女には2連発が精一杯。硬い敵も倒せず、連発すると戦闘力も落ちてしまう。
そんな時が私の出番。
私の職業は[召喚士]。
召喚士は滅多にいない超激レア特典……なのだが、できるのが[ランダム召喚]のみ。こちらが超微妙……何が出てくるか解らない召喚、そして初期MPも低め……トータルで見ると、ガチャにハズレた足手まとい……
……なので、いつもトモちゃんが前衛。硬そうな魔物が出たら、前衛のトモちゃんが敵の注意を引きつつ、私がランダム召喚、ハズレの召喚だったら、二人で逃げ出し、後で大笑いする……を繰り返していた。(ちなみに、失敗の確率の方が圧倒的に多いです…)
そんな2人が、初心者向けの街道で、ヤバい相手[サンドワーム]に出会ってしまった。
トモちゃんと一緒に見たサイトの「出会ったら危険!」ランキング1位。出現位置は30mくらい離れているのだが、こちらが逃げるとあっという間に追いつかれる。移動速度ではなく、伸縮速度が速いらしい。
体長は、推定60m以上。普通の剣では斬れない硬さ。中級者以上になるまでは、絶対出会いたくない魔物……サイトにはそうあった。
「召喚で時間稼ぎして!その間に私がっ!」
トモちゃんが後方に下がった。いつも彼女は決断が早い。私は言われるがままに召喚を始めた。
怖い……でも、巨大なチンアナゴだと思えば何とか戦える!
……不気味な大口が、ヤツメウナギにしか見えないけど……
ちなみに、チンアナゴはアナゴの仲間だけど、ヤツメウナギはウナギの仲間ではない。どうでもいい事だ。私は、窮地の時に、どうでもいい事を良く思い出す。
[ランダム召喚の杖]私の初期装備。大当たりの[召喚士]の中の大外れの[ランダム召喚]。でも、この杖が無いと、私は召喚すら出来ない。
新体操のクラブくらいの長さで、先端にピンポン球程度の水晶が付いている。この水晶の光る強さで、ある程度これから出てくる『召喚獣』の強さが解るのだが、
「豆電球!」なんてトモちゃんには茶化されている。強く光った試しがないからだ。
でも今回は、結構光っている!
召喚獣もまだ出て来ない!これも良い兆候だ。強い召喚獣ほど時間が掛かる!(…と、説明にはあった!)
「当たり、引いたかも!!」
トモちゃんに伝えようと、振り向いた時、
……
……トモちゃんがいない?!
……
(サンドワームに喰われた?!)
……いや、サンドワームは動いていない。
攻撃を仕掛けたり、慌てて逃げ出したりしなければ、急には襲って来ない……サイトにはそう載ってた(……ただし、いずれは攻撃される。)
遥か後方に、逃げ去る人影が見えた。
トモちゃんでは無い……はず。
トモちゃんがあの位置まで行くには、あの位置まで行くには、[瞬歩]を連発しないと……
……
……そういう事か…………
「時間稼ぎして!その間に私がっ!」
……私が…「逃げる」……だったのか……
熊に遭遇した時に助かる方法。
……隣の奴より早く逃げる!
……ジョークのようなホントのような笑い話。
私は、窮地の時に、どうでもいい事を良く思い出す。
「ギャウウウゥ!!」
サンドワームが吠えた!
前に向き直ると、大口を開いて攻撃体制のサンドワームが迫っていた。
でも、それより目に入ったのは、
「?!」
かつてない光を放っていた私の杖!!
そして、
……
光が消えた時には、サンドワームの首が切り落とされていた。
黒い煙に変わり、さらに砂か灰のようになって地面に落ちて積もる……魔物独特の消え方。
倒せた……
一瞬だったが、翼のある召喚獣が見えた。
超スピードでサンドワームを切断し、すぐに消えた……
火風地雷水(かふちらす)……サイトの覚え方にそう書いてあった。
ゲームアプリでよくある三すくみ属性、
赤>緑>青>赤>……という優位性。
この『世界』では、
火>風>地>雷>水>火>……の5すくみ。
サンドワームは地属性。私のランダム召喚で呼べた召喚獣は、多分、風属性。
運良く優位属性の召喚獣が呼べたので、一瞬で倒せた。
…そして運悪く、MPが0になった。
MPが0になったので、召喚獣は勝手に消えた。
MPは気力、精神力でもある。立っているのも辛くなり、近くの岩に座り込んだ。
……そして更に運悪く、この一帯は、サンドワームが地中から現れるくらいの、一面の砂……
砂漠地帯……休んでいれば自動回復するMPだが、砂漠では回復しない。
日が暮れかかっている。
夜に活動する冒険者はいない。ただでさえ街移動が減っている中、絶望へのカウントダウンが始まっていた。MP0が続くと、思考が鈍り、眠くなり、死に至る……夜まで持ちそうにない……
(……私……死んじゃうのかな?)
(……夢なのに……現実じゃないはずなのに……)
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